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わたしは愛される実験をはじめた。第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」

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【読むだけでモテる恋愛小説40話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」

■第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」

 興味ない男子からLINEくることってあるじゃない。

 どう返信すればいいんだろう。京都四条のフランソア喫茶室で、私は、愛されるレッスンを受けていた。恋愛対象外にも〝リスペクト〟を持った対応をすることが大事らしい。

「あなたが恋愛をしたいのはわかる」ベニコさんはいった。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。ブラックスーツを着て、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「でも、だからといって恋愛対象外に失礼にふるまっていいわけじゃないわ。まわりの人間を大事にできない女は三流よ」

「そりゃそうですよね」私はカップを手にうなずいた。「みんな人間ですから」

「いい?」ベニコさんはいった。「モテないパンケーキ女に限って、好かれたい男にだけ媚びを売って、興味のない男を冷たくあしらう。そんな女がモテるわけがない。例え興味はひけても愛される女にはなれないわ。他人によって態度を変える異性とずっといたいと思う?」

 私はぞっと背筋が寒くなった。自分のことに思えたから。確かに、好きになった男性には笑顔でもなんでもふりまきたくなる。反対に興味ない男子のことはどうでもいいとか──むしろキモいとか邪魔とか──考えてしまう。猛烈に反省した。

「ちょっとモテたからってなにをしてもいいわけじゃないんですね」私は自分に言い聞かせるようにうなずいた。手もとのスマホをながめた。数日前、合コンの夜にきた、クリタさんからのデートの誘いを放置したままだった。「それじゃ〝まことに申し訳ございません。熟考の結果、あなたとデートにいくことはできません〟って断ればいいんですか?」

「野暮の極みという名のパンケーキ」

「ミホです」

「なんでもいいわ」

 私は唇をとがらせた。「てか、まじめに考えたんですけど」

「もう大人なんだから〝最近忙しくて、ちょっと落ち着いたら〟と、お察しくださいのトーンでいいわ。本音と建前の国なんだから。カジュアルな感じで。いやらしくなくね」

「でも、それじゃ、あいまいすぎません? いつまでもLINEしてきたり、しつこくアプローチしてくる男性もいそうですけど」

「いい?」ベニコさんはひとさし指を立てた。「こちらが大人の対応をした以上、そこから先は相手の問題よ。むこうに悪いからってLINEを続けるのもおかしな話。ヤバイ男にも気をつけないとね。数回やりとりしたらモテる女らしく──そうふるまう恋愛認知学らしく──既読スルーでもすればいいわ。自分に恥じないことをしたのであれば、あとは仕方なしよ」

「そこはバッサリなんだ」

「人生にそこまで時間はないわ。自分を幸せにするだけで忙しいのに」ベニコさんは赤い布ばりの椅子でむっちりした足を組みかえた。「とはいえ──すべてを断る必要もない。〝恋人にできるかどうか?〟でしか男をみないのもパンケーキ女の悪いくせよ。恋愛対象外でも、気のいい友人になるかもしれない。あちらも、せめて魅力を感じた異性とは友達でいたいものよ」

「なるほど。男性とは、恋愛以外の楽しみ方もあるってことですよね」

「人生のランダムを楽しむのね」

「合コンとか、紹介とか、出会いの話を持ってきてくれるかもしれませんよね」と、私はそこで心配になった。断れないからと変にやさしくしたら、めちゃくちゃ男性からLINEがきて迷惑してた子がいた。「でも中途半端に引きとめたら〝まだいけるかも〟とか暴走しません?」

「そうならないように主導権をにぎって、相手を選べるならってことね」ベニコさんは手にしたカップを数秒間ながめた。「コミュニケーションに必要なのは遠慮でなく節度なの」

「はい?」私は眉をよせた。「遠慮と節度? どう違うんですか?」

「節度は、本来あるべき、大人の距離感のこと」ベニコさんはなにかの距離でも測るみたいに両手をひろげた。「遠慮はそのずっと手前にあるわ。まだまだキッパリ主張していいのに相手の顔色をうかがって折れてしまうのね。節度はモテる女。遠慮はパンケーキ女よ」

 思わず口に運ぼうとしたカップをとめた。その言葉がピシッと胸にささったから。いわれてみれば──いままで遠慮を素晴らしいことだと考えていたかも。まわりのために身を引く感じがえらいみたいな。でも、それは相手の顔色を気にして、本来、ちゃんと主張すべきことができていないだけだったんだ。

「そっか」私はうなずいた。「もっと自分の意見をいってよかったんですね」

「あとは少しずつ返信のタイミングを遅らせて暗に語ることもできるわ」

「もう言葉以外でも脈ナシだっていうわけですか」

「興味深いことに」ベニコさんはひとさし指を立てた。「これらはモテる女のふるまいでもあるのよ。モテる女は男からのアプローチになれっこで、毎日充実してるから、誘ってもなかなかイエスといってくれない。自信があるから顔色も気にしない。だから好きなタイミングで返信する──まさに恋愛認知学のメソッドそのものよね」

