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わたしは愛される実験をはじめた。第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」

【読むだけでモテる恋愛小説38話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」

■第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」

 笑ってはいけない。

 だれとでも顔をあわせたときに真剣な表情でいること。自分を価値の高い女だとおもわせるために。それが愛される女になる恋愛認知学のメソッド〝フェイシング〟だった。

 翌日から、私は、練習をはじめた。

 朝の七時半、ゴミ袋を手に玄関の扉をあけると、横の部屋の女性とでくわした。おとなしい感じのひとだ。ルッキングという目をそらさない技術を練習したときから「今日は風強いですねえ」と挨拶はするようになっていた。他人のふりをするよりはずっといい。恋愛認知学は日常をここちよくすごす方法でもあるのかなと思う。

「おはようございます」と顔をあわせた瞬間、私は一人目のターゲットだと意気ごんだ。メイクしたての顔に力をこめると「フェイシングモードオン」と、仮面ライダーが変身するみたいに心のなかでさけんだ。ぐぐっと顔の筋肉をひきしめる。

 これで隣人も私の虜だろう。しかし彼女は「あ、え? ふふっ」と戸惑いながら笑うと、おじぎして、そそくさ階段をおりていった。二分後、電柱のもとにゴミ袋をおきながら恥ずかしさで死にたくなった。

 次は、三日に一度の楽しみのコンビニだった。のろのろ必要でもない雑誌をながめるふりでタイミングを測って、店内の鏡で、フェイシングがキモくないか確認して、そそくさ彼がいるレジにピーチミントをおいた。隠れイケメンである黒縁の眼鏡男子だった。

 彼は商品をみると顔をあげた。なぜか三日ごとに几帳面にやってくるピーチミントばかりを買うパンケーキ女だと気づいたのかもしれない。

 私はフェイシングフェイシングと心のなかでくりかえした。くっと力をいれないように力を入れて──矛盾してるとは思う──顔をつくった。朝のひとときに女優が有名なパン屋でベーグルを買いにきてますみたいな感じを気どった。

「なんか、変えました?」

 そのとき彼と目があった。私のキモい統計によると、彼は七回に一回くらいの確率ではなしかけてくれる──ぶっきらぼうだけど。その眼鏡の奥の涼しげな目つきは、私の心の奥の奥の奥にサバイバルナイフみたいに突き刺さった。そのSっぽい感じに弱いのだ。

「あ、は、はい」と、私は、へらっと笑ってしまった。

 その瞬間、われながら完璧に媚びてるみたいだと思った。いまにも店内のスピーカーから「パンケーキ女、アウト」という音が流れてきそうだった。とたんに顔が赤くなってる気がして、あわてて顔をさげて財布の小銭を集めるふりをした。あきらめて千円札をだした。

 けれど彼のおかげで、それ以降気が楽になった。職場についてからは、まわりと会話するときに真面目な表情でいられた。へらへら笑うことなく、真剣な感じで言葉を返した。そうしていると心のなかまでおちついてくるみたいだった。

 すぐに気づいたのは、真剣な顔をしても、案外、コミュニケーションはさくさく進んでいくということだった。

 私が媚びるように笑わなくなったからといって、だれも気にしなかった。まったくの普通だった。嫌な気にさせることもなさそうだった。それどころか「ちゃんと話をきいていますよ」というアピールになるらしかった。フェイシングをしていると、自分の言葉のひとつひとつに重みが増して、その場の重要人物になれている気すらした。

 次の火曜日。ベニコさんとのレッスン会場である、京都四条のフランソア喫茶室にいった。

 私は珈琲カップをおいた。「フェイシングをしてると、みんなも、ちょっとした会話のときにへらっと笑ってるんだって気づいたんです。相手の機嫌をうかがうみたいに。私だけじゃなかったんですね。ていうか私も恋愛認知学を知るまでは、あんな感じだったのかなって」

「それで?」

「私にまで、その、へらっとした笑い顔がむけられるようになってきたんです。空気が変わってくるというか。笑った方が負けた感じになる、みたいな」

「メソッドの狙いどおりね」赤い布ばりの椅子にかけてベニコさんはいった。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。ブラックスーツを着て、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「ドラマの登場人物も媚びるように笑う方がしたっぱで、真剣な顔をしてる方が重要人物でしょう? あなたはフェイシングをすることで自分のポジションを上げたのよ。同時にまわりのポジションを下げさせた。いい? 私たちは価値の高い女でいるために、へらへら媚びてはいけないの」

