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わたしは愛される実験をはじめた。第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」

【読むだけでモテる恋愛小説49話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」

■第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」

 イケメンのLINEを既読スルーしてやった。

 謎の興奮のせいかスマホのアラームが鳴る前に目をさました。おそるおそるベッドのなかで確認しても『ほんとそれ。軽く飲みすぎた』というテラサキさんのLINEに既読がついたままだった。そこで終了──私の返信なし。何度、画面をみても心臓がドキドキした。

 いけないことしてる気分。

 慣れないことをすると心がおだやかじゃなかった。いままでイケメンどころか、あらゆる男子に既読スルーや未読スルーのオンパレードを食らってきたのに。まさか心から好きなイケメンに既読スルーをする日がくるなんて。もちろん、これも恋愛認知学の〝モテる女の既読スルー〟というメソッドではあるけど。

 すると出所不明のはずかしさがこみあげてきた。思わず、ああああ、と声をもらしながらベッドからおきあがった。カーテンのすきまに京都市の朝がひろがっていた。

 目をさますためにテレビをつけた。どこかの動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたというニュースをしていた。パンダの世界はLINEがなくていいなと思った。ケトルで、お湯をわかしながら、いろんなことを考えた。

 テラサキさんは既読スルーされてどう思ってるんだろう?

 私のことを嫌ってないかな。そう考えるとヒヤっとした。でも、たぶん、嫌うというよりは「あれっ?」と感じているという方が正解だと思う。私も無視されたらそうなるから。返信がないと悪いことでもしたんじゃないか──みたいに考えてしまう。なぜか嫌われたのかを気にするのは既読スルーされた方なのだ。

 それにテラサキさんはタイガー(モテる価値の高い男性)だ。いわゆるモテる男の人生ってやつだろう。女性とのLINEもいつも有利な形で進んでいたはずだ。

 たとえば既読スルーや無視をしたりは日常茶飯事だろう──イケメンなんだから。ほかにも女子からの長文LINEを「じゃあ寝るわ」なんて強制的に終わらせたりもしてそうだ。そして、たぶん、相手の子は、三日三晩、友達に相談して悩んだあげく、また長文LINEを送るんだろう──パンケーキ女の私のことじゃないかと頭からケトルをかぶりたくなった。

 とはいえ、だからこそ今回の〝モテる女の既読スルー〟は新鮮に映ったはずだ。あまりされたことのないアプローチだから。まさに「あれっ?」と思ってくれたかもしれない。だとすれば狙いどおり。いままでと違う女だなと思わせることができる。

 こぽこぽとカップにインスタント珈琲をいれた。座椅子にかけると一口飲んだ。そこで、あ、なんか冷静に考えられてるかもと思った。

 テラサキさんのことや──ドキドキした感情と距離をとれている感じ。これが相手の立場になってものを考える、ということなのかもしれない。相手の立場になって考えることで、どうアクションすればいいかがなんとなくみえてくる。

 手のなかのカップをみつめた。珈琲が半分くらい入っていた。
 
     ※
 
 以前、四条のフランソア喫茶室で、ベニコさんと話をしたときのことを思いだした。

「でも、このままじゃ嫌われそうじゃないですか? 私だって頑張ってるんですけど。私って、やっぱり恋愛むいてないのかな。ほらモテる女って生まれたときから違うし──」私は恋愛について不安でしかたなかった。「どうしたらいいんですか?」

