わたしは愛される実験をはじめた。第63話「雑魚っぽいと思われないための恋愛術」
【読むだけでモテる恋愛小説63話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ!」 ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。
「別のとこで飲み直しませんか?」と、私はいった。
京都タワーの地下にあるフードコート〝京都タワーサンド〟にて。食事の終盤に口をついた台詞だった。やっぱり好きな人とは、もっと、いたくなるものだから。なんでもない顔で提案しながらも内心ドキドキしていた。
とはいえ〝もっとドキドキしたいから〟というだけで二件目に誘ってはいけない。
こちらの目的は〝デート当日に長時間すごすこと〟ではないから。むしろ〝これからもずっと過ごすこと〟のはず。二軒目に誘う理由は〝もっと深い精神的なつながりを得られそうだから〟という理由でなくてはいけない──シビアにいこう。
そうじゃないと自分勝手なデートになってしまう。いつか連絡もとだえるだろう。私はテーブルの上で右手をにぎりしめた。爪が手のひらに食いこんだ。
「お、いくか」と、イケメンのテラサキさんの返事はあっさりしたものだった。
そこで私はホッとした。いわば二軒目に誘うのは、それ自体が、それまでの交流やデートで合格できているかのテストになる。赤点は免れたらしい。
※
「──とはいえ」フランソア喫茶室にて、デートの講義を受けているときにベニコさんはいった。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「本質的には〝私があなたを審査する側なのよ〟という姿勢でいることが大事なの」
「なんですかそれ」私はカップを両手に包んで首をひねった。「審査する側?」
「パンケーキちゃん」
「何度も繰り返してますが、私の名前は、完全にミホです」
「これも世界の真実よ」ベニコさんは私の抗議を無視した。「この世は、パーフェクトに品定めする側とされる側にわかれているの。職場でも、友人でも、恋愛でも。そして常に品定めする側にポジションがある──主導権はやってくる」
「はあ、でも、それって何を審査してるんですか?」
「その人物に価値があるかどうか」
その言葉はグサッと胸に刺さった。バターの塊にナイフを差しこむみたいに。こちとら学校の教室でも、友人の集まりでも、職場の人間関係でも、いつも品定めされては雑に扱われてきたパンケーキ女だったから。
「ベニコさん」私は死にかけのカワウソみたいな表情だった。「いつも〝つまらない女〟だなって判定されてきた気がします──つらすぎる──どうすれば審査される側を脱出できるんですか?」
「この世は弱肉強食。食われたくなければ、食う側にまわるのね」
「はい? いま食事の話してませんよ?」
「審査する側にまわること」ベニコさんはむっちりした足を組みかえた。「まず〝この私は相手にふさわしいだろうか〟と心配する癖をやめることね。むしろ〝相手は私にふさわしいだろうか〟のマインドでいること──堂々としてなさい」
「おお、たしかに。その気持ちで、デートも誘えたら強そうですね」
「相手のイエスを勝ち取るとは〝これは価値ある人物の誘いのようだ〟と感じさせることなの」
「価値ある?」私は目をぱちぱちさせた。自分を指さした。「正直そこまで自信ありません」
「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんはぴしゃりといった。
「なんかひさしぶりになじられた」
「いい?」ベニコさんはひとさし指を立てた。「だれだって自信はないものよ。だからこそ私たちは自信があるふりをできる人間がどうかを試されているの。少なくとも、それくらい自信に満ちたふるまいで誘うべきなのよ。魅力的な、お店を調べて、しっかりデートプランも提案するのは当然としてね。いわば貴女の誘いは、誰もが行きたがるプレミアムライブの紹介券をわたすようなものであるべきなのよ。それさえ守れば誘い方はなんでもいいわ」
「はあ」と、私はぽかんと口をあけた。
ベニコさんはカップに口をつけた。やさしい表情だった。「どうか心してね。世界が貴女を審査してるんじゃない。貴女が世界を審査するんだってことを」
※
夜の十時前だった。
私たちはフードコート内の名店たちにトレイを返してまわった。二軒目に行くのが決まったからには、もう席に未練はなかった。テラサキさんが、ばさっとジャケットを着なおす仕草にキュンキュンしたのは内緒だ。ていうか、ふわっと甘い香りもした。
焼き鳥屋のカウンター席で、つかれた顔の会社員が、スマホで動画をみながら串をかじっていた。そこに、お皿を重ねたトレイを返却した。テラサキさんの顔をみあげた。「え、普通にいってみたいとこあるんですけど、いいですか」
「お、いいね。そこしよ」
「ちょっと目をつけてたんですよね。近くなんで」
