1. DRESS [ドレス]トップ
  2. 恋愛/結婚/離婚
  3. わたしは愛される実験をはじめた。第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

わたしは愛される実験をはじめた。第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

Share

【読むだけでモテる恋愛小説51話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

 私はひとり暮らしの部屋でスマホをにらんでいた。

『これを理解しないと現代の恋愛はむずかしい』私は送信した。『LINEの本質?

『イケメンを誘う前に教えておくわ』

 ベニコさんから返信がきた。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じなのだろう。

『それは〝空気感〟よ』

『空気感?』

『LINEは内容よりテンポだといったでしょう?』ベニコさんは送信した。『それと同じことよ。LINEは文章の内容や話題よりも、やりとりを通して、なんでもいいあえるノリを作りあげるツールなの。空気感のツール。究極的にはね』

『なんでもいいあえる関係、ですか』私は数少ない男性とのはずんだLINEを思いだした。いや、まあ、相手のコミュ力がすごいだけで、気づいたら返信はこなくなったわけですけど。『友達に送るみたいに、ふざけたり、しょうもないこといってもOKみたいな感じですか』

『それを恋愛認知学では〝フランクシップ〟と呼ぶ』

 私はタイプミスかなと思った。『それってフレンドシップと違うんですか?』

『スフィンクスとチワワくらい違うわ』

『四つ足なのに全然ちがう』

『いい?』ベニコさんは送信した。『フレンドではないの。友達として馴れ合いたいわけじゃないから。あくまで異性として意識しながら、なんでも言いあえる特別なポジションを狙うのよ。特にタイガー(モテる価値の高い男性)に対して有効ね。ほかの女と差別化できる』

『なるほど。あくまで男女の緊張感は持ちつつって感じですね』

『逆にいえば、モテる人間は、フランクシップを結ぶのが上手いのよ。スパッと本音をいえたり、からかったり。そして気軽に誘ったり──というわけね』

『あ、たしかに』私は送信した。『モテるひとって距離つめるの上手いですよね。さらっと誘われて気づいたら飲むことになってた、みたいな感じ』

『なのに、あんたみたいなパンケーキ女は丁寧なLINEを送って、かしこまった関係性を作ってしまうのよ。お礼にしても〝ありがと〟でいいのに長文を送ってしまう。デートを誘うのにも重大な依頼をするみたいに切りだしてしまう──パーフェクトに空気感をミスってる』

 その言葉は三条商店街のなかにある日本刀匠の流れをくむ刃物屋〝菊一文字〟で売ってる包丁みたいに刺さった。私はデートに誘うにも、あ、あの、もしよかったら──と、すっごい下手から長文絵文字を送りつけるパンケーキ女だった。

 嫌われたくないからそうしてたつもりだった。でも、たぶん空気を読めてないのは私の方だったんだと思う。誘った瞬間、当然のように返信はこなくなった。

『でも』私は送信した。『具体的にどうやったら、そのフランクシップが結べるんです?』

『パンケーキちゃん』

『ミホです』

『すでに教えたはずよ』

 私はスマホをにぎる自分の手をみつめた。数秒後に「そっか」と、私はいった。これまで身につけてきた恋愛認知学のメソッド。その一つ一つがフランクシップを結ぶために必要なことだったんだ──すでに学んでいた。

『フランクシップさえ結べば』ベニコさんは送信した。『どう転んでもデートには誘いだせるわ。誘うという感覚ですらないのがわかるはずよ。コミュニケーションの基本はいつだって接してほしいように、まず、こちらが接することから──つまりフランクに接してほしければ?』

 私は数秒考えた。『こっちがフランクに接することからですか』

『オフコース』

『なんか深いですね』

『いうまでもなくLINEの目的はデートにこぎつけること』ベニコさんは送信した。『そのために必要なのがフランクシップというわけね』

『なんだか難しくなってきましたね』私は唇を結んだ。『フランクに接するのか』

『悩んだときは力をぬいた方がいいときよ』

『はい?』

『LINEは最大限の細心さで考えぬいて最大限の軽薄さで送るものだから』

 私はベニコさんとのLINEを終えた。

     ※

 私はお茶をいれなおした。座椅子にかけた。いよいよ、いよいよ。イケメンをデートに誘うのだ。パンケーキ女の長い夜がはじまりそうだった。

『ほんとそれ。軽く飲みすぎた』

 テラサキさんのLINEに〝モテる女の既読スルー〟をして終わっていた。恋愛認知学の必殺メソッドだ。

 どう返信するか考えた。真っ先に思いついたのは『寝てしまって返信できなくてすみません。そうなんですね! 昨日は飲みすぎてしまったんですね!』だった。

 でも、自分でもわかった。これは純度100のパンケーキ女の発想だ。なぜか謝ってるし──LINEは好きに返信していいツールなのに──終わった話題を続けようと媚びてしまっている。タイガー(モテる価値の高い男性)のテラサキさんには一瞬で見破られるだろう。

