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わたしは愛される実験をはじめた。第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

【読むだけでモテる恋愛小説61話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

 心の内側では、サイレンの赤い音が響いていた。

 好きでたまらない〝イケメン〟テラサキさんとのデート。冷められないために恋愛認知学の〝好き好き節約の法則〟によって、好き好きアピールを封印しつつ、おたがいの心を探るような会話の応酬をする。かつて経験したことのない危険地帯に突入しているのを感じていた。

「最近は順調ですか?」私は京都タワーサンドにあるフードコートのテーブルを挟んでいった。串から焼き鳥の最後のピースをはずした。

 これは〝順調メソッド〟だった。

 どのジャンルについて順調なのかは決めないまま質問をする。生活かもしれない。仕事かもしれない。悪の組織に命を狙われているのかもしれない。これは〝質問はするけれど、返答のレベルは相手にまかせる〟というもの。探りをいれるフレーズだ。

 デートで話題にこまっても無理にひねりだす必要はない。相手に話題をひねりだしてもらえばいいだけだから。この〝順調メソッド〟を使って。相手がなにかを話しだせば、その話題に乗っかればいい。それは相手の関心ごとだから必ず盛りあがる。自分がペースを合わせるのではなく相手にペースを合わせてもらう──実に恋愛認知学らしい。銀の弾をこめた、いつでも撃てるピストルのように便利なメソッドだから、頭に叩きこんでおいた。

 もし相手が返答に困るそぶりをみせたら「仕事でも、プライベートでも、人間関係でも、なんでもいいですけど」という助け船をだすのも忘れないこと。

 そして、もしデートで色っぽい空気になったときに〝順調メソッド〟を使えば──この質問は独特のニュアンスを帯びる。

「え、なにが?」グラスを手にテラサキさんは眉をあげた。

 ちょっと不意を突かれたという感じだった。聞こえているのに聞き返すときは、その質問に、後ろめたいことや引っかかりがある証拠だ。ていうか、その表情が可愛すぎて心の奥のカメラロールに永久保存したのは内緒だ。

「なにがって」私はなんでもない顔をつくった。「普通に女子と飲みにいってるかとかですよ」

「ああ、ね」

「別に、この年齢なんだから異性と食事に行くぐらいするじゃないですか」

     ※

「ここで男の反応は二パターンに分かれるわ」フランソア喫茶室で、このメソッドを教えてくれたときベニコさんはいった。「まず〝他にデートしている女性がいないパターン〟ね。やたらにいないと強調するときは真実だと思っていいわ──あなたによく思われたいという脈ありサインでもあるでしょう──くれぐれも男の嘘には注意しつつね。ラッキーパターンよ。そのまま恋愛認知学のアプローチを続けるだけでいい。そして、もうひとつが〝他の女子ともデートしているパターン〟よ。タイガーを相手にする限り、正直、こちらの方が多いでしょうね」

「うん? てか、デート中に他の異性の話を持ちだすなんて失礼じゃありません?」私は珈琲をスプーンで混ぜながら首をかしげた。「ふたりだけで楽しむのがデートなのに」

「だから、あんたは無限にパンケーキ女なのよ」

「すごい抽象的になじられた」

「いい?」ベニコさんは人差し指をたてた。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「パンケーキちゃんが狙おうとしているのはタイガー(モテる価値の高い男性)なのよ。とにかくタイガーに対しては〝いつものファンみたいに近づいてくるパンケーキ女じゃなくて、恋愛や人生を深く知っている価値の高い女なんだな〟と感じさせることが大事なの」

「恋愛や人生を深く知っている価値の高い女、ですか。てか、まだ半信半疑なんですけど。私とデートするってことは、他にデートしてる子がいないってことじゃないんですか?」

「パンケーキちゃんはアホなの?」

「すごい直球」私はビクッとなった。ちょっと恥ずかしかった。

「ある程度、モテる人間にとって、異性とのデートなんてコーヒーブレイクくらいの日常茶飯事よ。息をしているだけで誘われるんだから──女だってそうでしょ? それが〝タイガーの日常〟なの。そういう男を手に入れようとしてるんだってことを自覚なさい」

 真横から除夜の鐘でつかれたみたいな衝撃だった。意味なく手で側頭部をおさえた。「じゃあ、私は、何人かいる候補のひとりに過ぎないってことですか」

「パンケーキちゃんがなにを恐れているかを教えてあげるわ」ベニコさんはいった。「好きな男にとって、自分が取るに足りない存在だと認めることが怖いのよ。男が、他の女とデートしてることを認めたくないわけ。いえ、信じたくないといった方が正しいわ」

 その言葉は四条大丸デパートの屋上からスナイパーライフルで狙撃されたみたいに心の奥に刺さった。確かにテラサキさんにとって、私が、たくさんデートする女のひとりにすぎないと考えるのはつらかった。というか、わざと酷なことをいってるんだと思った。

 赤いビロードの椅子の上で、ベニコさんはむっちりした足を組みかえた。「もちろん恋愛認知学のアプローチをするからには〝その他大勢のパンケーキ女のひとり〟になることはないでしょう。むしろ〝ドキドキできる数少ない価値の高い女のひとり〟にカテゴライズされているはずよ──」

