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わたしは愛される実験をはじめた。第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」

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【読むだけでモテる恋愛小説2話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が〝愛される女〟をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた〝パンケーキ女〟に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」

【読むだけでモテる恋愛小説】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」

■第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」

「でも」私はHUBの席につくなりいった。ビールの酔いもあって、ちょっと失礼な口の利き方だった。「私、モテたいなんて思ってません。ひとりの相手と、ずっと付き合えたらいいなって。遊びたいわけじゃないし。ほらモテる人って大変そうじゃないですか——いや私じゃないですよ? なんか、まわりのモテる女性は大変そうにみえるし」

「質問」女はひとさし指をあげた。ワンカールした黒髪ボブ、大きな顔とアイメイクの濃さに目力があった。ずんぐりした足を組んで、アメリカ映画のキャリアウーマンのような雰囲気だった。「あなたがモテる女のなにを知ってるの?」

「それは聞いた話ですけど」

 女はブランド物らしいブラックスーツを着ていた。立てたシャツの襟をのぞかせて肩をすくめた。「モテる女がわざわざ〝いい男に誘われて優越感〟〝日曜に一人で食事したことがない〟〝イケメンと街を歩くのは楽しい〟なんて報告するわけないでしょ? 女の嫉妬はめんどくさいのに。モテる女は男にちやほやされて、若いころからいい思いができる、モテる女にしかできない経験がある——そんなの当たり前」

「ほんとですか?」

「それをまず認めなさい」女はひとさし指をつきつけた。「あなたのやってることは手にできないブドウに〝あれは酸っぱいんだ〟と文句をいって自分をなぐさめてるだけ」

「でも、そんな男に媚びる生き方したくありません」私はむっとした顔をした。「それに食事を奢られても気をつかうだけでしょう? それなら私は自分のお金で食べたいお店にいきますよ。誰にも気をつかわないでいいし。うらやましくなんかない」

「うらやましくなんかない?」

「まったく」私はビールを飲んだ。

 女はあきれたように首をふった。私が0点の答案を提出したみたいだった。「そもそもデートの食事は男に奢らせるものだって考えてるのがもうダメ。前時代をひきずってるモテない女まるだし。あんたなんか、せいぜいレジの前でわざとらしく財布をだすふりするくらいでしょ? そんな考え方じゃ、男の方から逃げだすわ」

「それが女性としてのマナーじゃないんですか?」私は先週のデートを思いだした。オクムラさんが奢るよ、といったから財布をひっこめて頭をさげたのに。

「それは、すでにモテてる女のマナーよ」女はいった。「男はね、高値の花によろこんでお金をだすけど、そうじゃない女には、お金を使いたくないの。そりゃ顔にださないけど頭のなかでは、デートにかかった金額を計算してる——私たちといっしょ。〝デート代は男が持つべきだ〟なんて文脈に苦しんでることを理解してあげなさい

「でも、むこうから財布をだしたんですよ?」

「質問」女はカクテルグラスをゆすった。赤い液体がゆれた。「初デートの目的はどこに設定すべきでしょう」

「え、目的ですよね? 男の人と仲良くなることですか?」

「ちがう」

「仕事とか収入をたずねること?」

「ちがう」女は直線の太い眉をひそめた。「もっとシビアに考えなさい」

「なに? あ、まさかゲイじゃないか調査すること?」

 女は答えをじらすようにカクテルを口にはこんだ。私はおあずけをくらった犬のようになった。「はじめてのデートの目的は、次のデートにこぎつけること。それだけよ。そのために相手の心理的負担を減らさないと。とにかく序盤は、男を立てつつコストのかからない女になるの」

「でも、どうすればよかったんですか?」

「押しきってでもいくらか置いておけばよかった」

「遠慮されますよ」

「本当に拒む男なんかいない。あなたの心の底に、結局お金をだすつもりがあるかなんて男はみぬいてる。なんなら〝またお食事したいからこそです〟とでもいえばいい。お金をおいてさっと店をでてもいい——そんな異性を男はどう思う?」

 私は考えた。「ちゃんとしてる人だなって思うかも」

「そう。男はちゃんとしてる女を探してるの」

「本当ですか?」

「本当に思えない?」女は首をふりながらキューティクルの強い髪をかきあげた。「お金のかかる高値の花と、しっかりお金のことを考えられる普通の女。どちらを男はパートナーに選ぶと思う? 遊びをぬきに本気で考えたときに」

