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わたしは愛される実験をはじめた。第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」

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【読むだけでモテる恋愛小説56話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」

「どんなことをしてでも恋を叶えようとすることが悪いはずないわ」

 そのベニコさんの言葉は頭の奥にすこんと入った。

 夜の十時をすぎていた。地下にある京阪七条駅からあがって、あいかわらず、どの駅で降りても出くわすことになる鴨川をながめた。名前のわからない白い鳥が──鴨川には正体不明の鳥がたくさんいる──黒い水面にくちばしをさしこんでいた。

 ちょっとした気づきだった。そうだった。昔から死にものぐるいで「ほしい!」とさけんで、なにかをゲットしようとすることが苦手だった。恥ずかしいから。学生時代も社会人時代も「なにも欲しくありませんよ」みたいな顔をしていた。

 私は鉄の欄干に右手をおいた。当たり前だけど、ひやりと冷たかった。

 キラキラした夢だったり、それを叶えるスキルだったり、飲み会の真ん中の席だったり、まわりの信頼だったり。真剣に欲しがろうとすることから逃げていた。

 そして恋愛からも。

 恋人がほしくなかったわけじゃない。けれど「どんなことをしてもほしい」と叫んだことはなかった。

 心のどこかで、がむしゃらに恋を叶えるのをカッコ悪いと思っていたから。「恋人 作り方」で何時間もググったり、LINEの返信タイミングを研究したり、デート用のお店をリストアップしたり、デートの話題をあらかじめ考えたり、というふうに。その方が恋を叶えられるはずなのに。どこか恥ずかしくて、いけないことだと思っていた──どうしてかな?

 名前のわからない白い鳥はびくっとふるえた。川の底から、虫か魚をとらえたみたいだった。飲みこむそぶりをすると長い羽をひろげて謎のストレッチをした。

 私はピーチミントを一粒とりだすと、がりっと噛んだ。そこで気づいた。たぶん、私は、まわりに好かれようと必死なのを自分で認めたくなかったんだ。自分がモテないことを認めることができなかったんだ。そして失敗して傷つきたくなかった。

 もう一度、鴨川に目をやると白い鳥はどこかに消えていた。

 「どんなことをしてでも恋を叶えようとすることが悪いはずないわ」

 そっと声にだしてみた。

 もちろん絶対の正解だとは思わない。けれど、いまの私には、どうしても叶えたい恋があった。そのためには、どんなことだってするつもりだった。どんなこと──もちろんスーツケースにぎっしり札束をつめて「これで手を打ちましょう」と交渉したり、拳銃をつきつけて「私と付き合え」と脅すという意味でなかった。

     ※

 テラサキさんとのデートまで十日あった。

 とにかく恋愛認知学を復習することにした。メモを読み返しまくった。

『新しいソファさがしてるんですけど』私はときおりテラサキさんに送信した。デートまでテンションを保つためのチューニングLINEだった。『全然ピンとこないんですよ』

『けっこうみてんの?』

『みすぎて家にソファの幻がみえますよ』

『完全に危ないやつじゃん』

『いまも幻のソファにすわってLINEしてますから』

『もう怖い話だろ笑』テラサキさんは送信した。『てか俺もソファほしかったんだよね』

 そこで既読をつけて、丸一日放置したりもした。まさに「そんなにLINEをベタづきで楽しみたがるほどモテない暇な女じゃないのよ」みたいな感じで。チューニングLINEはあくまでデートにつなげるためのもの。気がむいたらLINEするくらい。男性にウケるのは、そういう気負わない軽さだった──いや全部ベニコさんの受け売りなんですけど。

 もういくつ寝るとテラサキさんとデートなのだ。

 そう考えるだけで、つい仕事中もニヤニヤしてしまった。ていうか駅のホームでも、家でパスタを茹でながらもニヤニヤしていた。そしてカルボナーラを作りながら、イケメンとデートの予定があるだけで、どうして人生はバラ色に輝くんだろうとか考えた。そんなことを考えているうちにカルボナーラソースの卵が固まってボソボソになったりもした。

 しかしデート当日が近づくにつれ、そのボソボソになったりもするニヤニヤはソワソワになった。ふと部屋のなかで立ちあがっては、ああああああと意味不明に叫びながら崩れ落ちて、スマホをながめたりした。

 次の瞬間、私はカーペットの上に寝ころびながら電話をかけた。「ベニコさん、すごい不安なんですけど。こう、デート当日に使える、最強の恋愛認知学のメソッドみたいなの教えてもらえません?」

 しばらく返事はなかった。

「ベニコさん?」

 さらに返事はなかった。私はむくりとカーペットの上に正座して忠犬ハチ公よりも待った。

「あれ、ベニコさん? 聞こえてます?」

「聞こえてるわ」ベニコさんは息をついた。あいかわらず、ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイクで、アメリカンドラマのキャリアウーマンという感じなのだろう。「またパンケーキ女がなにかいいだしたなと思って」

