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わたしは愛される実験をはじめた。第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」

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【読むだけでモテる恋愛小説59話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」

 もちろん奢って貰うつもりなんてないから自分の財布を持って。

 私たちは京都タワーサンドのフードコートのなかを歩いた。あちこちに寿司、焼き鳥、焼肉、ラーメン、蕎麦、ステーキ、餃子、エスニック、デザート、バーまで──京都の有名店の看板がならんでいた。大人のために作られた文化祭みたいだった。

「お、ステーキ」テラサキさんはいった。「最近、肉食べてないんだよな」

「お肉いいですよね」私はいった。「心もってかれてるじゃないですか」

「この鉄板とソースの香りがいい」

「こういうアメリカンなステーキって、たまに食べたくなりますよね」

「あるね」テラサキさんは笑った。「とりあえず一軒目から心を奪われてもしょうがないし──なんか他もみよっか」

 そこで地下一階のフロアをまわった。個性派の各店舗のメニューをのぞきながら、あれもいいよね、これよくないですか、めっちゃ美味しそうだ、と盛りあがった。

 正直、どれを食べるかなんてどうでもよかったけれど──イケメンとのデートより美味しいものなどこの太陽系第三惑星には存在しない──しっかり〝一緒に食事しても楽しい女アピール〟を忘れないようにした。

 もちろん〝これさえすれば楽しい女だと思ってもらえる〟なんて魔法は存在しない。

 細かなことの積み重ねだった。こちらから話題を持ちだすこと。あれこれと提案をすること。楽しませる側にまわること。そのために、どうすればいいか悩むこと。とにかく受け身にならないように気をつけた。パンケーキ女は卒業してやるんだ。

 フロアの中央にバーカウンターがあった。いろんな色のボトルと、ぴかぴかのグラスがならんでいる。その場で買って、各自の席で飲むシステムらしかった。

「てか、とりあえず飲もうよ」と、テラサキさんはいった。「喉渇いてない?」

「え、あ、そうですね」食事をさがすモードだった私はビクッとなった。

 このナチュラルに提案できる感じ。さすがタイガー(モテる男性)だなと思った。モテるオスは、いつだって、その場の空気をかっさらえるのだ。

 レジの前で、私たちはメニューをながめた。ちょっとドキドキした。あいかわらず知らないカタカナが並んでいたから。飲んだことがあるお酒なんて、正直、この中の三、四種類くらいしかないかも。

「なにします?」私はいった。

「うん?」テラサキさんはいった。「普通にビールかな」

 私もビールか、いつものようにカシスオレンジを頼もうかな。でも、次の瞬間、ぴこんと頭の奥にライトグリーンの光が浮かんだ。

「どうせなら」私はメニューの左端をゆびさした。「この京都の地ビールにしません? 味も名前もわからないけど、いつだってチャレンジは悪くないでしょ」

 私はちらりとテラサキさんの顔をみあげた。何度見てもイケメンだった──いや、そんなことはどうでもいいんだけど。その整った目鼻だちの奥がすこしだけ輝いて、おっ、おもしろいこと言いだしたなこの女──みたいな空気を感じた。

「いいじゃん」テラサキさんはいった。なぜか財布をとりだして嬉しそうだった。「それ、後輩にきかせたいなと思った」

「マジですか」ここで謙遜するのは違うなと感じた。価値の高さをしめせたわけだから。逆に乗っかるときだった。「こんど一緒に説教します?」

 テラサキさんは笑った。「マジで頼むよ。四人くらいまとめて頼みたい」

 これは恋愛認知学の〝乗っかりメソッド〟だった。

 基本的に褒められたときは──嫌味っぽくならないようにしつつ──そのイメージを保つために受け入れるべきなのだ。わざわざ、いやいやいやいや、と、手を左右にぶんぶんふって否定する必要はない。そして相手に〝価値の高い女の余裕だな〟と感じさせる。

 それぞれ違う銘柄の地ビールを注文することになった。私はさっと自分のビールを注文して千円札を前においた。自分のぶんを払うのなんて当たり前でしょ、くらいの感じで。そこでも財布を手にしていたテラサキさんは、おっ、という顔をした。

 店員さんが、サーバーから、ビールを注ぐのを横目に話を続けた。

「そんな後輩に困ってるんですか」私はレシートを四つ折りにした。授業中の秘密の手紙みたいに。送り先は不明だ。

「それな、めちゃくちゃね。ほんと指示するまで何もしないんだよ」

「自主性がないみたいな感じですか」

「毎朝、俺がテーブルふいてるのみても無視だからね」テラサキさんはバーカウンターに雑巾をかける真似をした。正直、なにこの可愛いしぐさ、と思った。

「え、手伝わないんですか。先輩、僕もやりますとかいって」

「ないない。なんかスマホゲームしてるよ」

「スマホ──やばくないですか?」

「お、わかってくれる? どうやったら変わってくれるのか、上司と頭を抱えてるんだよね」

 これは〝ダークシェアメソッド〟だった。悪口をシェアすることで、ぐっと心を近づけられる。ここでは〝自主性のない後輩〟をダークシェアした。LINEでも使えるけど、デートの場では、めちゃくちゃトークを盛りあげられる必殺技になる。コツは「そういう人ってわかってくれないですよね」と、共犯者の視点に立つこと。

 二分くらいでビールがやってきた。それぞれ茶色の濃さの違うビールを持って「一口だけフライングしません?」と、その場で乾杯した。一口だけ飲んだ。

「めちゃくちゃ美味しい」私はうなずいた。そのあとの〝あなたといるからです〟という言葉はもちろん白い泡と一緒に飲みこんだ。「チャレンジしてよかったパターン」

「それな」

「です」

「こんな銘柄あるんだな」と、テラサキさんはメニューをもう一度のぞきこんだ。そのあとスマホをとりだして写真を撮っていた。好きな男性のこういうところって、どうしてこうも愛おしいのだろう。私の胸の奥はキュンキュンしっぱなしだった。

