わたしは愛される実験をはじめた。第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
【読むだけでモテる恋愛小説60話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。
心を引きしめた。とにかくパンケーキ女にならないように。
とはいえデートだからと改めて襟をただす必要はない。お互いプレッシャーになるし疲れるから──そんなデートに次はおとずれないだろう。むしろ〝異性として魅力を感じあっている男女がラフに集まる感じ〟を醸しだすべきなのだ。
一回目のデートの目標は次のデートにつなげること。そのためには、むしろ肩の力をぬいた空気を作ること。なんでも言い合えるノリを保つこと。まさに恋愛認知学の〝フランクシップ〟だった。
大人のフードコート〝京都タワーサンド〟のテーブルには焼き鳥と天ぷらのセットが並んだ。あとは「ステーキが焼きあがったら鳴りますので」と手わたされたブザー。
「乾杯しよっか」テラサキさんは笑った。「もう一口飲んじゃってるけど」
私たちは色違いのクラフトビールで乾杯した。冷たくて美味しかった、気がした。真正面に好きな人がいて、正直、ちゃんと料理やお酒を味わえる女子はいないと思う。
テラサキさんは続けて、もう一口ビールを飲むと「ふう暑いな」とかいって、袖口のボタンを外すと軽くシャツの袖をまくった。すると手首の筋と血管がのぞいた。わお。いきなり心臓が赤いカエルみたいに口から飛びでるかと思った。
五秒後、私は、イケメンの血管に釘づけになっている自分に気づいた。そこで「空調ですかねえ」と、ごにょごにょいってビールを口に運びながら、この心臓のエイトビートのドキドキ音がもれてませんようにと願った。いや、ビートの種類なんて詳しくないんですけど。
この瞬間、気をつけたのは〝好き好き節約の法則〟だった。とにかく「あなたのことが好きでたまりません」という〝脈ありサイン〟をださないように気をつけること。
脈ありサインは、相手が自分を好きかどうかを見抜くものであり、同時に、不用意に相手にむけて出してはならないものだから。
ついついキュンキュンするからと脈ありサインを出しすぎると「この子はめちゃくちゃ俺のことを好きなんだろうな(すぐ男にふりまわされるモテない女なんだろうな)」とポジションが下になってしまうから。女たるもの脈ありサインが何かを理解して、例え目の前の男性のことを死ぬほど好きでも、ぐっと我慢しないといけないときがあるわけだ。
・相手の顔や身体をぼうっとみつめる
・声のトーンをあげる
・目をうるませたり顔を赤くする(防ぐのは難しいけど)
・相手の何気ない話にもクスクス笑う
・ずっと側にいようとする
・先走ってはしゃぐ
・こちらからばかり質問する
・プライベートを詮索しすぎる
・無条件にほめちぎる
・「モテそうだね」という発言
・声のトーンをあげる
・目をうるませたり顔を赤くする(防ぐのは難しいけど)
・相手の何気ない話にもクスクス笑う
・ずっと側にいようとする
・先走ってはしゃぐ
・こちらからばかり質問する
・プライベートを詮索しすぎる
・無条件にほめちぎる
・「モテそうだね」という発言
具体的には、こうした脈ありサインを我慢することになる。
これを知ったときは、アラビアンナイトに登場するような盗賊が持っている半月みたいに太くて丸みを帯びた刀くらいの切れ味で、心のド真ん中に突き刺さった。
それじゃデートの段階から振り回される恋にまっしぐらだ。付き合えても相手の思うがままになるだろう──どうせ俺のこと好きなんだから、と。だから相手のこうした脈ありサインを観察しながらも、同時に、自分は出さないように気をつけなくてはいけない。
あくまで恋愛を上手に運ぶとは「たぶん誘ってくるから好意はあるんだろうけど、余裕そうだし、いまいち言動も読めなくてわからないな(価値の高い女なんだろうな)」と感じさせることなのだ。そのポジションをキープしながらデートを続けたい。
微妙に手に入らない女を演じること。その〝手に入りそうで手に入らない感じ〟が男性の本能をくすぐることになるから。そして「あれ? そんなこと考えてるうちに俺の方が意識しはじめてる……?」と思わせられたら最高だ。
ある意味、恋愛をドライに言い換えると「女性は脈ありサインを(魚釣りのルアーくらいの感じで)小出しにしながら、徐々に、男性の脈ありサインを引きだす作業」だともいえる。
私はささみワサビ焼きの串をひと口かじった。つんとした緑の辛味で自分をいじめて、テラサキさんをみつめすぎないように気をひきしめた。
「ここまで名店ぞろいだと、全部のお店まわりたくなりますね」私は周囲をみまわした。休日だからなのか私服のお客さんが多かった。「たぶん一回じゃ無理だけど」
「すごい大食いならギリいけそうじゃない?」
「ざんねん。私、少食なんで」
「大丈夫。ミホちゃんならいける。信じてる」
「なんでですか」私は笑った。「むしろ手伝ってくださいよ」
「よし、チーム戦でいくか」テラサキさんは天ぷらのレンコンをかじった。「チーム戦」
「ていうか、むしろ、さっきの説教するとかいってた後輩連れてきましょう。それで口答えするたびにひと皿食べさせましょう」私は会話を盛り上げるために、ひとまず言い訳ばかりで仕事をしない後輩をダークシェアした。
