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わたしは愛される実験をはじめた。第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」

【読むだけでモテる恋愛小説57話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」

恋愛 わた愛

 スマホのめざましが鳴る四十分前に目をさました。

 今日はテラサキさんとのデートだ、と飛びおきたけれど、その前に会社だった。

 そわそわした気持ちのまま出社準備をして、メイクをして、いつもは飲まない紅茶を淹れた。アパートの扉をしめて、電車に乗って、三条駅の構内を歩くだけでも、胸の底がざわざわする──楽しみでもある。職場で、新規顧客の名簿をエクセルに打ちこみながら、なぜか甲子園にいどむ高校球児はこんな気持ちなのかなと思った。つまり、ぶるっとした。

 夜の六時になると──業務はキーボード界のウサイン・ボルトくらいの速度でこなした──ぴゅんすか帰宅した。

 鏡の前で、あらかじめ前夜にセットした服を着る。リブタートルの半袖ニットに、ミディ丈のフレアスカート。ヒールは足が一番きれいにみえる七センチヒールにしようか、歩きやすい五センチヒールにしようか迷った、けれど、ここは意地でもシャム猫みたいに美しく歩いてやるわと七センチの方を選んだ。メイクもばっちり、夜のデート仕様だ。

 玄関のドアノブに手をかけた。

 あ、と、そこで手をはなした。ふうっと息をはくと、バッグからピーチミントを一粒とりだして、がりっと噛んだ。そして扉をあけた。

     ※

 京都駅に降り立った。

 中央改札をでたあと構内をみあげると、黒くて、直線的で、あいかわらず京都がピンチになったときにロボットになって助けてくれそうな雰囲気だった。駅を出ると、その永遠のライバルみたいな感じで、白くて、にゅっとした京都タワーが光っていた。

 目の前のロータリーにバスがとまった。バスから降りてきたスーツや私服の京都市民たちに道をゆずった。マーク・バイ・マークジェイコブスの腕時計をみた。もうすぐ、八時だった。待ち合わせ時刻は──八時十五分。あの足下にあるスタバ前だった。

 以前の私だったら、すぐにスタバ前にいって待っていただろうなと思った。一分でも遅刻したら嫌われるかもしれないし、時間前から待っているのが健気で可愛い感じがするから。

 しかし、私は京都駅前で首をふった。

 健気で可愛いのはわかる──私も男だったらそういう女の子を好きになりたい。でも相手はタイガー(モテる男性)のテラサキさんだ。女性を見抜くセンサーはピカイチだろう。健気に女子が待っていても「へえ、俺を好きで必死なんだな」と判断されるだけ。初っぱなからポジションが下がってしまう。

 京都の夜空に息をふんとはいた。

 ここは恋愛認知学の〝デートの待ち合わせに、あえて数分ほど遅刻してポジションを作る〟という〝遅刻メソッド〟を使うときかもしれない。出会い頭から、さっそくモテる女のスタンスをつきつけるのだ。失礼になりかねないので使いどころを選ぶけれど──ちょっとリスキーでもある──いまがそのときだろう。

 まさかイケメン相手に遅刻してみせるなんて。元パンケーキ女の私からすれば──いや今もパンケーキ女なんですけど──成長したもんだ。ちょっと誇らしかった。

 そのとき大学生くらいの黒髪カップルに声をかけられた。ドナルドダックのストラップをつけたスマホを手にしていた。「すいません。あの、写真とってもらえませんか?」 

 状況を飲みこんだ。その京都旅行にきたらしい男女は京都タワーを背景に記念写真をとってほしいらしかった。キュンとしたので大人の女らしいスマイルで──イケメンとデートをする女にふさわしいスマイルで──スマホを受けとった。

 私はスマホをかかげた。その画面に、京都の夜と、京都タワーと、大学生カップルが映った。素敵な写真をとってあげるから、と、そのとき画面のなかで京都タワーが白く震えているのに気づいた。京都市全土を直下型の地震が襲ったわけでなかった。

 デートをひかえて緊張しているんだ。

 どうにか写真を撮って、スマホをわたしたあと、私はクルッと方向転換した。やばいやばいやばいやばい。意識すると──もうダメだった。あと十五分くらい。京都駅のなかにもどって、ぐんぐん進んだ。そして灰色のタイルの上を歩きながら考えた。

 スマホの〝恋愛認知学メモ〟を読みかえした。ベニコさんから学んだメソッドやマインドを書きだしてあった。そこに「デートの前に緊張したときは──」で、はじまる文章をみつけた。京都駅をこそこそ歩きながら読みこんだ。そこには、こうあった。

