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わたしは愛される実験をはじめた。第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」

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【読むだけでモテる恋愛小説8話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」

■第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」

「デートはどれだけ事前に策を練るかよ」

「え? せっかくのデートなんだから普通に楽しめばよくないですか?」

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんは息をついた。ずんぐり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。まさに海外ドラマのキャリアウーマンという雰囲気だった。「へらへらノープランで待ち合わせ場所にいって、スカスカな話をして、それで男心をつかまえられるほどいい女なの? それで成功したことがあった?」

「いやまあ」私は笑った。「タイミングとかあるし、そのとき次第じゃないですか?」

「都合のいい言葉でごまかすのがパンケーキ女ね。あんたがモテない女だっただけ」

「そんなパンケーキパンケーキいわないでくださいよ」

「恋愛は甘い戦争よ」ベニコさんはいった。「戦いとは相手が想像するより、ずっと前にはじまってるものなの。準備したものだけに勝利する資格がある。戦の最上の勝ち方とは、相手がはじまったと思ったときに終わっているもの——シビアにいきましょう」

 かくして策を練ることになった。

 待ち合わせのマクドナルド前で、どんなふうに集合しよう? どんなルートをたどるか——予約した料理屋は観光地の錦市場だから、ちょっと散歩もいいかも。お店でどんな会話をする? カウンター? テーブル? そのあと時間があれば?

 想像するだけで顔が熱くなった。指もふるえた。確かに、いきなり本番をむかえるのも怖い。

 そうだ。デートだ。デートなのだ。そう考えると心がそわそわした。

 その興奮は生活にも流れこんだ。ふと夜中に掃除機をかけたくなった。朝は携帯がなる前に目がさめた。三条駅で定期券をおとしたおばあちゃんに走って声をかけた。バリバリ仕事をこなして、帰り道スーパーによって野菜と豚肉を買った。ポストにたまったビラを捨てた。クックパッドの“絶品豚汁”と“ほうれん草の巣ごもり卵”をつくった。なぜかエネルギッシュな自分がいた。

 これがデート効果か。座椅子にかけて、おなかいっぱいのお腹に手をあて「私は週末にデートする女だぞ」と口にだしてみた。すぐ隣人に聞こえてないか恥ずかしくなった。

「楽しそうですね」

 そのテンションが顔にでていたのかもしれない。朝のコンビニで、無造作ヘアのイケメン眼鏡男子に声をかけられた。意識せずともルッキングできるようになっていたけれど、まさか声をかけられるとは。

「あ、あ、どうも」私は顔を赤らめてしまった。

 それ以上、会話はなかった。けれど眼鏡の奥の、涼しげな瞳に、私は心臓を射ぬかれた。商品のピーチミントにシールをはりながら、ちょっとSっぽく微笑んでいる——この眼鏡男子はこんな表情もできるのか。今週末オクムラさんとデートなのに。なにをときめいているのだ。己を戒めようと、店の外で、自分の鼻をつねると痛かった。

 前日、薄くほこりの積もった姿見をふいた。床にコートやシャツやセーターをならべてファッションショーを開催した。ネイビーのタートルニット、フレアぎみのスカート、とろみ素材のシャツワンピなんかを体にあてると、自動的に顔がにやけてしまう。このドキドキはひさしぶりだった。

 その夜、オクムラさんと軽いLINEをした。さっと短文で、待ち合わせ時間と、場所の確認くらい。そのあとの「楽しみにしてます」というオクムラさんのメッセージは既読スルーした。私はデートくらい毎週こなすモテる女なのよ、というわけだ。

 しかし、いよいよだ。会うのは三ヶ月ぶり——ちょっとは変われただろうか?

 シャワーをあびて化粧水と乳液を念入りにつけた。しかしベッドに入っても、なかなか寝つけなかった。つい、あんなことやこんなことまで想像してしまう。枕もとのスマホをみると二時間たっていた。われながら遠足前日の小学生みたいだった。

 大丈夫。絶対。ほんとに。恋愛認知学がついてるから。

 布団を首まであげた。暗がりのなかの天井をみた。ベニコさんに教わった、デート用の恋愛認知学メソッドを復習していると、いつのまにか意識を失うことができた。おぼえてないけど、いい夢だったと思う。

 翌日の6時5分すぎ、四条木屋町のマクドナルド前にむかった。すぐに黄色いアルファベットを背にして、コートのポケットに手を入れるオクムラさんの姿をみつけた。その瞬間、胸の奥がぼうっとなる。遅れたことを盛大に謝りたくなった。しかし眉をひきしめて——私は愛される女になるのだ——あまり下手にでるのはやめにした。

