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わたしは愛される実験をはじめた。第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」

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【読むだけでモテる恋愛小説34話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」

 すっかり夜の空気は満ちていた。やさしい支配者みたいに。鴨川の水面がきらきら反射する。その暗がりのなかで、私は、昨日の合コンの話をした。

「パンケーキちゃんは実に興味ぶかい状況にあるわ」

「なにがですか?」

タイガー&フィッシュ理論」ベニコさんはあごに指をそえた。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぽっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「私たちは難度の高いモテそうな男(タイガー)に挑戦するか、難度の低いモテない男(フィッシュ)を捕獲するだけ——だったわね?」

「バッチリおぼえてます」私はうなずいた。

「そこから恋愛認知学が導きだした最適解〝トロピカルフィッシュ戦略〟とは〝ほかの女が狙わないフィッシュの群れから光る男性をみつける〟というもの」

「やけに強調しますね」私はうなずいた。「それがどうかしたんですか?」

「気づかない?」ベニコさんはにやりと笑った。「昨日の合コンの話を聞くかぎり、あなたはすでにトロピカルフィッシュを得つつあるのよ」

「まじですか」おもわず声をあげた。せきこみそうになった。「どこに?」

 ベニコさんは私の鞄からのぞくスマホを指さした。

 雲の少ない京都の夜空をながめて数秒考えた。さすがのパンケーキ女でも意味がわかった。「それって、もしかして高校教師のクリタさんですか?」

「イエス」

「なんで彼が?」

「あなたの話によれば学歴も教師としてのランクも高い——もうすぐ教育委員会に抜擢されるわけでしょう。エリートじゃない。おとなしいってだけで、見た目も、人間性も悪くなさそう」

「そりゃそうですけど——」

 私はクリタさんのことを考えようとした。正直、どうにか思いだせるのは、未来感のあるアップルウオッチと黒縁の眼鏡くらい。顔もぼやけている。あとは熱帯魚を飼ってたとか——まさにトロピカルフィッシュだとふふっとなった——それくらいだった。

「そもそも」ベニコさんはキューティクルの強い髪をかきあげた。「冷静に判断できるほど記憶にも残ってないってところかしらね」

 私はドキっとした。「え、どうしてわかるんです?」

イケメンの腕の血管は食い入るようにみつめるくせに、興味のない男のことは顔すらすぐに忘れてしまう。そもそも知ろうともしない。眼中にないとかいって。そこから得られるものもあるはずなのに。見たいものしか見ようとしない——それもパンケーキ女の悪い癖よ」

「ううう、いまのでテラサキさんの腕の血管は思いだせました。反論できません」

「なぜ、いまいち乗り気になれないかわかる?」

「え、クリタさんですよね? 好みじゃないからですか?」

「そんな言葉で片づけないで、もっと掘りさげなさい」ベニコさんはいった。「一番まずかったのは、まさに彼が〝モテない男のアプローチ〟をしたことよ。合コンでおどおどした様子をみせたり、その夜にLINEでデートに誘うとか——そんな攻め方じゃ女の遺伝子に響かない」

「女の遺伝子に響かないって、すごいワードですね」

 ベニコさんはうなずいた。「あなたの本能は、なにひとつ動かされなかった。モテるオスの匂いがしなかったから。でも、それだけなのよ。逆にモテそうにないということ以外で、欠点はあった?」

「そういわれると——」私は眉をよせた。「なんか案外エリートだし、誠実そうだし、ていうかLINE送ってくれたし、優良物件な感じはしてきますね」

「理性で考えるとそうなるわね」と、ベニコさんはちらりと私をみた。「理性ではね」

「な、なんです?」私は心を見透かされている気がして強がった。

「反対に、そのテラサキという男はタイガーね。顔がよくて、まわりの男に一目置かれて、自信ある態度で、その場にいるだけで女がよってくるタイプ」

 テラサキ、という名前を聞いただけでドキっとした。なにも足もとにないし、歩いてもないのに河川敷でコケそうになった。鼻に力を入れて、なんでもない顔を全力で作った。

「つまり」ベニコさんはひとさし指をたてた。「あなたは〝トロピカルフィッシュとタイガーのどちらを狙うか?〟という女の人生における究極の二択を迫られているのよ」

「トロピカルフィッシュとタイガー? まじですか?」私は声はうわずった。

「贅沢なパンケーキよ」ベニコさんはいった。「で、どっちを狙うの?」

 私はまばたきした。おもいがけない二択だった。タイガーのテラサキさんはカッコいいしもっとデートをしてみたい。イケメン彼氏をつれて歩くのは女のあこがれだ。トロピカルフィッシュのクリタさんは真面目そうだし、なにより好意をよせてくれている。優秀な恋人として、ずっと大事にしてくれそう。お腹の奥がぐるぐるした。