「どういうことです?」私は首をかしげた。

 ベニコさんは髪をはらった。あいかわらずキューティクルの強い髪だった。「つまりモテるふるまいを真似ていたつもりが──恋愛認知学のメソッドどおりに──いつのまにか本当にモテる女のふるまいをするしかなくなるわけ。もはや真似でなくなる。それがますます男の心をひきつける。その繰りかえし。いわばモテの上昇気流が発生するのよ」

「モテの上昇気流ってすごい言葉ですね」

「まさに」ベニコさんはうなずいた。赤いネイルの、ひとさし指を、らせん階段みたいにぐるぐるまわしながら上にむけた。「ナチュラルにモテる──愛される女の完成よ」

 私はおもわず息をのんだ。よくできたパズルの正解でも聞いたみたいだった。

「まあ、パンケーキちゃんがそうなるのは、アポロ300号が宇宙の最深部にたどりつくほど遠い先の話ね」

「未来すぎません?」

「長生きしなさい」ベニコさんは笑った。

 私はあらためて恋愛認知学のすごさを感じた。モテるためのメソッドを積みかさねていると、いつのまにか本当のモテる女になっているなんて考えるだけでゾクゾクした。ひとは学びさえすれば生まれかわることができるのかも。

「とにかく一歩ずつモテる大人の対応をすることですね──返信しないと」私はスマホに顔をおとした。緑のLINEのアイコンをおした。「たしかに恋愛対象外だからって失礼なことはできませんよね。グサっと〝あなたに魅力を感じないからデートにいくつもりはありません〟なんていえないですもん。返信を遅くするとか、やんわり断るとか──」

 そこで「ん?」と頭の片隅がもやっとした。その直後にライトグリーンの光がぴかんと浮かんだ。額にじわっと汗が浮かんだ。

「あの、ベニコさん」私のスマホと手はふるえていた。視界がゆれそうだった。

「なに?」

「私、いままで男性にそういう大人の対応をされてたかも」私は細い声をだした。恥ずかしさのあまり目の前のグラスのなかみを氷ごと頭にふりかけたかった。「返信で〝いそがしい〟とか〝タイミングが悪くて〟とか。やんわり断られるっていうか。なのに気づかずに何度もLINEしてました。それを信じて、まだ押せばいけるはずだって。それなのに、ある日、返信がこなくなって〝どうしたんだろう〟とか悩んでたりしました」

 ベニコさんはカップを手にとった。

「どうしよ、めっちゃ恥ずかしい」私は両手で口もとをかくした。「あのひとたちは、突然、音信不通になる失礼な男子、とかじゃなかったんだ。むしろストレートにいえないから察してくれよって伝えてくれてた。大人の対応で。それに子どもの私は気づけなかった。とっくに脈ナシだと断られてたんだ──なのに信じようとするパンケーキ女だったんですね?」

 ベニコさんはアイメイクの濃い顔をむけたままなにもいわなかった。

「本当にいそがしいんだろうなとか考えてた」私はいままでの男性の顔を浮かべた。こぼれるように言葉がでてきた。「なんか、私、すごい子どもだった」

 心をおさえるみたいに珈琲を飲んだ。指先がふるえていた。レトロな柱のかげから喫茶室のクラシック音楽が聞こえた。ずっと流れていたことに気づかなかった。

 しばらく二人とも無言だった。

「時間をおいてから、相手のやさしさに気づくこともあるわね」

「はい」十秒後、どうにか私の口をでた返事はこれだけだった。

「こう考えなさい」ベニコさんはいった。「あなたが、これから、まわりに与えるやさしさも、それくらい時間をかけて相手に届くものだとね。だから、すぐに相手が変わってくれなかったり、こちらの真意を理解されなくても、悲しんだり、腹を立てないこと。本物の言葉はいつか届く、そして心に響く。そういう日がくると信じて生みだすものよ」

 私は時間をかけてなずいた。「わかりました」

 そこでベニコさんは赤いネイルの指を鳴らした。古びた喫茶室に、そのクリスタルの弾けたような音は響いた。「それじゃ本題に移りましょうか。あなたが手に入れたい本命男子。価値の高い男。強敵。私たちが心をひきつけられずにいられないタイガー(モテる男性)のテラサキという男には、どうアプローチすべきか教えるわ」

■今日の恋愛認知学メモ

・断るときは「最近忙しくて、また落ち着いたらお願いします」といった返信をする。しつこく返事がきたら既読スルーもしかたない──いつまでも付き合うのもおかしな話だから。

・【モテの上昇気流】モテるふるまいが次のモテを呼んで、モテるふるまいをするしかなくなる──またモテる──というくりかえしのこと。

・すでにフラれてるのに気づくことって、すごく大事なんだ。

・ドキドキする。強敵タイガーとはどうやってLINEすべきなの?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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