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わたしは愛される実験をはじめた。第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」

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【読むだけでモテる恋愛小説37話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」

■第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」

 愛される女になるためのレッスンがはじまった。 

 私はドキドキしていた。恋愛認知学を知るごとに、人生が、自分のものになっていく感覚があったから。今日も、いままで誰も教えてくれなかった恋や愛について、なにかを学ぶことができるはずだった。

「レッスン」夜の鴨川でベニコさんはひとさし指を立てた。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。ブランド物らしいブラックスーツを着て、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「とにかく笑わないこと」

「え、笑っちゃダメなんですか?」

「簡単にはね。これがフェイシングという恋愛認知学のメソッド」

「無表情って、なんか失礼な気がするんですけど」

「無表情でない──真顔よ」ベニコさんはいった。「その二つは大きくちがう」

「真顔?」

「つまらない顔をしろといってるわけじゃない」ベニコさんは太い眉をよせた。「男とは真剣な顔でむきあうべきってだけよ。悪いことじゃないわ。テレビの女優だってへらへら笑ってないでしょう?」

 私はゴールデンタイムの番組を想像した。確かにどんな状況でも、女優さんは凜とかまえていたりする。「あれ、そうかもですね」

 そこで私はへらっと笑ってしまった。おもしろかったわけじゃない。癖になっているという感じだった。他人と顔をあわせているとつい顔の筋肉をゆるめてしまう。普通の顔でいるのが悪い気がして。

「前に教えたルッキングと対になるものと思えばいいわ。あれは相手より先に目をそらさない訓練だった。あれが攻撃だとしたら、こちらは守備。相手の自滅をさそうエレガントな防御よ。タイガー(モテる男子)に挑戦するパンケーキ女をワンランク上の存在にするためのね」

 ベニコさんは髪をかきあげながら微笑んだ。そういえばベニコさんも笑うときはあるけれど、基本的に真顔だった。真剣にむきあってくれる。だから大人って感じがするのかも。

 風の吹く河川敷をみまわした。夕飯の時間にさしかかり人影は少なくなっていた。代わりに町のあちこちが古い地図のような色に灯って、京都の浮かれた夜の空気をただよわせていた。

 私はフェイシングフェイシング──と、心のなかでつぶやきながら表情という概念を忘れたロボットみたいに口をカクカクさせた。「これって、どんな意味があるんです?」

 そのとき暗がりで細かな振動音がした。ベニコさんのジャケットのなかのスマホだった。なのにベニコさんは手に取ろうともしなかった。

「でなくていいんですか?」

「あなたとの取りこみ中よ。だれがどんな用件で電話してきたかくらいわかるわ」

「はあ」私は首をひねった。「ありがとうございます?」

「パンケーキちゃん」ベニコさんは私のカクカクしてるあごをつかんだ。「フェイシングはなんのためにあるのかしら?」

「さあ──ルッキングは心理的に優位に立つためでしたよね。あ、しわができにくくなるからアンチエイジングになりそう」私は顔をつかまれたままへらっと笑った。

「フェイシング」

「はい」あわてて、私はあごをつかまれたまま目と鼻に力をいれた。真顔ですらなくキモい表情になってるだろうなと思った。鏡をみたら死ぬ。

笑顔を惜しむことで、あなたの価値をあげるの」ベニコさんは手をはなした。「表情分析学によると、そもそも表情は〝他者に対するシグナル〟でもある。そして表情には種類があるけれど──なかでも笑顔は〝危機回避の表情〟とされる。人間は言葉を使えない子どものころから、笑顔で、まわりを味方にしようとするわけね。ある意味〝私を捨てないでください〟と媚を売っている」

「わかるかも。親に育ててもらうための知恵ってことですよね」

 ベニコさんはうなずいた。「でも、あなたは、もう大人でしょう?」

「はい?」私はドキッとした。

「もう言葉を使えない子どもでない。一人で生きられる人間よ。だから本来的にまわりに捨てられないために笑顔をつくる必要はないのよ」

「そりゃ、そうかもですけど──」

「もちろん極論よ」ベニコさんはいった。「でも、へらへら笑うのは、犬がおなかをみせて降参のポーズをするようなもの。パンケーキちゃん、それが愛される女のすることかしら?」