「ちなみにですけど」私は前かがみになった。「それって、どちらも狙っちゃだめなんですか?」

「さすがパンケーキ女はセコいことを考えるわね」

「自分でもわかってます」

 ベニコさんは首をふった。「それは恋愛認知学の〝タイマンセオリー〟に反する。片方を狙うと、もう片方に知られると考えるべきよ。少なくとも初心者のうちは——もし両方を攻めていることがバレたら、そんな女だったのかと一気にポジションはさがってしまう」

 私を息をついた。「欲をかいたら二人とも逃しちゃうってことですね」

 そっとベニコさんの顔をのぞいた。メイクの濃い目はあいかわらず、なんでも、お見通しのようだった。すでに私がどちらを選ぶかを知っているのだ。いつものように、このまま黙っていれば、どうすればいいか教えてくれるにちがいない。安心だ。

 そのとき背筋に予感が走った。いや、いや、そうじゃない。心のなかで、ぶんぶん音がするくらい首をふった。ベニコさんは、その上で、こちらが口にするのを待っているのだ。

 相手は自分のことをわかってくれてるから言葉にしないでいい——なんて甘えだ。そのくせ、わかってるはずだと勝手に期待して、あとから裏切られた、そんなつもりじゃなかった、なんて騒いだりして。そんなのは愛される女なんかじゃない。私たちは、想いを、ちゃんと言葉にしないといけない。

「ベニコさん」

 鴨川に浮かぶ夜をながめていたベニコさんはふりかえった。その表情はなにかを語りかけている気がした。ルージュが印象的だった。

「私、どうしてもテラサキさんのことが忘れられません」私の声はふるえていた。「合コンでしゃべってるときもドキドキできたし、楽しかった。どんなことも笑えた。こんな男性と人生をすごせたらステキだなと思う。もちろん彼はタイガーです。モテそうな男性です。だから私の本能がひきつけられてるだけかもしれません。パンケーキ女みたいに。でも、どうしても浮かぶのはテラサキさんの顔なんです。忘れられない。ほかの男性のことは考えられない。この瞬間のこの気持は——いうことをきかないとおもう」

 私はありったけの想いを口にした。言葉が、次の言葉を呼んで、こんなことを考えていたのかと自分でもおどろいた。それでも言葉にせずにいられなかった。「なんか、やっぱり私は、本能に逆らえないパンケーキ女なんでしょうか?」

「いえ」ベニコさんは首をふった。「はじめにいったように、どちらを選んでも正解よ」

「ほんとですか?」

「女の一生は理屈どおりにいかないわ。すべてが理論やメソッドで運ぶわけがない。人生にはぶつかるしかないときも——引くに引けない感情もある。なにも私は、あなたに好きなものを嫌いになれとか、嫌いなものを好きになれとかいうつもりはないの。後悔してほしくないだけ。あなたがテラサキという虎を狩りたいのなら、そのまま走りなさい——ただ」

「ただ?」私はぐっと身をよせた。

「あなたが決めたことよ?」ベニコさんの声は一段小さくなった。なのに、その言葉は重みがあった。「全力を尽くしなさい。その結果を受け入れる覚悟も持つことね」

 私は十秒ほどだまった。「はい」

 鴨川をのぞいた。その黒いながれの奥をみた。強敵タイガーである、テラサキさんの顔が浮かんだ。こわいけれど引き返せないのはわかっていた。いまも、私の恋心がそうしてほしいと告げていたから。

■今日の恋愛認知学メモ

・興味のない男性のことをおぼえようとしないのは悪い癖。

・大事なことは言葉にしないといけない。〝わかってくれるだろう〟は禁物。

・人生には引けない感情もある。結果を受け入れる覚悟はいるけど。

・パンケーキ女なのかもしれないけど——やっぱり忘れられない。

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浅田 悠介

マジシャン。日本催眠心理協会認定 心理療法士。ツイッターで恋愛テク語ってます。

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