「ひどい」

「基本的に世界はひどいものよ」ベニコさんはいった。テーブルにカップを置くような音がした。「貴女にこの真実を教える役目になってしまって残念だわ」

「そういうことじゃありません。不安なんです。デートが上手くいくか。もったいぶらずにデートで使える恋愛認知学のメソッドを教えてくださいよ」

「即物的な女という名のパンケーキ」

「え、サクブン? なにがです?」

「なんでもないわ」ベニコさんはいった。また数秒ほどカップを口に運ぶような間があった。

「美容と、メイクと、ファッションに気をつけることね」

「え」

「どうしたの?」

「普通すぎません?」私はぽかんと口をあけた。「ベニコさんのことだから、もっと男心に効くメソッドを教えてくれると思ってたから──ほら勝負の日も近づいてるし」

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」

「シンプルになじられた」

「いい?」ベニコさんはいった。「すべてをメソッドで解決しようとするのは野暮。むしろ美容やメイクやファッションを磨いてこそ、メソッドの効果があらわれるのよ。恋愛のアプローチは身だしなみを整えること、メソッドを身につけること、この二つがそろって完全よ。これを〝パーフェクト・レディの法則〟と呼ぶ」

「いわれてみると確かに」私はうなずいた。そのあと数秒おくれていった。「てか、メイクもファッションもサボってませんから」

「わかってるわ」ベニコさんは笑った。「不安なときは足下をチェックしなさい、というだけの話よ──私たちの愛される実験を信じることね。本命男とのデートを前に、不安におそわれる気持はわかるわ。だれだって大きく運命が動く前にはおそろしくもなるものよ。だからこそ私たちは腰をすえて、その未来を見定めるのみ」

「でも──」私はそれでも不安だった。

 スマホの奥で声がした。「不安なときは、その先に幸せの予感があるときよ」

 その言葉は胸の奥にじわりと響いた。

 そうか、と、つぶやいた。私はいつも恋が叶いそうになると不安になってしまう。その先に幸せがありそうで、同時に、それを逃すことを考えてしまうから。でも、たぶん、この不安をなくすことはできないんだ。幸せと不安はセットだから。この不安とむきあって、アクションできた女だけが幸せになれるのかも。

 私はカーペットの上で立ちあがった。

 ひとり暮らしの部屋のなかでうなずいた。そのためには、いままで積み重ねてきたものを信じるしかなさそうだった。私は愛される実験をとおして──すこしは──受け身なパンケーキ女から変われたはずだから。

 その日から恋愛認知学の復習と、自分磨きをすることにした。ついベニコさんに口答えしたけれど、たしかに恋愛認知学さえあればどうにかなると考えがちだったから。でも、コミュニケーションを学んだからといって、メイクやファッションを怠っていいことにはならない。とにかく不安を吹き飛ばすには、後ろめたくない毎日を送るしかなさそうだった。

 そしてデート前夜、お風呂場で、クレンジングオイルをぬったあと、ネットで洗顔石けんをふわふわに泡だてて洗って、お風呂上がりに試供品のブースター化粧水をつけたあと、楽天で半額で買ったちょっといい化粧水をひたひた肌にしみこませて──ちゃんと肌質にあうことはテスト済みだ──ふだんは30枚2000円だけど思いきってドラッグストアで買った1枚300円のフェイスマスクをぴたんと装着した。

 鏡をのぞいた。そこにいたのは、パジャマ姿の、オペラ座の怪人みたいな女だった。おなじ愛の狩人ではあるかもしれない。なんとなく京都駅の劇団四季劇場に出演してるつもりでポーズをとったら、すっごい恥ずかしかった。

 いまのはなかったことにして私はスマホをとった。

『じゃ』私は送信した。『明日、京都駅のスタバ前で』

 これはホールドLINEだった。デートの前日や、二日前に、待ち合わせについて、確認や修正のLINEを送ることで、ドタキャンを防ぐというもの。

 壁にはった〝デートは、当日、相手の顔をみるまで気をぬかないこと〟をながめた。デートはドタキャンさせずに確実につかみとるものだ。これぞ恋愛認知学。

『おけ』五分くらいでテラサキさんから返信がきた。『てか二十時にいけそう』

『おけです。じゃ二十時で』

 そこで、お互いにスタンプを送り合った。胸に手を当てると、心臓が、なかなかの速度でビートを奏でていた。テラサキさんの文面をみた。じわっとフェイスマスクの下の顔があつくなった。恋にのぼせるオペラ座の怪人だった。もうこのまま、夢の中で、テラサキさんの心にひそみてパンケーキ女の歌をささやきかけてやる勢いだった。

 明日、私の人生は大きく動くことになるのだろう。負けるものか。

■今日の恋愛認知学メモ

わた愛

・【パーフェクト・レディの法則】恋愛のアプローチは身だしなみを整えることと、メソッドを身につけることのふたつをそろえること。メソッドだけではいけない。

・不安なときは、その先に幸せの予感があるとき。

・いよいよ明日──めちゃくちゃドキドキする。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」

\祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定/

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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