「楽しいですね」

 その感情をシンプルな言葉にした。いざ口にすると、すごく当たり前の言葉に感じた。でも、これが恋愛認知学のスーパーメソッドなのだった。

     ※
 
 フランソア喫茶室で、このメソッドを教わったとき、すぐにはピンとこなかった。

「モテない女の特徴を教えてあげるわ」ベニコさんはカップをおいた。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「それは〝なにを考えてるかわからない女〟なのよ」

「うん、どういうことですか」私は首をかしげた。

「いい?」ベニコさんはひとさし指をたてた。「そもそも、あんたたちパンケーキ女は〝なにを考えてるのかわからない近づき方〟をしすぎなのよ。わざわざ話をふっても〝どう思っているか〟を口にしない。毎晩のようにLINEを送るくせに〝なぜそんなことをするのか〟は隠そうとする。それである日、思いつめたように告白したり、もう恋は終わったみたいな顔をして、もう会うつもりはありませんと宣言したりする──男からすれば寝耳に水じゃない」

「それって、ちゃんとアプローチしてるってことじゃないですか」私は耳が熱くなった。なけなしのプライドのあまり反論せずにいられなかった。

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」

「なんかひさしぶりにいわれた気がする」

「そのホイップクリームのつまった頭で考えなさい」ベニコさんは息をすいこんだ。そのあと特大の大砲がやってくるだろうなと思った。「私は〝感情や考えていることは目にみえないから、ちゃんと言葉にしないと伝わらない〟という当たり前の話をしてるだけよ。そもそも人間にとって〝なにを考えてるかわからないやつ〟は恐怖の対象でしかない──本能的になにをするかわからない危険な感じがするから。だからこそ〝私はこういうことを考えて感じていますよ〟と伝えることで信頼感を勝ちとるのが大事なのよ。それを、あんたらパンケーキ女はもじもじ鴨川の土手にもぐりこんでる外来生物のヌートリアみたいにハッキリしない態度ばかりとって、それが可愛いと思ってる。それで女心を察してくれない男が悪い、なんて愚痴をこぼして満足してるわけ。もちろん本音を隠すのは恥ずかしさや、嫌われたくない気持ちからなのはわかるわ。でもね、ようするに、ほとんどの女は、コミュニケーションを〝相手に感情を察してもらう前提〟で作りすぎなの──パーフェクトにモテない女の特徴よ」

「ああああああ」と、私は胸をおさえた。スターウォーズの暗黒面におちた敵が持っている赤色のライトセーバーみたいにグサグサ心臓に刺さった。

 確かに、いつも感情や考えていることを隠していたかも。それで、どうして男性って察しが悪いんだろう、スマートに女心を理解してくれる理想の男性はどこにいるのと、ため息ばかりこぼしていた──察してちゃんだった。

「でも──そうじゃなかった」私はいった。「大事なのは、私が、自分の感情を、男性にわかるように伝えることだったんですね?」

「真実はいつもシンプル」ベニコさんはワンカールしたボブをつまんだ。「女の感情を察することができる男はモテるわよね──気持ちよく付き合えるから」

「めっちゃ少ないんですけどね」

「コインの裏をみることね」ベニコさんはいった。「これは〝感情を男に説明できる女はモテる〟ということでもあるのよ。ライバルに差をつけられるわ──破壊的なほどにね。いまこそ女は感情を言葉にする勇気を持つべきよ。これは媚びることでも、上から目線でも、わがままでもなんでもない。たんにあなたの意志を表明すること。そして他人に理解されること。これが恋愛認知学の〝トーク・イット・ストレート・セオリー〟よ」

 私はカップにスプーンをつっこんだまま十五秒かたまった。「なんか、どうしよ、すごい恥ずかしいです。頭がくらくらします。自信がなかったのかな。なにも言わなかったせいで、いろんなものを逃してきた気がする。過去にもどって、いろいろやりなおしたいくらいです」

「エクセレント」

「はい?」私は首をかしげた。

「いま素直に感じたことを言葉にできたでしょう?」ベニコさんの声はやさしかった。「だから私はパンケーキちゃんの感じていることがわかった。求めているものを理解できた。もっと恋愛認知学を教えてあげたいと思った──コミュニケーションってそういうものよ」

 私はスプーンをかきまぜた。珈琲がゆらゆらゆれた。

 またひとつ、なにかを教わった気がした。すごく、すごく大事なことを。けれど本当にすべて理解できたかはわからなかった。なかなかとけない砂糖のように。それでもスプーンをかきまぜるのをやめなかった。もっともっと愛される女になりたかったから。

■今日の恋愛認知学メモ

・【乗っかりメソッド】褒められたときに、そのイメージを保つために受け入れる。

・なにを考えているかわからなくて不審がられる女はモテない。

・女の感情を察することができる男はモテる=感情を男に説明できる女はモテる

・【トーク・イット・ストレート・セオリー】考えていることや感情を言葉にして伝える。

・ちゃんと言葉にする勇気をもちたいな。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短で好きな人とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」
第54話「デートをドタキャンさせないためのLINEテク」
第55話「まだ恋に駆け引きは邪道とかいってるの?」
第56話「私たちは恋が叶いそうになると不安になってしまう」
第57話「デートの待ち合わせで心を奪うためにできること」
第58話「モテる男をドキドキさせる話題の作りかた」
第59話「なにを考えているかわからない女がモテない理由」

\祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定/

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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