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わたしは愛される実験をはじめた。第22話「ひとみしりを克服する方法」

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【読むだけでモテる恋愛小説22話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第22話「ひとみしりを克服する方法」

■第22話「ひとみしりを克服する方法」

 合コンの自己紹介で死にたくなるのって私だけ?

 男女全員に顔をむけられて、あう、あう、と、なにをいったらいいかもわからなくなって——しかし今回はちがった。私には恋愛認知学がついている。ばっちり備えたつもりだ。

「美術品販売会社で働いてます」私は用意していた〝日本の美術〟というストックを思いだした。こなれた感じにならないように台詞を決めきらないのがポイントだ。「子どものころから歴史が好きだったんです。休み時間は、伝記ばかり読んでて。とくに鎌倉時代はテンションあがりますね——だれにも共感してもらえないんですけど。会社では、日本の美術を、海外に広める手伝いをしてます。残業も多いけど、国宝級の日本画とかをみられたときは幸せですね。よっしゃ! って。有名人もけっこうくるんですよ」

「京都なんて、すごそうだよね」幹事のヒロトさんはいった。「誰がくるの?」

「それは言えないんです」私は首をふった。「絶対に盛りあがるからいいたいんですけど」

 大事なのは自分のなかでハードルをあげすぎないこと。私たちは自己紹介だけで人を好きになることはない。好きにさせることもできない。だから、ちゃんとした大人の女性なんだなと思われたらいい——これが目標。

「あと、この半年くらいはトマトパスタを作るのにはまってますね」私は続いて〝トマトパスタ〟というストックを使った。こういう話題を、二、三個用意すれば、気のきいた自己紹介になる。「デパ地下をまわって、どのトマト缶がおいしいかとか。生トマトがいいかもとか。有名店にいって研究したり。クックパッドとか。正直、いまも冷蔵庫のタッパーにトマトソースが眠ってますね。たまに自分でも、なにをやってるんだろうと思います。なんか半年に一個くらい、そういうテーマになる料理があるんです」

 男ウケを狙って〝料理が趣味〟という女性は多い。しかしそれじゃ抽象的すぎる。ちゃんと料理名をいったほうがいい。人間の脳は、具体的にものをとらえるほうが得意だから。男性もイメージしやすくなる。たとえば〝映画→耳をすませば〟〝カフェめぐり→おいしい珈琲をさがしている〟という感じ。これは恋愛認知学の〝具体性のメソッド〟になる。

 それを、しっかり顔をあげて、ちょっぴりエンターテインメントっぽく伝えること。それができる女が「あいつ大人だな」といわれるのだ。もちろん私だって、人としゃべるのが得意なわけじゃない。男性の質問に答えるだけでも、ブラの内側に汗がしみる。それでも、できることはやろうと決めた。

「自己紹介が苦手?」フランソア喫茶室にて、その相談をしたときベニコさんはいった。ワンカールしたボブ、ばっちり濃いアイメイク。ぼっちゃり体型ながら、アメリカ映画のキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「そんなのパーフェクトにパンケーキ女の甘えよ」

「甘え?」私は唇をとがらせた。「だって苦手なのは仕方なくないですか?」

「ノン」

「だって、ひとみしりとかってあるじゃないですか」

「もしかして」ベニコさんはむっちりした足を組みかえた。前かがみになる。「まだ、もじもじ顔をふせて、声も小さくて、ひとみしりだからとか言い訳ばかりで、自分がどんな人間なのかまわりに伝えることもできない女がかわいいなんて信じてるの?」

「いえ——」と、そこで心の奥に問いただしてみた。「でも、なんか、そういわれると」

「そんなのイチゴ味のする少女時代の幻想よ」

「ちょっと図星かも」

「たしかに大人の目からみて、もじもじする少女はかわいいでしょうね。でもね、私たちはもう大人なの。いい? だれだってひとみしりなのよ。あなただけじゃない。それを、がんばって乗りこえた人間とあきらめた人間がいるだけ——あなたはどっちなの?

 ベニコさんがアイメイクの濃い表情をむけた。

 その目力に押され、私は珈琲カップを両手に包みながら考えた。一度でも——ひとみしりを克服しようとしたことはあっただろうか? わからない。なかったかも。そのかわり、ことあるごとに〝ひとみしり〟〝人としゃべるのが苦手〟なんて言葉をもちだしていた気がする。だから許してね、と、まわりと自分に言い訳するみたいに。

「私って——」私はちょっとこわくなった。「いつからひとみしりになったんでしょう?」

「だれがそれを決めたと思う?」

「だれが?」私は天井をみた。そのあと自分をゆびさした。「私ですか?」

「だれも押しつけてないはずよ」ベニコさんはうなずいた。「あなたが勝手に〝自分はひとみしりだ〟と決めたの。人生のどこかで。そして、その通りに生きているの

 私は息をのんだ。「それって、なんかバカみたいじゃないですか?」

「バカで、かつパンケーキ女よ」

「ひどい」

「でもね」ベニコさんはにやりと笑った。「あなたは、いまから変わることもできるの」

 その言葉は、ひとりの部屋に帰ってからも頭にのこった。

 夜になっても布団にくるまって考えた。私は、これまで女の子として育てられてきた。ひとみしりで、ちょっと受け身な女の子。そう反応すると、大人たちはかわいいといってくれたし、テレビや漫画のヒロインも、それが正解だと教えてくれたから。

 でも、本当に、正解だったのだろうか?