「それは——普通の方です。結婚とか将来も考えるってことだし」

「じゃあ私たちはどちらをめざすべきなの?」

 私はだまった。単純な論理だからこそ反論できなかった。

「もちろん、どちらが会計するかなんて、あくまで例にすぎない。そんなの状況や立場でいくらでも変わる。ようは常識を疑いなさいってことをいいたかったの」

「つまり奢ってもらう方が正解のときもあるってことですよね?」

「いい?」女はうなずいた。「どこかで聞きかじったマナーを鵜呑みにするんじゃない。自分なりの原理——プリンシプルを持ちなさい。会計だけじゃない。あなたは、あわよくば男にもてなしてもらおうっていう考えが体の底からにじみでてるのよ。腐った肉の匂いみたいにね。そんなんじゃ、どうせ合コンで出会った男と、どうにかデートできてもLINEは既読のまま返事もなしってところでしょ?」

「ちょっと」私はおどろいた。「どうしてわかるんです?」

「さっきからアホみたいに携帯を気にしてるからよ」

 私は手をついたテーブルをみた。つい確認してしまうスマホがあった。

「それで〝むこうも仕事が忙しいんだろうな〟とか納得してる」

「そう、そうです。出張とかいってたから。もしかして先週お店にいました?」

「あんたみたいなパンケーキ女の考えることなんて、ゾンビ映画で次に死ぬキャラクターくらいすぐにわかるわ。男の〝忙しい〟なんていちいち真に受ける必要ないし、仕事が忙しくても返信なんていくらでもできる。あなたが手に入れたいほどの女ならね」

「でも——」

「とりあえず」女は指を鳴らした。「その言葉を〝でも〟から、はじめる癖をやめること。〝でも・いや・だって〟なんて否定から入るのは、相手を受け入れられない、弱い人間のすることよ

 数秒フリーズして、ようやく私は自覚した。その瞬間も〝でも〟という音を発しようと唇をとがらせていた。「すみません。その通りでした。すぐ気をつけます」

 女はグラスの脚を爪でなぞりながら笑った。「素直なパンケーキ女のために、もうちょっと教えてあげる。キツイようだけど——その男からの返信はこないわ」

「そんなことないですよ」私は声をあげたあと、場違いなボリュームに恥ずかしくなって店内をみまわした。好感触なデートだったのだ。最近ではオクムラさんのアイコン画面をにらんで、また連絡しようかと悩む日々だけれど。

 女は心を見透かしたようにいった。「いっとくけど、もし本当に上手くやりたいなら、絶対に、そこから追撃LINEはしちゃダメよ

「どうしてですか?」

「キモいから」

 私は言葉を失った。「キモいですか?」

「カタツムリの百倍キモい」

「私はカタツムリ可愛いと思いますけど——」

「いい? 返事のないLINEはひと月寝かせること。それから〝元気ですか?〟くらいの短文をおくるもの。相手にプレッシャーをかける追撃LINEは自殺行為。相手とつながってる安心感やドキドキを味わいたいから連絡したくなる気持ちはわかる。でもそれじゃ我慢できない子供とおなじ。男を落とすには、まず欲求をおさえないといけない」

「好きな人とのLINEって、我慢できなくないですか?」

「だからあんたはパンケーキ女なのよ」

「ていうか、さっきから、そのパンケーキ女ってなんなんです?」

「あなたみたいに頭のなかに甘ったるいパンケーキがつまってる女をそう呼ぶの」

「甘ったるい?」私は声を大きくした。「すごく現実的なことを言ってるつもりですけど。モテる女になるとかいうより、たった一人だけ、彼氏をみつけるっていう方がよっぽどまともだと思いません? 別に理想も高くないし、そんな高収入でもイケメンじゃなくていいし——」

「ただ私のことを愛してくれたら?」

 私は抗議するような目をした。「そうです」

 女は手をのばして私の首筋にふれた。ひやりと指先の感触のあと、とんとんと爪が血管をノックするのを感じた。そんな場所を他人にさわられたのなんかひさしぶりで、思わずぞくぞくした。「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」

「当然のようにパンケーキ呼ばわりするのはやめてください」

「比喩よ」女の唇が私の耳もとでうごいた。「いい? だれからも愛されない女は、たったひとりからも愛されないのよ」

「そんなの言葉遊びです」

「じゃあ、いま、あなたを愛してくれるたったひとりはどこにいるの?」

「いまはいませんけど」私はビールを両手で口にはこんだ。「最近、出会いがなくて」

「じゃあ過去の男たちは心から愛してくれた? 完璧に満足だった?」

 私をふった元カレのヒロミツの顔を思い浮かべた。ちくりと心が痛んだ。「そういうのは人それぞれじゃないですか?」

「いい?」女は肘をついて笑った。「ほとんどの女は〝私を愛して〟なんていうくせに他の女と同じことしかしようとしない。いまだに男が笑い飛ばすような雑誌の恋愛コラムを信じてる。それで行列店のパンケーキみたいに同じ味しかしない女のできあがりよ。そのくせ自分だけは違うからとプライドばかり一人前。そんな女がたったひとりの男から愛されるわけないでしょ? 偶然、そこらの男に目をつけられて恋人になるかもしれない。結婚できるかもしれない。でも、そんなの自分で獲得した愛とはいえない。たまたま大勢のなかから拾われた捨て猫みたいなものじゃない。あなたが求める愛って、そんなもの?」