 そこで〝LINEの本質はフランクシップを結ぶこと〟ということばを思いだした。逆にいえばそれさえできれば、なにを送ってもいいはずだ。そう考えると気も楽だった。正解はいくつもあるだろうし、どれかひとつが優れているというわけでもなさそうだから。

 そこまで考えて、私は、机の上のピーチミントを一粒がりっと噛んだ。ぐるんと肩をまわした。ぽちぽちフリック入力した。あっさりした感じが正解な気がする。

『二日酔いですか』

 よし、これでいこう。前回、既読スルーしたのは悪いと思ってないし──まさにモテる女のスタンスだ──なんとなく声をかけました、みたいな感じ。

 ほかに『今日、寒すぎません?』と、まったく関係ない話題を投げることも考えた。どちらがいいのか迷った。でも、それこそモテる女にいわせればどっちでもいいのだろう。大事なのは、相手の心に触れるか触れないかじゃなくて自分がブレるかブレないかだ。

 よし、これぞモテる女のマインド。それっぽく振る舞えてる。私はうなずいて送信ボタンを押した。ちょっと指がふるえたけど。

『二日酔いですか』

 ぽんと画面にあわれた。私は座椅子にもたれて息をついた。これでも京都市が三条の河川敷をきれいに緑の芝で整備したみたいに一大事業を成しとげた気分だった。いまは、ただ自分をほめてやりたい。

 その瞬間スマホがふるえた。直に机においていたので、めっちゃ大きな音がした。おもわず拷問で電気を流された人みたいにビクビクッとなった。既読をつけずにスマホをのぞいた。

『のこってないよ笑』

 その瞬間、きゅんきゅん胸の奥で女性ホルモンが分泌される音がした。好きな人から返信がきたというだけで世界のすべてにやさしくなれそうだった。理屈は知らないけど身体の血流もよくなってる気がする。ヤバイ薬でもやってるのかというくらい幸福感に包まれた。

 しかしここで喜んではいけない。私はイケメンの虎を釣ろうとしているのだ。

『お、さすが』私は送信した。『できる営業マン』

 私は恋愛認知学の〝さすがメソッド〟を使った。この〝さすが〟という言葉はいつでも使えるマジカルワードだ。角を立てずに、相手を持ちあげて、会話を進めることができる。普段から口癖にしていいくらい。困ったときは〝さすが〟だ。

 すぐ返信がきた。むこうもスマホを触るタイミングなのかも。『マジで鍛えられたので』

『めっちゃ自信満々』

『遺伝だけどね』テラサキさんは送信した。『親に感謝してる』

『あー、やっぱ飲めたほうが人生楽しいですもんね』

『飲めない人の前ではいえないけど』

『や、わかります』私は送信した。『損してるなとか思っちゃう』

『ぶっちゃけそれはある笑』

『ですよね笑』私は送信した。『飲めるにこしたことないですもん。正直、飲めない人といると気をつかうときあるじゃないですか』

『あー、わかる。会計とか』

『あるあるですね』

『だね笑』

 話の流れで、あえて、お酒を飲めない人を敵にまわすようなLINEをした。もちろん悪意はないけど計算はあった。これは恋愛認知学の〝ダークシェア・メソッド〟だった。人間は悪口をシェアすることで共犯関係になれる。ぐっと仲が深まるのだ。

 今回はテラサキさんが飲める人だったから〝お酒を飲めない人〟をダークシェアした。もし飲めない人だったら〝お酒を飲めない人のことを理解しようとしない人〟を話題にしたかもしれない。相手によって──相手にあわせて──なにをダークシェアするかは変わる。

 正直、行儀のいいメソッドではないかもしれない。それでも、どんな手を使ってでも、手に入れたいものがあった。私はテラサキさんとLINEしながら、そうか、これは、もう遊びじゃないんだと思った。少なくともドキドキを楽しむゲームではなくなった。

 そんなことを考えていると、心の奥に、さみしい風が吹くのを感じた。それがなんなのかはわからなかった──この感覚はなんだろう。

 スマホから顔をあげた。

 そのとき部屋のニトリの鏡のなかに自分の姿がみえた。仕事終わりに、部屋着で、なんとか必死に生活してますという感じだった。そのときピンときた。そうか。私は、この年になって、ようやく女の子から大人になろうとしてるのかもしれない。だとするなら、たぶん、このさみしさは受け入れないといけないんだろうな。

 私はスマホに視線をもどした。あいかわらずテラサキさんと居酒屋での〝ダークシェアあるある〟で盛りあがっていた。たぶん合コンのときからフランクシップは順調に結べてると思う。私はのどをならした。いまこそデートに誘うタイミングだ。

■今日の恋愛認知学メモ

・LINEの本質は空気感のツール

・【フランクシップ】異性を意識しながらも、なんでもいいあえる関係性のこと。

・【さすがメソッド】いつでも使えるマジカルワード。口癖にした方がいいかも。

・【ダークシェア・メソッド】悪口をシェアすることで仲を深める。

・よし、いまならデートに誘える気がするんだけど?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

Share

浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

関連記事

Latest Article