 ちやほやされた女の子も、ふと気づけば三十代だ。ほうれい線をケアしながら化粧もするし、コンビニで買ったビールも飲むし、毎朝ぎりぎりの時間に電車で出社もする。そして「白馬の王子様なんていないから」と、大人になったつもりでも、心のどこかで、いつかステキな恋人があらわれると信じていたりする。そんな受け身のままで、なんとなくできた彼氏には旅行中にフラれて——そこで布団をめくって、がばっと上半身おこした。

 いま気づいた。ベニコさんから恋愛認知学を学びはじめたのは、もちろんモテたかったからだし、恋人もほしかったから。幸せになりたかったら。けれど、本当は変わりたかったんだ——そんな自分を変えたかったんだ。

 そして自分をそんな目にあわせていたのは、どう考えても、やっぱり私自身だった。勝手に自分を受け身な女だと決めつけていた。それ以外の人間になることをあきらめていた。あたりまえのことかもしれないけど、私にとって、その発見はおどろきだった。

 私はぶんぶん首をふった。ベッドの上で髪をふりみだした。私はいままでひとみしりだった。いまはひとみしりじゃない。卒業するんだ。そう眠る前に暗闇のなかでつぶやいた。すると明日から、ちがう人生がはじまる気がして、ちょっとだけ、がんばれそうな気がした。

 合コンはお酒とともに熱気をみせはじめた。テーブルには、グラス、小皿、箸、枝豆、お刺身、唐揚げ、焼きソバ、居酒屋メニューがならんだ。笑い声もはずんだ。

「ええ、トランポリンもやってたんですか?」先ほどから、私の横で、美容部員であり肉食女子のショウコはイケメンのテラサキさんを完全ロックオンだった。「サッカーもできてスポーツ万能じゃないですか。すごい——じゃあ、空中で一回転とかもできるんですか?」

「そうすね」テラサキさんはジョッキを手にうなずいた。「けっこう、そういう感じです」

「すごい。私、運動神経ないからスポーツできる人って尊敬です」ショウコは猫なで声で〝わたしの男に手をだすなモード〟全開だった。「なにか大会とかも、めざされるんですか?」

「国体は狙ってたんですけど——でも、それで、前にひざを故障しちゃって。いまは、あくまで趣味のレベルです。選手としてはもうやってないんすよ」

「そうなんだ。なんか、きいちゃってすみません」ショウコは全力で悲しそうな顔をする。

「やっぱり忘れられないものですか?」と私は質問した。ずっと、めざしてきた目標が失われるとはどういうことなのかをふと聞いてみたくなった。

「あ、トランポリンの大会ですか?」テラサキさんは真面目な顔になった。

「選手としてというか。ほら、一時期、情熱をそそいでたわけじゃないですか」

「ああ」テラサキさんはあごにふれた。心の奥に答えをたずねているという感じだった。私たちは、すぐに答えられないような質問をとおしてしか相手を知ることができないと思う。「なんていうか、むずかしいですね——」

「ちょっと」ショウコは私にむかって声を強めた。「そんな質問したら、テラサキさんが困るじゃない」そこでテラサキさんの方をむいて首をかしげた。「ですよね?」

 テラサキさんは流れにのせられて、ああ、と、うなずいた。

 ショウコは先ほどひきだした「中学時代の地元が近い」という共通点をつかって、二人だけの地元トークをはじめた。あそこのイオンがデートスポットだったとか。マクドナルドで事件があったとか。こうなると誰も参加できない。空気になって、近くの、ほかのメンバーとしゃべるくらいだった。どんどん二人の世界が作られていった。

 正直、ショウコのパワーに圧倒されていた。肉食女子。まさにティラノサウルスがジュラシックパークで暴れまわるみたいに止まらない。とにかく押して押してだった。すきあらばチャンスをもぎとって、その場の主役にならないと気がすまないタイプらしかった。

 私は隅の席で、氷のとけたカシスオレンジに口をつけた。私だってテラサキさんを狙ってるのに。くやしい。このまま、こんな肉食女子の進撃に負けちゃうんだろうか?

 そのとき、鞄のなかで携帯電話が震えているのに気づいた。

 探しものをするふりして、そっと鞄をのぞいた。ベニコさんからLINEだった。その文面は脳の真中に矢のようにつきささった。そうだ——そうだった。恋愛認知学では、めだちたがる肉食女子なんて目にならないくらい狙うべき役割があった。

「パンケーキちゃん。合コンでは、真に愛される女のポジションでいることよ」

■今日の恋愛認知学メモ

・自己紹介はハードルをあげないこと。ちゃんとした大人だと思われたらいいだけ。

・【具体性のメソッド】趣味はジャンルじゃなく具体例をしめすこと。「料理が趣味」よりも「トマトパスタをつくるのが趣味」みたいに。

・ひとみしりは、がんばらない人間の言い訳。いまからでも克服できる。

・肉食女子に負けてたまるか!

わたしは愛される実験をはじめた。第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」

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【読むだけでモテる恋愛小説23話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」

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浅田 悠介

マジシャン。ツイッターで恋愛について語りまくってます。アイコンをおすと飛べるよ。

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