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わたしは愛される実験をはじめた。第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」

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【読むだけでモテる恋愛小説34話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」

■第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」

 すっかり夜の空気は満ちていた。やさしい支配者みたいに。鴨川の水面がきらきら反射する。その暗がりのなかで、私は、昨日の合コンの話をした。

「パンケーキちゃんは実に興味ぶかい状況にあるわ」

「なにがですか?」

タイガー&フィッシュ理論」ベニコさんはあごに指をそえた。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぽっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「私たちは難度の高いモテそうな男(タイガー)に挑戦するか、難度の低いモテない男(フィッシュ)を捕獲するだけ——だったわね?」

「バッチリおぼえてます」私はうなずいた。

「そこから恋愛認知学が導きだした最適解〝トロピカルフィッシュ戦略〟とは〝ほかの女が狙わないフィッシュの群れから光る男性をみつける〟というもの」

「やけに強調しますね」私はうなずいた。「それがどうかしたんですか?」

「気づかない?」ベニコさんはにやりと笑った。「昨日の合コンの話を聞くかぎり、あなたはすでにトロピカルフィッシュを得つつあるのよ」

「まじですか」おもわず声をあげた。せきこみそうになった。「どこに?」

 ベニコさんは私の鞄からのぞくスマホを指さした。

 雲の少ない京都の夜空をながめて数秒考えた。さすがのパンケーキ女でも意味がわかった。「それって、もしかして高校教師のクリタさんですか?」

「イエス」

「なんで彼が?」

「あなたの話によれば学歴も教師としてのランクも高い——もうすぐ教育委員会に抜擢されるわけでしょう。エリートじゃない。おとなしいってだけで、見た目も、人間性も悪くなさそう」

「そりゃそうですけど——」

 私はクリタさんのことを考えようとした。正直、どうにか思いだせるのは、未来感のあるアップルウオッチと黒縁の眼鏡くらい。顔もぼやけている。あとは熱帯魚を飼ってたとか——まさにトロピカルフィッシュだとふふっとなった——それくらいだった。

「そもそも」ベニコさんはキューティクルの強い髪をかきあげた。「冷静に判断できるほど記憶にも残ってないってところかしらね」

 私はドキっとした。「え、どうしてわかるんです?」

イケメンの腕の血管は食い入るようにみつめるくせに、興味のない男のことは顔すらすぐに忘れてしまう。そもそも知ろうともしない。眼中にないとかいって。そこから得られるものもあるはずなのに。見たいものしか見ようとしない——それもパンケーキ女の悪い癖よ」

「ううう、いまのでテラサキさんの腕の血管は思いだせました。反論できません」

「なぜ、いまいち乗り気になれないかわかる?」

「え、クリタさんですよね? 好みじゃないからですか?」

「そんな言葉で片づけないで、もっと掘りさげなさい」ベニコさんはいった。「一番まずかったのは、まさに彼が〝モテない男のアプローチ〟をしたことよ。合コンでおどおどした様子をみせたり、その夜にLINEでデートに誘うとか——そんな攻め方じゃ女の遺伝子に響かない」

「女の遺伝子に響かないって、すごいワードですね」

 ベニコさんはうなずいた。「あなたの本能は、なにひとつ動かされなかった。モテるオスの匂いがしなかったから。でも、それだけなのよ。逆にモテそうにないということ以外で、欠点はあった?」

「そういわれると——」私は眉をよせた。「なんか案外エリートだし、誠実そうだし、ていうかLINE送ってくれたし、優良物件な感じはしてきますね」

「理性で考えるとそうなるわね」と、ベニコさんはちらりと私をみた。「理性ではね」

「な、なんです?」私は心を見透かされている気がして強がった。

「反対に、そのテラサキという男はタイガーね。顔がよくて、まわりの男に一目置かれて、自信ある態度で、その場にいるだけで女がよってくるタイプ」

 テラサキ、という名前を聞いただけでドキっとした。なにも足もとにないし、歩いてもないのに河川敷でコケそうになった。鼻に力を入れて、なんでもない顔を全力で作った。

「つまり」ベニコさんはひとさし指をたてた。「あなたは〝トロピカルフィッシュとタイガーのどちらを狙うか?〟という女の人生における究極の二択を迫られているのよ」

「トロピカルフィッシュとタイガー? まじですか?」私は声はうわずった。

「贅沢なパンケーキよ」ベニコさんはいった。「で、どっちを狙うの?」

 私はまばたきした。おもいがけない二択だった。タイガーのテラサキさんはカッコいいしもっとデートをしてみたい。イケメン彼氏をつれて歩くのは女のあこがれだ。トロピカルフィッシュのクリタさんは真面目そうだし、なにより好意をよせてくれている。優秀な恋人として、ずっと大事にしてくれそう。お腹の奥がぐるぐるした。

