わたしは愛される実験をはじめた。第62話「この世でいちばんデートが盛りあがる話題とは?」
【読むだけでモテる恋愛小説62話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。
「ていうか──」と、その言葉を発する直前だった。
デートがはじまって一時間経過。京都タワー下にあるフードコート〝京都タワーサンド〟で、互いにビールを飲みながら、ちょっと話の弾む感触があった。逃すわけにはいかない。ここを逃すと今日は失敗に終わるだろう。いまこそ禁断のメソッドを使うときだった。
心がちくりと痛んだ。
恋愛認知学のメソッドで、もっとも汚い手段なのはわかっていたから。いま自分の口から出ようとしている台詞は──お行儀悪い台詞だ──ほぼ100%誰かを傷つけることになるだろう。心のなかで、いろんな顔を思い浮かべた。その全員に、ごめんなさいした。その最前列にいたのは自分だった。
私は息をはいた。そして口をひらいた。「モテない子のLINEって、長文で、絵文字多くて、なんか返信しづらくないですか?」
「あー、確かに」テラサキさんは笑った。スーツのジャケットをぬいだ姿は、やっぱり憎らしいほどのイケメンだった。まだ食事も終わってないのにごちそうさまだった。「それめっちゃわかる。こう──必死感?」
「必死感ありますよね」
「スマホのぞいて、びっしり長文がきてると、めんどくなっちゃうんだよね。その熱量に応えないといけない気がして。そもそも読みづらいし」
「そうそう」私はうなずいた。「謎に体力を奪われるんですよね」
「体力ってか、メンタル?」
「あー、それ。メンタル。なんなんでしょうね、あの感じ」
数秒だけ沈黙があった。お互いなにかを考えていたのかもしれない。正直、私は心臓のバクバクを抑えようと精一杯だった。
「てか」ビールを飲んだあと、急にテラサキさんの声が高くなった。くっきり二重まぶたの目も大きくひらいている。「ミホちゃんすごいな」
私はびくっとなった。ナチュラルに意味不明なことをいってしまった。「え、なにが? 変な食べ方してました?」
「なんでだよ」テラサキさんは笑った。なぜか私のつまらないひとことに笑ってくれるようになっていた。恋愛認知学の〝つまらない会話にくすくす笑うようになる〟という脈ありサインかもしれなかった。「めっちゃわかってるなと思って。男心。びっくりする」
こちらこそ、びっくりした。男性から(なんとイケメンから!)そんなこと言われると思わなかったから。むしろ男心なんて、いつも宇宙の彼方くらいブラックボックスで、一方的にふりまわされる側だったのに。いつもながら恋愛認知学のメソッドの効果にふるえた。
これが禁断の〝ダークシェア・メソッド・コア〟だった。
通常のダークシェア・メソッドは〝男性と悪口をシェアすることで一気に打ち解ける〟というもの。例えば、偉そうにしている上司とか、マナーの悪い友人とか、美味しくない居酒屋とか。結局のところ──悲しいけれど──悪口は盛りあがる。これは共通の敵をつくることで群れの結束を強めてきたとされる生物の本能に基づいている。
なかでも、この〝コア・バージョン〟は段違いのメソッドだ。この世で、いちばん男性と盛りあがる話題といってよかった。たぶん2000年前のデートでもそうだったろう。
それは〝モテない人間について語る〟というもの。
つまり男性と「モテない人間の困ったあるある話」をダークシェアするのだ。一部のモテる人間しか知らない話で盛りあがることで、良くも悪くも、私たちはモテる側の人間ですよね、という共通認識(仲間意識)をつくるのがポイント。その他大勢のパンケーキ女(ごめんなさい)との違いをみせつけるわけだ。
当然、この〝ダークシェア・メソッド・コア〟は、タイガー(モテる男性)専用のメソッドになる。間違ってもフィッシュ(モテない男性)に使ってはいけない。
いつでも使えるように「モテない人間の困ったあるある話」をスマホにメモしていた。
・いつでもLINEを即返信
・長文&絵文字大盛り
・やたらに「ごめんね、すいません」と謝ってくる
・間違いLINEや間違い電話のふりをして連絡してくる
・自分の気持ちを文面に書きつらねる
・無理にひねりだした理由でLINEしてくる