「遅れました」私は軽く頭をさげた。

「あ、どうも」オクムラさんは姿勢をなおして、こちらこそと頭をさげた。細身の身長は百七十くらい。なんだか律儀な人だった。「いや、寒いすね」

 デートで待たされた側は相手のことを考えるしかない。そのあいだ相手に主導権をわたしていることになる。それが待たせた側のポジションになる。もちろん遅刻は5分くらいの可愛いものにとどめること。謝ることも——謝りすぎないことも——忘れない。

「おひさしぶりです」私はルッキングをしながら用意した台詞をいった。この流れは想定していた。「今日はなにしてたんですか?」

「お昼ですか? 部屋の掃除と——ほら、コインランドリーですよ」

「あ、まだ洗濯機の修理きてないんですよね?」

「土日くらいしか時間がないのに」オクムラさんは恥ずかしそうに頭をかいた。「ほんとめんどくさいです」

 待ち合わせは雑談から入る。あらたまる必要はない。LINEで作ったフレンドリーな空気をそのまま持ちこむ。

 人間関係は、出会ったときの距離感からスタートになる。だから顔をあわせて、すぐに距離をつめること。一気に親密になることができる。出会い頭こそ、その懐に飛びこむべきなのだ——これが“はじめの一歩メソッド”だった。

 そして緊張しそうなら、あらかじめ二言くらい、どう声をかけるか考えておけばいい。たっぷり時間はあるんだから。そうベニコさんに教わった。

 心臓は血液のビートを刻みっぱなしだった。ばっちりメイクした顔はこわばって、声もうわずっていた。それでも、今日のためにどれほど努力したかを考えると、ここはひとつ、ふんばらねばと思えた。

「なんか」オクムラさんがまじまじ顔をみてきた。薄顔で、いかにも真面目な商工会議所の職員という感じの髪型、さっぱりした一重の目だった。「なんだろ? LINEしてたからかな? ひさしぶりって感じしないすね」

 私は恥ずかしくなって、ルッキングをそらしてしまった。「あ、そうかもですね」

 六時ごろから錦市場の店舗のシャッターはおりる。それでも観光客や京都市民が絶えることはない。ホースで水をまいた石畳の商店街に、ちょっと小粋な料理屋やレストランが軒をひからせる。

 私とオクムラさんは狭い通りを歩いた。おたがい散策はひさしぶりで「あそこのイタリアンつぶれたんですかね?」「ここ芸人がロケしてましたよ」と感想をいいあった。

 途中、地図をながめる外国人観光客の集団がいた。そこを満員電車のなかをぬうように歩いた。そのとき、オクムラさんの指先がふれた。それを握りたくなった自分をおさえた。なんでもない顔で「学生のとき、ここで具材を買って鍋をしようって計画したことがあるんです。スーパーより高くついたんですけど」という話を続けた。

 牡蠣料理屋だいやすでは、予約どおりカウンター席に案内された。デートでは、対面のテーブルより、横ならびのカウンターが好ましい。たがいに視線をはずして、リラックスできるから。身体も近くなる。相手の耳に——脳に——声をとどけやすくなる。

 私たちは顔を近づけてメニューをみた。

「この店、前は通ったことあるんですけど、はじめてですよ」

「ですよね」私はオクムラさんの息づかいを感じてドキドキした。「この機会に飛びこもうと思ったんです」

「それはチャレンジですね」

「チャレンジですよ」私は笑った。「そういうことをしないと人生は面白くならないってある先輩に教わったんです——もうビシバシビシバシと」

「へえ、厳しそうですね。職場ですか?」

「いえ、なんというか」私はあせった。「そういう感じです」

「いやいや、そういうのってすごく大事だなって思います。僕も、億劫で、つい同じ店ばかりになって。おなじ定食で。ミホさんって、ちゃんとしてるんですね」

「やった、ほんとですか? ちゃんとしてます?」私の声はメニューの上で一オクターブ高くなった。それから、はっと冷静さをとりもどした。「いえ、そうしないとって気をつけてるだけですから」

 そこに「ご注文をお伺いしましょうか?」と、茶髪の店員さんがやってきた。私たちは顔をあわせたあと「すいません。まったく決まってません」と頭をさげた。そして二人で笑った。大爆笑じゃないけど、ここちいい笑いだった。

「なんか会話に集中しすぎてたな」オクムラさんはおしぼりを几帳面に春巻みたいにたたんだ。「とりあえず飲み物から決めません?」

「ですね」私は全力でうなずいた。「あ、ていうか、ここにきたの日本酒が目的じゃないですか。実はホットペッパーで飲み放題のクーポンを印刷して——」

 私はバッグから四つ折りにしたA4用紙をとりだした。オクムラさんは、ドリンクメニューに指をあて、ぽかんとした顔だった。三秒後、声をあげて笑った。

「めちゃくちゃ用意周到じゃないですか」

「いえ、あの——」私はすごく恥ずかしいことをしたのかもと気づいた。思わずわけのわからないことを口走った。「オーダーのときに提示しないとダメなんです」

「ちょっと」さらにオクムラさんは笑った。その声がおちついたあと、水を飲んで、グラスをおいた。「いや、よかったです」

「え、なにが?」

「ミホさん、最高です。ひさしぶりに合ったら、案外、しっかりしてるのかなって思ったんだけど。すごい、とっつきやすくて。LINEでも感じたけど、なんか気をつかわず喋れるし」