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」

 ベニコさんはぴしゃりといった。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。

「ひどい」私はいった。「せっかく喋ってるのに」

「モテたいなら、とりあえず、その壊れかけのレディオみたいなトークをやめなさい」

「懐メロみたいになじるのやめてください」

 ベニコさんは返事しなかった。かわりに赤い布ばりの椅子で、むっちりした足を組みかえた。ちらりと視線をさげた。「一口も飲んでないわね」

「え?」私はテーブルをみた。珈琲があった。「ああ、私、ずっと話してたからですね」

「私は京都のカフェのなかでここの珈琲が一番好きなの。独特の甘みがある」

「はあ。そうなんですか」

 ベニコさんは指をならした。「想像して」

「はい?」

「あなたは、その珈琲みたいなもの」ベニコさんはいった。「カップのなかが〝あなた〟で満ちているから〝私〟の入るすきまがないわ──いまはね」

 私はぽかんとした顔をした。その意味を、とっさには理解できなかった。でもベニコさんの表情から、そこに言葉以上の意味があるのだということは感じた。
 
     ※

 そんなことを思いだしながら、私は座椅子にかけて珈琲を飲んだ。

 考えてみれば、いままで自分がどうしたいかばかりを考えていた。好きな人ができたときも「とにかく嫌われたくない」とか「ドキドキしたいから」とか。しかし、そうした行動は、ことごとく裏目にでてしまった。あっというまにLINEの返信はなくなった。

 きっとLINEやふるまいにあらわれていたんだろう。たとえば長文LINEを送られても怖いだけなのに──正直引く──パンケーキ女の私は好きという感情にまかせて送信ボタンを押していた。自分がスッキリしたいという理由だけで。そんな感情をぶつけられる男性はたまったものじゃなかったはずだ。

 しかし私たちは普段あたりまえに理解していることすら恋愛となるとひっくり返してしまう生き物だ。それを克服しないとモテる女にはなれない。ベニコさんと愛される実験をはじめて、それくらいはわかるようになってきた。

 私はカップのなかをのぞいた。珈琲はのこり半分くらいだった。たぶん、この量くらいでちょうどいいのかもしれない。そう考えると、くすっと笑えた。それから立ちあがって、朝の準備をはじめた。

 電車にのって出社した。数時間後、デスクで仕事しながら気づいたのは「なにも悩むことがない」という事実だった。

 衝撃だった。

 いつもなら仕事をしながらも気が気じゃなかった。こちらが既読スルーされる側だったから。用を足したくもないのにトイレにかけこんだり、そっと鞄をのぞいてスマホをみたこともある。そして仕事おわりもスマホに飛びついて──ため息することになる。

 でも、今回、LINEを既読スルーしてるのは私のほうだった。

 だから返信がくるかで悩む必要がなかった。待つ側じゃなくて、待たせる側。めちゃくちゃ精神的に楽だった。錯覚かもしれないけど、めっちゃ優位に立ってる感じだった。

 それにイケメンのLINEを既読スルーしてるというだけで、大雨の次の日の鴨川くらい女性ホルモンも分泌されて──蛇口全開だ──女としての自己肯定感もギュンギュン高まりまくりだった。肌も若がえってる気がする。イケメン・既読スルー・アンチエイジング。

 キーボードに顧客の住所を入力しながら、口もとがにやっとなった。そこで調子にのるなよパンケーキ女、と、ひざの上をぱしぱし叩いた。

 そして机に手をついて息をすいこんだ。とにかく余裕を持つこと。自分の感情にふりまわされないこと。強敵タイガー(モテる価値の高い男性)を狙うには、中途半端なメソッドを身につけるだけではいけない。心からモテる女のマインドを身につけないといけないのだ。

「タイガーを狙うには心を整えることから」と、私はつぶやいた。 

 その夜、帰宅すると、豚肉と白菜のミルフィーユ鍋を作った。はふはふとポン酢をたらしながら食べおわるとスマホを手にとった。壁のプーさんの絵の──買いかえようと思いつつ数年使っている──時計をみると十時すぎだった。狙ったわけじゃない。でも恋愛認知学の〝十時すぎの黄金時間メソッド〟にぴったりだった。

 よし。それじゃイケメンをデートに誘ってやりますか。

■今日の恋愛認知学メモ

・【モテる女の既読スルー】をしても嫌われたかを気にするのは既読スルーされた方。

・モテる女は自分のことばかりを大事にしない。相手のことを考える。

・どうなるかわからないけど──デートに誘ってやる。

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楽しみながら(ときに共感して泣きながら)恋愛を学べます。ミホやベニコさんも登場しますが、恋愛の相手や、解説するメソッドは異なります。ストーリーの違いも楽しみながら、貴女も愛される実験をはじめませんか?

・恋愛がうまくいかない
・デート中に何をしゃべればいいかわからない
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【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」
第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

※ この記事は2019年4月30日に公開されたものです。

浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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