「そうやって犬も愛されるものなんじゃないですか?」つい反論してしまった。笑顔が一番、と子どものころからいわれてきた身としては悪いことに思えなかったから。

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんはやれやれと首をふった。

「なんでですか」

「いい?」ベニコさんはひとさし指を立てた。「それこそ子犬のように主導権をにぎられた形で愛されてどうするの? ポジションは? ご主人の顔色をうかがって、ほかに愛情がいかないかと心配して──そんなもの私たちのもとめる愛ではない」

「じゃあ」私は声をあげた。「愛ってなんなんです?」

「たんなる言葉よ」

 私はその返事にとまどった。もっとズバッと具体的な答えがきける気がしていたから。

「幻想かもしれない──けれど胸を張れるものであるはずよ」ベニコさんはいった。「あなたが価値のある女なら、その愛や、笑顔にも価値は生まれるはずでしょう? だれをも幸せにする宝石みたいなものなんだから。ダイヤやエメラルドはみせびらかすもの?」

 私は考えた。「だから価値の高い女はかんたんに笑わないってことですか?」

「逆にいえばどうなるかしら?」

「えと、へらへら笑うのは笑顔を安売りしてるってことになるのかな」

「笑顔ではない」ベニコさんはいった。「あなた自身を安売りしてることになるのよ

 私自身を安売り──その言葉は太秦の映画村の手裏剣みたいに胸の中心にささった。次に、なぜかポストに無限につっこまれるスーパーの特売チラシをイメージした。いつも男性と話すときに、緊張するとかいってへらへら笑っていたけど、そのせいで私は19円のもやしや48円の袋ラーメンみたいな女になっていたのか。

「ベニコさん」私はベニコさんの袖をつかんだ。「それはどう考えてもアウトです。シャネルやティファニーとまでいわないけど、せめて無印良品くらいになりたいです」

「二つの意味で値をあげる女という名のパンケーキ」

「はい?」私は首をひねった。

「通じないと思ってたわ」ベニコさんは質問を無視した。「とにかく人間は希少なものに価値を感じる性質がある。本当は希少であることと、価値があることは別なのにね。あなたも笑顔を出し惜しみすることで、その価値を高めるのよ。そして、いざというときの笑顔をとっておきのものにするの。もちろん真顔をつくることで、相手に〝媚びない・真剣である〟という印象をあたえることもできる──それが恋愛認知学のフェイシングよ」

「奥が深すぎません?」私はへらっと笑った。

「フェイシング」

「あ、はい」あわてて顔に力をこめた。

「異性との会話を笑顔で逃げないこと」ベニコさんはいった。「これはモテる女の必須スキルよ」

「必須なんですね」私は反省した。

「もっといえばモテる女は自然とこれができているのよ。普段は笑顔でいても、真剣なときにふさわしい表情ができるの。でも、あんたみたいなパンケーキ女は、真剣なムードになると、その空気に耐えられずに、へらへら笑って大事な瞬間をパーフェクトに逃す」

「みぞおちにボディーブローをうちこまれたみたいな気分です」

 そのとき河川敷に「みつけた、ベニコさん」という声が響いた。その声の方をふりむく前に、私の女性ホルモンはその正体を察知して、お、お、お、と、のどの奥で小さなオットセイを飼ってるみたいな声をだしてしまった。

 軽やかな足どりでやってきたのはトモヤとシュンスケだった。

 ベニコさんがHUBでゲットした年下イケメンたち。ワイルド系と優男系。私は心のなかでよだれが4.7リットルくらいでるのを禁じ得なかった。高身長な彼らがベニコさんの背景に立ちならぶと、どこかから洋楽のテーマソングが流れてきそうだった。

「ベニコさん連絡がつながらないんだものな。探しましたよ」優男系のシュンスケはいった。ちらっと私の方をみる。「ねえ、パンケーキさん?」

「腹減った」トモヤはじろっと野性味のある視線をおくってきた。「おひさしぶりです」

 夜の鴨川でイケメン二人組のまなざしをくらって、私はボンネットの上で熱せられたハムエッグみたいに、なにを言葉にすることもできず、おもわず顔の筋肉をゆるめて──へらっと笑ってしまった。

「パンケーキちゃん」と、そのときベニコさんの声がした。私は叱られた犬みたいにビクッとなった。なんのことかとイケメンたちは首をかしげた。

「だから、私はパンケーキ女なんですね?」と、私はいった。

■今日の恋愛認知学メモ

・【フェイシング】真剣な表情をつくることで自分の価値をあげる。笑顔をとっておきのものにする。

・異性との会話を笑顔で逃げないこと。

・つい笑って場をすごそうとしてしまうから難しいけど──がんばらないと。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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