「そうですか?」私の顔がほころんだ。カウンター席でよかったと確信した。

「気楽にLINEとか、僕、あんまそういう女子っていないですよ」

 やっぱり、そうなんだ。

 確かに、普通は、異性というだけで気をつかってしまうものだ。だからこそ、私たちは、心の底で、気楽にいいあえる関係を探しているのだろう。ささいなことで笑って、本音を交わして、くだらないことをぶつけられる関係。そんなの同性でも難しいのに。

 でも、もし、自分がそんな関係をプロデュースできたら——相手にとって貴重な存在になれるかもしれない。運命すら感じてもらえるかもしれない。

 じゃあ、そのためにどうすればいいのか? それは恋愛認知学が教えてくれる。

 おかしな話だけれど、いまオクムラさん——男性側の声をきいてしっくりきた。女性も男性も感じることはおなじなのだ。自分にあてはめると答えはでてくる。それぞれ異性を宇宙人のように考えるから、いつも恋の悩みは迷宮入りしてしまうのだ。

 テーブルに焼き牡蠣がならんだ。殻のなかで貝汁が香ばしいゆげをたてている。京都にちなんだ日本酒〝古都〟を飲みながら会話をした。

「さっそくレモンしぼっていいですか?」

「あ、お願いします」オクムラさんは手をひざに頭をさげた。「すいません」

「レモンって勝手にかけると怒る人いますよね。飲み会で気をつかうっていうか、かといってかけないと気が利かないやつみたいになるし」

「あるあるですね、それ」

「もしかしてオクムラさんも怒るタイプじゃないですか?」

「なんでですか」オクムラさんは笑った。「どっちかというと怒られる方ですよ」

 話題に困ることはなかった。つまったときは店内をみて身のまわりのものを題材にした。考えてみれば家族や友人といるときはいくらでも話が尽きないのだから。問題は、自分が、そのモードに心を切り替えられるかだった。

 そのためには異性を異性と思いすぎないこと。これがポイントだった。それがかえって居心地のよさを与える——いちいち男性を特別あつかいしないモテる女だと思わせる——というのがベニコさんの“性別無視のメソッド”だった。男兄弟のいる女子がモテるのは、そういうコミュニケーションが身についているから。

 私たちは横ならびにデートをはじめた。牡蠣料理や日本酒がくるたび、それぞれ感想をいった。仕事の話もした。お店の雰囲気もあり——女はドキドキする男性といるとそうなってしまう——自然と笑いがもれた。いい休日だった。

 でも、それじゃだめだ。

 また男心を逃してしまう。このまま解散して、LINEをしても返事はないかもしれない。楽しいデートのあとに連絡がとれなくなるなんてよくある話だ。

 一回目のデートの目的は、次のデートにつなげること。私は、家賃5万円の一人暮らしの部屋の壁にはった目標を思いかえした。

 ここが正念場だった。

 男性の心を手にいれるために、女には、かならず初デートでしなくてはならない話題がある。次のデートにつなげるのは楽しさでなく、どれだけ心に響いたかだから。私は心のなかでタイミングをうかがった。

■今日の恋愛認知学メモ

・デートで5分遅刻するのは、主導権をにぎって、ポジションをつくるため。失礼になるときはやめる。謝ることも忘れない——謝りすぎないこと。

・待ち合わせは雑談から入ること。LINEで作ったフレンドリーな空気をそのまま持ちこむ。緊張しそうなら、あらかじめ、どう声をかけるか考えておく。

・【はじめの一歩メソッド】出会い頭に、一気に、距離を縮めるメソッド。人間関係は出会った瞬間の距離感が基準になる。顔をあわせてすぐに距離をつめると、そこからスタートできる。

・【性別無視のメソッド】異性を異性と思いすぎないというメソッド。いちいち男性を特別あつかいしないモテる女だと思わせられる。

・楽しいだけのデートでは、また既読無視されるかも。そろそろ恋愛認知学の必殺技をだすべき?

第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」

https://p-dress.jp/articles/6083

【読むだけでモテる恋愛実験小説9話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

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浅田 悠介

マジシャン。日本催眠心理協会認定 心理療法士。いつも「ウインナー珈琲を飲みたいな」とか考えながらコミュニケーションについて書いてます。おかげさまで「最近なにしてるの?」「愛について考えてるよ」が鉄板の返しです。

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