「完全にパワハラ」テラサキさんは笑った。「俺の後輩の扱いの酷さよ」
フードコートの間接照明のもとで他愛もない会話を続けた──この、じゃれあう感じ。私は熱したカマンベールチーズみたいに表情筋がデレデレたれそうになるのをこらえた。あくまで大人の会話を楽しんでるだけで、あなたに惚れまくってるわけじゃありませんから──実際は骨ぬきパンケーキ女なんだけど──という空気を作りたかった。
「てか、ミホちゃんさ」ネギマの塩焼きをはずした串を皿の上において、テラサキさんは声のトーンを落とした。急にみつめられて体温が0.2℃上がった。「モテそうだよね」
ドキっとした。
おもわず手にしていたクラフトビールを頭からかぶりそうになった。まさか聞かれることがあるなんて。これは「異性として高い価値を感じていますよ」という軽い脈ありサインだったから──このチャンスを逃すわけにいかなかった。
「かもですね」私はふふんという顔をつくった。
イエスでもノーでもない返答をした──万が一のために用意していた返答だった。ここは正解を求められる面接試験じゃない。勝てばなんでもアリの恋愛バトルなのだ。はぐらかしたり謎めかせることで気を惹くべし。まさに恋愛認知学の〝乗っかりメソッド(褒められたときに謙遜せずに、そのイメージを保つために進んで乗っかるというもの)〟の応用だった。
間違っても「モテそうだね」に、ロウソクの火でも消すかのように、手を左右にぶんぶんふりながら「いえいえモテないんですよ」などと語ってはいけない。
そのモテない(からアプローチしてくださいよ)発言はポジションを下げるから。むしろ余裕をみせて「俺も手にいれたいな……」と錯覚させるべきだ。モテると答えてるわけじゃないけど、そう受け取られても仕方ないリアクションはできるはずだから。
「お、余裕だね」グラスを手に、テラサキさんはにやっと笑った。
その瞬間、あ、なにか認められたのかも、という気がした。その感覚は「お互い簡単にふりまわされる恋愛は卒業してるみたいだな」と、了承しあったみたいな感じだった。
そこで、さっきの「モテそうだね」は脈ありサインと同時に〝捕食生物テスト〟だったのかと気づいた。これはタイガー(モテる男性)が無意識にくりだすものだ。いわゆる〝対等に付き合ってもいい価値の高い女〟か〝簡単に振り回せる価値の低い女〟なのかを判断するもの。
たぶん落第していたら、一気に、振り回していい女にカテゴライズされていたのだろう。いまになって背筋がぞわぞわした。
「合コンのときも感じてたけど」テラサキさんはいった。「ちょっと雰囲気違うよね」
「バレました?」私はなんでもない顔をつくった。
でも内心は真逆だった。いままでの私だったらイケメンとのデートに鼻の下をのばしていただろう──完全なるパンケーキ女みたいに。でも今となっては楽しいデートの裏で、どれほどの心理戦が繰り広げられているかを感じて頭がくらくらするばかりだった。
テーブルの下で、ふるえる両手をにぎりしめた。
■今日の恋愛認知学メモ
・デートは「異性として魅力を感じあっている男女がラフに集まる感じ」を醸しだす。
・脈ありサインには二種類の目的がある。①相手が自分を好きかを見抜くもの。②相手にむけて出さないように気をつけるもの。
・手に入りそうで手に入らない感じが男性の本能をくすぐる。
・男性の「モテそうだね」を必死に否定してはいけない。
・【好き好き節約の法則】脈ありサインをださないように気をつけること。
・【捕食生物テスト】タイガーが無意識にくりだす〝対等に付き合ってもいい価値の高い女〟か〝簡単に振り回せる価値の低い女〟を判別するテスト。
・正直、ちょっと、このデートに怖気づいているかも……。
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【エピソード】
第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」
第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
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第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
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第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
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第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
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第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
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