「いわれたときはわかんなかったけど、実際にやってみたあとではしっくりきます」

「エレガントに自滅を誘う方法」ベニコさんは右手を花の咲くようにひろげた。「いいかえれば、モテる女は自然と、自分のポジションをあげて、相手のポジションをさげるふるまいを身につけているの。それを真似ることでモテる女になる──フェイシングもそのバリエーション──まさに恋愛認知学のセオリーそのものね」

「はあ」

「どうしたのかしら?」

「関心してるんです」私はいった。「ベニコさんの教えって全部の筋がとおってるから」

「かもね」ベニコさんはうなずいた。「ずっと私はひとつのことを言葉を変えて語ってるだけよ。モテるとはモテるふりができるということ。生物学的にも、心理学的にも、それは真なり」

 ベニコさんのアイメイクの濃い目がむけられた。強いまなざしだった。

 気押されて、へらっと笑いそうになるのをグッとこらえた。まだまだわからないことばかりだった。それでも人生が変わってくる実感はあった。もっと恋愛認知学を学びたい。もっと恋愛というものを知ってみたい。私は顔に力をこめた。またキモい表情になってるかもしれないけど、それでも一歩ずつ身につけようと思った。

「あの」私はいった。「このフェイシングをしてると、ずっと笑顔になっちゃいけないみたいな気分になるんですけど──いつなら笑ってもいいんですか?」

「好きに笑えばいいのよ」ベニコさんは微笑んだ。「フェイシングを〝笑わないようにするメソッド〟でなく〝相手の機嫌をうかがうために笑わないメソッド〟だと考えなさい。おもしろくもないのに〝嫌われたくないから〟なんて理由で笑ってるうちはモテない女よ。その場はとりつくろえるかもしれないけど──媚びてるあいだは攻撃されないから──愛される女にはなりえない。ゆっくり自殺してるようなものね」

「ゆっくり自殺、ですか」その言葉にぞっとした。

「本当のことよ」ベニコさんはいった。「コミュニケーションにはそういう罠がひそんでいるわ。まわりの機嫌うかがいや、その場しのぎの対応ばかり続けていると、だれの記憶にものこらない女になってしまう。パンケーキちゃん。この世でいちばん悲しいものってなにかわかる?」

「え、サービス残業ですか?」

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんはぴしゃりといった。

「ひどい」私は唇をとがらせたあと天井をながめた。「てか、それって正解はなくないですか?」

「だからこそ人生がわかるわ」ベニコさんはカップを手にとった。黒い水面をみつめたあと口につけた。「忘れられた女よ」

 フランソア喫茶室は古びた色の壁に複製画をかけてあった。カップを傾けるベニコさんの後ろにも。フェルメールの真珠の耳かざりの少女。その数百年前に描かれた視線は、いまも胸にせまる。「なんか、それって、すごく悲しいことですね」と私はいった。

「風のように忘れてばかりよ」

 沈黙があった。となりの老夫婦が席を立った。

「パンケーキ女なんて、忘れられる対象でしかないんでしょうか」

「逆に考えればいいわ」ベニコさんは首をふった。「愛される女は、男の記憶にのこる女だとね。たとえ運命のいたずらで結ばれなかったとしても──そういうこともあるわ──何十年もあとに〝あいつはいい女だったな〟と思いだしてもらえる女になりなさい」

 その言葉はじんわり胸にひろがった。そんなこと考えたこともなかった。私でも、だれかの記憶にのこるような女になれるのかな。いや、これから狙おうというタイガー(モテる男性)のテラサキさんの心にのこる女になってやる。そう考えるとドキドキした。

 私は鞄からスマホをとりだした。「それで出会ったあとに送るLINEで教えてほしいことがあるんですけど──」

■今日の恋愛認知学メモ

・フェイシングはまわりのポジションをさげられる。

・〝嫌われたくないから〟なんて理由で笑ってはいけない。

・まだ合コンのあとのLINEを返してなかったけど──どう返信すればいいの?

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【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」
第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

2019年1月1日公開
2019年12月22日更新

浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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