「仕事以外、できないんですよ」Re.muse・勝友美の、完璧に見える人の不器用な日常
ミラノ・パリコレにも立つオーダースーツ「Re.muse」代表でテーラーの勝友美。完璧に見える人の"仕事以外できない"ポンコツな日常を本人が告白。料理もコーヒーも方向感覚も苦手でも、自分を否定しないしなやかさとは。
ミラノ・パリコレにも出展したオーダースーツブランド「Re.muse」代表で、テーラーの勝友美さん。完璧に見えるその人が、取材の冒頭でこう話してくれました。
「仕事以外、できないんですよ」
DRESSで公開した1記事目では、どん底からの立ち上がりと、自己肯定感の手放し方を伺いました。
「『成功した自覚は全くない』Re.muse・勝友美が教えてくれた、自己肯定感の手放し」
今回はその続編として、勝さんの“生活力”の話です。
これがもう、こちらの想像をはるかに超えるポンコツぶりだったんです。
■「仕事以外、なにもできないんですよ」
――勝さんでも、苦手なものってありますか?
この質問への答えとして、まず出てきたのは、勝さん自身のこんな言葉でした。
勝 友美さん(以下、敬称略): めちゃくちゃありますよ、本当に。食べ物はだいたいこぼすし、料理も本当にできなくて。仕事以外の私はポンコツ感がものすごいですよ。
パソコンも、打つ作業はできるけれど「ショートカットは、2〜3種類しか使えない」。Excelも「すごい数式を入れたものとか、全然使いこなせていない」。携帯にいたっては最低限は使えるものの、「何が起こってるのかよくわからない、みたいなことが結構起こる」のだとか。インスタもTikTokもYouTubeも、投稿するし見る。でも動画編集は「一切しない」。
勝: 「当たり前のところまではできるけど、それ以上の、詳しくないとわからないものはわからない。説明書を読んでできるようになるのが、好きじゃなくて」
■ドリップコーヒーは、3回に1回しか成功しない
——中でも特に苦手なものってなんですか?
勝:「とにかく料理が、壊滅的です。一緒にYouTubeをやっているスタッフの方が、クレソンのサラダを作ってくれたんです。おいしくて、しかも簡単そうに見えたんですよ。珍しくやってみようと思って作ってみたら——全然おいしくなくて、びっくりしました。葉っぱとマッシュルームとレモン、オリーブオイル、塩しか入ってないのに、おいしくなくできるって、どういうことなの?って。
玉ねぎのスライスも「ひと苦労」なのだそうです。「スライスがまず全くうまくいかなくて。玉ねぎ一個スライスするのに、こんなにストレスがかかるのかと驚愕で」。しかもできあがりは「臭いし、苦い」。
そして極めつけは、毎朝のドリップコーヒーなのだとか。
勝: 「あれも3回に1回、やっと成功するみたいな感じなんですよ。」
——え?「成功する」というのは何がですか? マグカップにドリップを被せて、お湯を注ぐだけのはずですよね。
勝: そうです。そこで、必ずひっくり返ったり、取るときに中のコーヒーの粒が入ったりしてしまう。だから毎回、お湯を入れたあとにスプーンでコーヒーの粉粒をすくって捨ててから、飲む、んです。
――わぁ、それは本当にポンコツですね(笑)。
勝: はい。なんでこんなことが起こるのかわからなくて。困ってますよ。
■東京の電車は、早々に諦めました
方向感覚も、なかなかのもので、「Googleマップを見てても、どっちがどっちかがわからない」。
勝さんが編み出した対策は、“少し歩いてみて、地図上の自分と照合する”方法。ちょっと動いてみて、「あ、こっちじゃなかったのね」と初めて気づく。「東西南北がわからない」のだとか。
上京したばかりの頃は、青山近辺の打ち合わせに電車で向かったら、「全く違うところに行って、帰り道もさんざんな目に」遭ったということも。
勝: 「もう無理だ……と思って、早々に諦めて。それから本当に、電車に乗ってないです」