私たちは中華料理屋の前を通りすぎた。カウンター内で、バイトの学生っぽい店員さんが熱心に紙にメモをしていた。人生を変えるアイデアでも思いついたのかもしれない。
「いや、ミホちゃんってすごいよね」テラサキさんは髪をかきあげながらいった。内心、その色っぽいポーズはなんですかとドキっとした。もちろん顔には出さないけど。
「またですか」私は笑った。「めちゃ褒めてくれる」
「気がきくのもそうだけど。話をしてるとハッとすることもあるし。いまもそうだけどさ、さっとお店を提案できる子っていないよ。なんか、自分から人生を楽しもうとしてる感じがするんだよな」
「うれしい」私は、その言葉で舞いあがってるわけじゃありませんから、と声のトーンを抑えめで返事をした。「ありがとうございます」
「それができるやつは少ないよ。ほら、大人になると、どんどんチャレンジできなくなってくるじゃん?」
ラーメン屋の前を四歩くらい歩いたところで返事をした。「チャレンジですか」
「まわりもさ」テラサキさんはいった。「学生時代から一緒に歩いてたはずがさ。いつのまにかみんな脱落してくんだよね。ある日、あれっと後ろをふりかえると、みんな立ち止まって、この生活で満足してます、みたいな顔してる──ちょっと感覚的な話すぎたな」
「いえ」私はしっかり言葉にした。そうしないといけない気がしたから。「わかりますよ」
そのとき、テラサキさんは私の顔をみた。
なにかを見つけたみたいに。その顔が完全にコンプリートにイケメンなのはもちろんなんだけど。私はがんばって、すました顔を作った。恋愛認知学のフェイシング(真顔でポジションを強めるメソッド)だった。ここで顔を赤らめたり、へらっと笑うと一気にダメになるんだろうなという気がしたから──この場の空気のなかに存在するとても大事な何かが。
「ありがとう」テラサキさんはなぜか嬉しそうだった。「個人的な話でごめんね」
「大丈夫ですよ。基本的に、話って、個人的なものじゃないですか」
たぶんテラサキさんは、すごく大事な話をしてくれているんだと思った。テラサキさんにとって重要な話を──それが何であるかは本人にもわからないのかも。だとしたら私の仕事は、それに耳を傾けることなのだろう。
そのとき気づいた。私たちは常に話し相手を探しているのだ。どんな話の? だれにも理解されないかもしれないとビクビクしながら心の奥にとじこめている、とても個人的な物語の。
それを、この子になら本当の俺の物語を話してもわかってくれるかもしれない。かけがえのない存在になってくれるかもしれない。そう感じさせることが大切なのだ。
くれぐれも恋をしたい相手とは〝本当の人生の話〟をすること。もちろん相手に本当の話を語らせるのは簡単なことじゃない。誰だって、本当の話をして、理解されずに、傷ついてきた経験があるはずだから。そのためには、第一に、しっかり人生と向き合っている子だなと感じさせること。ささいな話にも理解をしめすこと。穏やかさをみせること。
今回のデートをふりかえった。イケメンのタイガー(モテる男性)相手にちょっとくらいは戦えてるかも。いままでの私だったら、ただ楽しくデートして、ああ楽しかった、と終わっていただけだった──そして翌日からLINEが返ってこないパターンに突入だ。私たちは、その先にいかなくてはならない、らしい。楽しいだけのデートは卒業するぞと誓った。
「あ、パンケーキ」そこで、突然、テラサキさんは声をあげた。
その言葉に心臓が消し飛びそうになった。風船に針をさしたみたいに。え、え、パンケーキって、まさか私が恋愛認知学のメソッドを駆使しているだけで、本当は、ただのモテない女──頭にバケツ五杯分のホイップクリームのつまったパンケーキ女だということがバレてしまったのかな、さすがイケメンタイガーのテラサキさん、さっき、あれだけカッコいいことを考えてたのにめっちゃ恥ずかしいんですけど、もうやだ、パンケーキ女だとバレたからには終わった、さようならテラサキさん、私の恋心、なんてことを考えた。ここまで1.5秒。
「ここパンケーキ屋さんもあるんだ。女子めっちゃ好きだよね」
テラサキさんが指さす方向をみた。蕎麦屋の奥にパンケーキショップがあった。私は全力で「ああ、そうなんですね」と、うなずいたけど、すごいキモい顔をしてたと思う。
やっぱり私はいつまでもパンケーキ女なのね。心のなかでつぶやいた。
■今日の恋愛認知学メモ
・デートの二軒目は〝もっと深い精神的なつながりを得る〟ために誘うこと
・常に〝相手は私にふさわしいだろうか〟という姿勢でいること
・デートの誘いは〝私といることに価値を感じているなら当然OKするでしょ〟というマインドで誘うこと。そのためにデートプランを練るのも大事。
・最終的には深い理解をしめして〝この子になら俺の本当の物語を話してもわかってくれるかもしれない〟と思わせることが理想。
・ついに二件目のデートに突入。めちゃくちゃドキドキする……!
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(「わたしは愛される実験をはじめた。」の過去エピソード一覧は こちら)