「よかった──でも本当ですか?」私は眉をよせた。「やっぱり好きな人だからこそ信じてみるのも大事だと思うんですけど。誠実にというか。やっぱりデートをしてる男性が、他の女性とデートしてると疑うなんて失礼じゃありません?」

「パンケーキちゃん」ベニコさんは首をふった。その声はやさしかった。「この世のすべてにおいて、あなたが信じたいかどうかと、それが真実かどうかは別なのよ。そもそも私たちは信じたくないことを真実でないと思いこみたがる生き物だから。そのための理由ならば──自分を正しいと主張するための──いくらでも思いつけるしね」

「はあ」私はつぶやくようにいった。「むずかしい」

「むずかしいのは承知よ」ベニコさんはいった。「それでも、私は、あなたに信じたくないものを信じないような女になってほしくないのよ。女たるもの〝信じる信じない〟ではなく〝真実〟を追求なさい。その強さを持つことよ」

 言葉の奥に深いものを感じた──それこそ海の底よりも深いものを。自分がその意味の半分も理解できていないことだけはわかった。その残り半分に人生の秘密が隠れていて、私は、いまだに人生の初心者らしかった。

「そして常に最悪を想定して、最善の行動をとること。タイガーを口説くからには〝タイガーの日常〟を理解しておく必要があるから──信じたくない真実として。その上でタイガーと接するときは〝おたがい価値の高い人間だから、他の異性ともデートはしてるだろうけれど、いまの関係がいちばん心をおきなく話せるよね〟という空気を醸しだすことなの」

「うん、それってフランクシップ(男女を意識しながら、なんでも言いあえる関係のこと)みたいな感じですか」

「まさに」ベニコさんはにやりと笑った。「それをアップデートしたものよ。これを〝タイガーズ・フランクシップ〟と呼ぶ。虎を手懐けるには、火の粉をまぶしたようにピリっとした関係性が必要よ」

     ※

「ま、ね」テラサキさんはいった。肩の力をぬいて、この女になら本当の話をしても問題なさそうだと判断された感覚があった。「なんかLINEしてくる子とかはいるかな」

「そんなもんですよねえ」

 私はビールに口をつけた。やっぱりなのか。心の奥にさびしい風が吹くのを感じた。お箸に力が入ったけれど、ぐっと平静を装った。数秒後、私は乗っかるように笑った。「え、いまも、めっちゃ女子のLINEとか未読無視してそう」

「すごい想像してくるじゃん」テラサキさんは隣の椅子に置いたジャケットを背もたれにかけなおした。「正直あるっちゃある」

「どうせ返信してないんでしょ」

「そだね。てか、できない」

「まあ、言い寄ってくる全員と仲良くすることはできないですからね」

「そう」テラサキさんはビールを飲んだ。「なのに、こっちが悪いことしてるみたいになるんだよな。こういうのって誰にも言えることじゃないんだけどさ」

「あー、わかる人にしかわからない話ですもんね。反感買うし」

「それな」テラサキさんは笑った。「ミホちゃん、めっちゃわかってくれる」

 これが〝舞台裏トークの法則〟だった。

 タイガーと接するときは〝あなたが普段まわりにみせているキャラクターじゃなくて、その裏の苦労やあれこれを理解してる側ですよ〟という立場に潜りこむこと──なるべく早くに。

 舞台上の姿ではなく、舞台裏の姿にこそ、その人の本質があらわれるから。

 例えばミッキーマウスを口説きたいなら「いつも笑顔で、俳優もできて、歌えて、踊りもできてステキですよね」と褒めてはいけない。むしろ「正直、ディズニーランドに出勤したくない日もありますよね。まわりは〝あいつは全員を楽しませるのが好きだから、そんなことないよ〟とかいうんだろうけど」と語りかけるべきなのだ。

 忘れてはいけないのは「どんな人物にも舞台裏の姿はある」ということ。

 それをモテる女は見抜いて、さっと舞台裏トークを投げかけられる。タイガーは演じることに慣れているので、それが演技だと見破っていると伝えるだけで〝なんでも話せる貴重なポジション〟につける。

「ていうか──」私はここでテラサキさんの心を一気に引きつける禁断のメソッドを繰りだすことにした。恋愛認知学史上、もっとも汚い手段かもしれない。それでも、どんな手を使ってでも恋を叶えたかった。

■今日の恋愛認知学メモ

・【順調メソッド】「順調ですか」と質問することで相手から話題を掘りおこす。すると盛りあがる会話になる。

・【タイガーの日常】モテる男性は他の女子ともデートしていることが多い。ここを認めることからスタート。

・【タイガーズ・フランクシップ】お互いモテるから異性とも出かけるかもだけれど、この関係がいちばんだよねという空気感のこと。

・【舞台裏トークの法則】相手が普段みせているキャラクターではなく、その演技をしていない素の姿に接するように会話すること。

・男性の心に刺さりまくるトークをみせてやる!

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楽しみながら(ときに共感して泣きながら)恋愛を学べます。ミホやベニコさんも登場しますが、恋愛の相手や、解説するメソッドは異なります。ストーリーの違いも楽しみながら、貴女も愛される実験をはじめませんか?

・恋愛がうまくいかない
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【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」
第60話「モテる女の脈ありサイン徹底解説」
第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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