・一晩くらいで追撃LINEしてくる
きゅうううううっと心がえぐられる。昨晩、ベッドの上で書きだしながら、心のなかで2リットル入りのトマトジュース12本分くらい血の涙をながした。1文字フリックするごとに、心臓にダンプカー40台と野生のシカ65匹が同時に追突するくらいの衝撃をくらった。
この好きな人のためならと銀河の果てまで暴走する感じは、まさにパンケーキ女の私自身だったから。とはいえ、過去の自分がなにをしていたかを言葉にできるときは、そのぶんだけ成長しているときなのかも。
それから〝ダークシェア・メソッド・コア〟を使った。なんでもない顔をして、お箸で焼き鳥を串からはずしたり、机に飛んだ秘伝のソースをふいたりした。その奥で、本当は恥と恐れと罪悪感にまみれて、どばどば、ぬるぬる心の汗をかきまくりだった。
「そういう女子のLINEって、めちゃ、うかがってくる感ないですか?」
「うかがってくる感?」テラサキさんは首をひねった。
「こう、デートに誘わずに、今日は楽しかったです、あの映画話題らしいですよね、とか。もう完全に誘われ待ちです、みたいな」
「めちゃあるあるじゃん」話をするごとにテラサキさんの表情が軽くなる感じがあった。おでかけ用の鎧をといて、これが本音モードですというような。「匂わせなんだよな」
「匂わせ」私は笑った。
「なんでいま笑ったの?」とテラサキさんもにやっとした。
「いえいえ」私は首をふった。「断られるのが怖いんでしょうねえ」
「あー、ね」テラサキさんは天井をみながらビールを飲んだ。心のなかで、スマホをスクロールしてるのかもしれない。「丁寧なつもりなんだろうけど、ちょっと逃げてるよね」
正直、お行儀のいいメソッドではなかった。少なくとも自分は悪いことをしていないと開き直るつもりはなかった。
まわりの話し声や足音や物音のなかで、目の前をみた。シャツ姿のテラサキさんがいる。その堂々とした雰囲気や、色気のある顔をみているだけでドキドキする。胸の奥が苦しくなる。この人と一生をすごすことができたら、どれほど幸せだろう。
そうだ。この恋は、キレイゴトじゃない。どんな手を使っても──過去の自分や、誰かを傷つけたとしても──手にいれたいものがあるんだ。
「そういう人って」私はいった。大人の女みたいな表情をがんばって作った。「好きになると本当に余裕なくなるんですよね。こう、そもそも異性と喋った数が少ないから、簡単に、その人が世界のすべてみたいになるんでしょうねえ」
「あー、この人がダメでも、他にもいるからなって思えないってことか」
「思えないっていうか、知らないんでしょうね。それってもう経験したことがあるかだけじゃないですか。正直、ほら、イケてる異性なんてそのへんにいっぱいいるのに」
ここで〝イケメン崩しメソッド〟を使った。
これもタイガー専用の恋愛認知学メソッドだった。イケメンに対して「イケメンなんて探せばそこらにいますよね」という──ある種、真実で否定できない──セリフを投げかける。
恋愛認知学のセオリーは「自分はモテる女だ」と感じさせる言動によって〝自分のポジションをあげる〟というものだ。けれどタイガーほどの男性を相手にするときは、さりげに〝相手のポシジョンをさげる〟という作戦も有効になる。
ふと周囲をみまわした。会社員の集団がコートをたたんで立ちあがっていた。横で、食事をしていたカップルもいつのまにか消えていた。食事のピークは終わったようだった。自分のテーブルをみた。ほとんど空き皿。グラスのビールもなくなりかけだった。
「別のとこで飲み直しませんか?」と、私はいった。
■今日の恋愛認知学メモ
・【ダークシェア・メソッド・コア】気になる男性と〝モテない人間の困ったあるある話〟で盛りあがるメソッド。タイガー専用。
・【イケメン崩しメソッド】イケメンに対して〝イケメンなんて探せばそこらにいますよね〟と伝えてみせるメソッド。相手のポジションを下げる狙いがある。タイガー専用。
・これまでの私とはさよならするんだ……!
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(「わたしは愛される実験をはじめた。」の過去エピソード一覧は こちら)