「いえ、もっと、うまくいえないけど——」

「白馬の王子様?」

「私だって大人です。そんなのがいないのはわかってますよ」

「あなたの正体を教えてあげる」女はひとさし指をピストルのようにつきつけた。「パンケーキ女ってのは〝白馬の王子様なんているわけない〟なんていいながら、結局、心のどこかで〝いつか運命の出会いが〟なんて信じてる、甘ったれ女のことをいうのよ。みずからアクションをせず、受け身で、いつか幸せになれると思ってる女。男から誘われるのを待つばかりで、自分から誘うなんて考えもしない女。努力もせず、自分がモテないことを〝出会いがない〟という都合のいい言葉で言い訳する女。にこにこ愛想よくしてるだけで、いつか、そこそこの男が自分を選んでくれると思ってる女」

「ちょっといいすぎじゃないですか?」

「当たり前よ」女は手をひろげて扉をしめした。「だれもいってくれなかったことをいってあげてるんだから。真実は胸に痛いもの——逃げだすならご自由に」

 私は唇をむすんだ。意地でも席を立つものかと思った。「モテないっていうか普通だし。こっちからLINEすることもありますよ」

「どうせ〝今度、ご飯でもいきましょう〟なんて誘われ待ちの、無視されても傷つかない、つまらない文章をおくるだけでしょ?」

 私は椅子からおちそうになった。「なんで内容までわかるんです?」

「もしデートできても、お店のことはよく知らないから男まかせ」

「それは、そう、たしかに。反省します」

「食事の席でも、自分の話をするか、せいぜい手ごたえのない聞き役になるだけ。それで可愛いと思ってる。でもね——責任を負うことでしか上質なコミュニケーションはできないのよ」女は私のあごをもちあげた。「哀れな女という名のパンケーキ」

「人に絵画みたいなタイトルをつけるのやめてください」私はふりはらった。

 女は、もう一度、ぴたりと私の首にふれた。「きれいな恋愛をしたいとかいうくせに、この皮をめくれば〝愛されたい愛されたい〟なんてドロドロの欲求不満がうずまいてる。ああドロドロドロドロ。永遠に満たされない女のヒステリー」

「勝手に決めないでください」

「じゃあ、あなたは愛されるかわりになにを男に与えられるの?」

 私は言葉につまった。なにを? ヒロミツにふられて、次にデートしたオクムラさんとは連絡がとれなくなった。私は彼らになにかを与えていたのだろうか? 彼らになにかを与えていれば結果は違ったのだろうか?

「そんな死にかけのフナみたいな顔しないで」

「誰がへこませたと思ってるんですか」

「その怒りを自分にぶつけなさい」女はいった。「現実って、少なからず都合が悪いものよ。それでも逃げずに、目をむけられた女だけが本当のモテを手にできる。大丈夫。私が、あなたのためのクールな恋愛の教科書になってあげるから」

「クールな恋愛の教科書?」

「そう」女は赤いカクテルに唇をつけた。「子供だましの恋のおまじないなんかいらない——いまのあなたに一番必要なものでしょう?」

 その瞬間、心臓が鳴った。

 このままではいけない。ずっとそう感じていた。それがなんだったのか、はっきり直感できた。子供のころの物語は半分だけ正しかった。運命の相手はいるかもしれない。けれど、むかえにきてはくれない。この足でむかえにいかなければならないのだ。

「私の名前はベニコ」女は手をさしだした。「気軽にベニコさんって呼びなさい」

「ミホです」私は残ったビールを一気飲みした。その手をにぎった。「あなたの魔法を学ばせてもらいます」

 本当の意味で、なにかをチャレンジするのはいつぶりだろう? そう考えると、ひさしぶりに胸がドキドキしているのを感じた。

 わたしは愛される実験をはじめた。

■今日の恋愛認知学メモ

・初デートの目的は次のデートにこぎつけること

・デート代は男に奢らせるものという考えを捨てる。コストのかからない、ちゃんとした女だと思われるために。お金をだして「またお食事したいからこそです」といえたら最高。もちろん状況や立場にあわせて奢ってもらうことも大切。

・言葉のはじめの「でも・いや・だって」はNGワード。

・男性から返信がないときの追撃LINEは禁止。

・【パンケーキ女】受け身で甘えた女のことらしい。ちょっと不服。でも、このままじゃいけないのはわかった——と思う。

第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」

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【読むだけでモテる恋愛実験小説3話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

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浅田 悠介

マジシャン。日本催眠心理協会認定 心理療法士。いつも「ウインナー珈琲を飲みたいな」とか考えながらコミュニケーションについて書いてます。おかげさまで「最近なにしてるの?」「愛について考えてるよ」が鉄板の返しです。

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