そんな理由で、移動はもっぱらタクシー。配車アプリも「GOだけは使えるようになりました。住所を入れたらいいから」。海外でUberをさっと呼べる人を見ると「ああいうのは本当に全然無理」だと笑います。
それでも、飛行機のチケットはなんとか「自分で取れるようになった」。アプリを入れて、数年がかりで。できるようになることも、ちゃんとあるんです。
■メイクが下手、デパ地下のキラキラ感も無理
予想外でしたが、メイクも、勝さんは「得意ではない」と言い切ります。
勝: 「全然上手じゃないですよ。むしろ、めっちゃ下手だと思います」
勝さんは、取材中も、いつもすっぴん(本当に)。「日焼け止めのみ塗っただけで、眉毛も描いてない(笑)」。眉はアートメイク(皮膚に色素を入れて形を描いておく施術)にしているので、描かなくてもいいのだそう。
デパ地下も「行きたくない」。コスメを探すのも「もう無理」。みんながウキウキするその場所で、「私は全然しない。面倒くさすぎて」。
勝: 「バッチリメイクしてドレスアップして、ワイン片手に毎晩会食してそう、なんて思われるんですけど、ほんとに一切、興味ないんですよ」
そんな勝さんオリジナルの“メモ術”が、その人柄を物語っているなと思われました。日々目まぐるしく活動している勝さんがメモに使っているのは、システム手帳でもスマホアプリでもなく、いつも“裏紙”。
勝: 「カフェで飲み物を頼んだときなんかにいただく紙ナプキン、ああいうのにメモするんですよ。ちなみにこれはマクドのペーパーですね、これは上島珈琲のかな。気兼ねなく捨てられるから、メモ用紙として使うのにめっちゃいいんです」
そういって勝さんがいくつかのメモを見せてくださいました。たしかに、よれっと所在なげな紙ナプキンに、走り書きとも殴り書きとも言えない文字列が認められました。
よく見ると、書きつけられているのは、決算や、利益率の数字だったりするようです。「利益が〇〇%とか」。
世界の舞台に立つテーラーのアイデアは、案外、ファストフードの紙ナプキンの上で形作られているのかもしれません。
■それでも、味噌汁は作れるようになった
ここまで読むと、ただただ不器用な人に見えるかもしれません。でも勝さん、できるようになったことも、ちゃんとあります。味噌汁は4年かけて。
勝: 「繰り返し繰り返し作ったことで、いけるようにはなってきました!」
お味噌汁は「すっごいがんばって作れるようになった」そうです。「最初は信じられないぐらい時間がかかった」けれど、繰り返すうちにいけるようになった、と。飛行機のチケットも数年かけてとれるようになったわけですし。
編集後記:“できないこと”で、自分の価値を脅かさないこと
仕事では世界を舞台に活躍している一方で、玉ねぎ一個に手を焼き、毎朝コーヒー豆と格闘している。そんなギャップを、勝さんは無理に埋めようと焦るのではなく、そのまま受け止めて、受け入れているように見えます。
できないものはできないままに。できるようになりたいときは、自分のペースで、繰り返しやることで手に入れる。完璧じゃない自分を無理やり矯正しようとしない。できないことを必要以上に気にせず、笑い話として差し出せる。そのしなやかさに、勝さんが世界をリードしている理由の一端を見た気がしました。
できないことを隠さないこと以上に、それを自分の価値と結びつけない。できないことに足を取られず、必要以上に深刻にもしない。できないことがあっても、自分を否定しない。それも含めたしなやかさこそが、勝さんの強さそのものなのでしょう。
ただ、そのしなやかさは、できないことを笑って受け流すためだけのものではありません。勝さんの話はそこから、走り続けることの危うさと、あえて立ち止まることの意味へとつながっていきます。
次回は、勝さんが語った「戦略的に立ち止まる」という選択について。
文:すす / 写真提供:勝友美
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