「ちなみにですけど」私は前かがみになった。「それって、どちらも狙っちゃだめなんですか?」

「さすがパンケーキ女はセコいことを考えるわね」

「自分でもわかってます」

 ベニコさんは首をふった。「それは恋愛認知学の〝タイマンセオリー〟に反する。片方を狙うと、もう片方に知られると考えるべきよ。少なくとも初心者のうちは——もし両方を攻めていることがバレたら、そんな女だったのかと一気にポジションはさがってしまう」

 私を息をついた。「欲をかいたら二人とも逃しちゃうってことですね」

 そっとベニコさんの顔をのぞいた。メイクの濃い目はあいかわらず、なんでも、お見通しのようだった。すでに私がどちらを選ぶかを知っているのだ。いつものように、このまま黙っていれば、どうすればいいか教えてくれるにちがいない。安心だ。

 そのとき背筋に予感が走った。いや、いや、そうじゃない。心のなかで、ぶんぶん音がするくらい首をふった。ベニコさんは、その上で、こちらが口にするのを待っているのだ。

 相手は自分のことをわかってくれてるから言葉にしないでいい——なんて甘えだ。そのくせ、わかってるはずだと勝手に期待して、あとから裏切られた、そんなつもりじゃなかった、なんて騒いだりして。そんなのは愛される女なんかじゃない。私たちは、想いを、ちゃんと言葉にしないといけない。

「ベニコさん」

 鴨川に浮かぶ夜をながめていたベニコさんはふりかえった。その表情はなにかを語りかけている気がした。ルージュが印象的だった。

「私、どうしてもテラサキさんのことが忘れられません」私の声はふるえていた。「合コンでしゃべってるときもドキドキできたし、楽しかった。どんなことも笑えた。こんな男性と人生をすごせたらステキだなと思う。もちろん彼はタイガーです。モテそうな男性です。だから私の本能がひきつけられてるだけかもしれません。パンケーキ女みたいに。でも、どうしても浮かぶのはテラサキさんの顔なんです。忘れられない。ほかの男性のことは考えられない。この瞬間のこの気持は——いうことをきかないとおもう」

 私はありったけの想いを口にした。言葉が、次の言葉を呼んで、こんなことを考えていたのかと自分でもおどろいた。それでも言葉にせずにいられなかった。「なんか、やっぱり私は、本能に逆らえないパンケーキ女なんでしょうか?」

「いえ」ベニコさんは首をふった。「はじめにいったように、どちらを選んでも正解よ」

「ほんとですか?」

「女の一生は理屈どおりにいかないわ。すべてが理論やメソッドで運ぶわけがない。人生にはぶつかるしかないときも——引くに引けない感情もある。なにも私は、あなたに好きなものを嫌いになれとか、嫌いなものを好きになれとかいうつもりはないの。後悔してほしくないだけ。あなたがテラサキという虎を狩りたいのなら、そのまま走りなさい——ただ」

「ただ?」私はぐっと身をよせた。

「あなたが決めたことよ?」ベニコさんの声は一段小さくなった。なのに、その言葉は重みがあった。「全力を尽くしなさい。その結果を受け入れる覚悟も持つことね」

 私は十秒ほどだまった。「はい」

 鴨川をのぞいた。その黒いながれの奥をみた。強敵タイガーである、テラサキさんの顔が浮かんだ。こわいけれど引き返せないのはわかっていた。いまも、私の恋心がそうしてほしいと告げていたから。

■今日の恋愛認知学メモ

・興味のない男性のことをおぼえようとしないのは悪い癖。

・大事なことは言葉にしないといけない。〝わかってくれるだろう〟は禁物。

・人生には引けない感情もある。結果を受け入れる覚悟はいるけど。

・パンケーキ女なのかもしれないけど——やっぱり忘れられない。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛テク語りまくってます。

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