【出会い頭の三手メソッド】 デート前の緊張は〝未来がどうなるかわからない〟という不安からやってくる。だからこそ〝未来でどう行動するか?〟を、あらかじめ考えて準備することで緊張は減らせる。具体的には、出会い頭にしゃべることを三つ考えておくこと。挨拶でも、天気の話でも、LINEの内容でも、相手のファッションにふれるのでもいい──どの順番に声をかけるかまで。まったくイメージできない未来におびえるだけなのがパンケーキ女。少しでも未来を作りだそうとアクションできるのがモテる女。

「なるほど」と、私はいった。自分のメモなのに──ベニコさんはどこまで予想して私にメモをさせたのかな──最後のパンケーキ女が心に刺さったのはナイショだ。

 気づけば京都駅を歩ききって、東の端にある劇団四季の京都劇場についてしまった。いつのまにか床のタイルもレッドカーペット調になっている。そのまま赤い階段をのぼって、劇場に入りかけたところでハッと我にかえった。オペラ座の怪人をみてる場合じゃない。

 エントランスの前で胸に手をあてた。

 ふうと息をついた。残りの時間を、テラサキさんになんて声をかけるべきかを考えるために使うことにした。おびえるだけじゃない。タイムマシンがなくても未来は変えられる。パンケーキ女を卒業するんだ。一手、二手、三手、と考えてやろうじゃないの。

 頭のなかでテラサキさんを想像した。仕事帰りだからスーツだろうな、ちょっと余裕のある感じで。LINEでは日本酒の話で盛りあがってたけど、ほかに話題はあったかな。フランクシップを築けたから誘えたんだし、たぶん、かしこまった雰囲気はNGだろう。こう声をかけると、こう反応するだろうから、ここに触れて、あの話を持ちだして──というふうに。

 海にもぐるみたいに、ふっと心が静まるのを感じた。未来をイメージすることで、じんわり緊張はおさまるみたいだった。想像してドキドキするだけじゃなくて、その未来像のなかで、どう行動するかまでを考えるのが大事らしい。

 たぶん未来はコントロール不可能な怖いものじゃない。むしろ自分のアクション次第で形を変えられるはずだ。これまでの愛される実験で、それを実感してきたんだから。

 時計をみると八時十五分だった。そろそろテラサキさんが到着したはずだ。きょろきょろ探しているに違いない──私のことを考えながら──ポジションゲット。

 よし、いこう。

 このまま四分くらい遅れて合流しよう。劇場のレッドカーペット調の階段を、七センチのヒールで、慎重に、最上級のセレブみたいに降りながら歩きだした。

 大丈夫。恋愛認知学がついている。もはや〝遅刻メソッド〟と〝出会い頭の三手メソッド〟で準備万端。まさかデート前から、ここまで考えることがあるなんて。

 気分はモテる女のつもりで、京都駅をぬけて、ロータリーを通過して、横断歩道をわたって、京都タワーの下にあるスターバックスにむかった。

 すると遠目に、テラス席の前で、高身長のスーツ姿をみつけた。ドキッとなった。けれど表情をひきしめて──頭のなかで用意したセリフをくりかえしながら近づいた。

「あの」と、声をだしかけたところでおどろいた。

 全然、イケメンじゃなかったから。というか、テラサキさんじゃなかった。あわてて遠ざかって周囲をみまわした。テラス席の周辺を、スタバの店先を、ガラスごしの店内を、路上の通行人を、向かい側の歩道を。三十秒後、状況を理解した。肌がぞわっとした。

 時刻は、八時十九分。テラサキさんの姿はなかった。

■今日の恋愛認知学メモ

恋愛 認知学

・【遅刻メソッド】デートの待ち合わせに、あえて数分ほど遅刻してポジションを作るメソッド

・【出会い頭の三手メソッド】具体的には、出会い頭にしゃべることを三つ考えておくこと。どの順番に声をかけるかまで。

・未来は恐れるものではなくて変えるもの。

・え、まさか、これって──どういうことなの?

【祝・わた愛が書籍化しました!】

貴女の恋を叶える「魔法の本」を書きました。

楽しみながら(ときに共感して泣きながら)恋愛を学べます。ミホやベニコさんも登場しますが、恋愛の相手や、解説するメソッドは異なります。ストーリーの違いも楽しみながら、貴女も愛される実験をはじめませんか?

・恋愛がうまくいかない
・デート中に何をしゃべればいいかわからない
・付き合ったあとに関係を長続きさせたい
・脈ありサインの一覧がほしい
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・振り回される恋から逆転したい
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・LINEの返信がないところから復活したい
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【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」
第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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