1. DRESS [ドレス]トップ
  2. 恋愛/結婚/離婚
  3. わたしは愛される実験をはじめた。第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」

わたしは愛される実験をはじめた。第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」

Share

【読むだけでモテる恋愛小説12話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」

【これまでの恋愛小説】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」

■第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」

「まあ、でも、彼氏なんてすぐできると思いますよ」

 そういって、私は、しばらくベニコさんと会わなかった。仕事も暇じゃないし、なんだかんだいって、もう教わることはないと思っていたから。頭と妄想のなかで、自慢できる恋人ができたらみせつけてやろうと考えていた。とにかく調子こいてた。

 それがいけなかった。

 ベニコさんに教わった恋愛認知学。愛される女になるための魔法のコミュニケーションシステム。そのおかげで、すっかりモテる女の気分だった。そりゃいまは、ひとつの恋が終わった直後だから彼氏はいないけど、それはランクの高い男を探すためで、またすぐに私のことを好きになる男なんてあらわれるわ、みたいな感じで。

 だから、四月の頭に、ひさしぶりに三対三の合コンに誘われたときも――私を補欠の四番目くらいにしてるチヒロから――余裕のつもりだった。

 会場はチェーンの個室居酒屋だった。金曜日、私は仕事を京阪特急のように片づけると、市バスで京都駅にむかった。やけに近代的で、いざというときは巨大なロボになって町を守ってくれそうな京都駅を北に歩いた。

 スタバをとおりすぎた瞬間、あるアイデアが浮かんだ。時計をみると七時四十分だった。

「あれ? わざと五分くらい遅刻する恋愛認知学のメソッドを使えるかも?」

 もちろんモテる女と主張してポジションをとるためだ。鞄からピーチミントをとりだすと一粒がりっと噛んだ。私だって、受け身なだけのパンケーキ女じゃない。なにより自分で作戦を考えついたのがうれしかった。

 私はヨドバシカメラ京都店に入ると、意味もなくコーヒーメーカーの陳列棚にいった。すかさず店員に「試飲です」と小さな紙コップをわたされた。

「けっこう美味しくないすか?」その年下っぽい男子はやけに話しかけてきた。「僕の一番好きなブレンドなんですよ。これもイケてますよ」と笑顔で次々わたしてくる。

 私もあれだけいっておいて根が受け身だからかなんなのか流されるままに飲み干していった。よくわからない状況だった。「あの、ノルマでもあるんですか?」

「いや、僕バイトなんで。ノルマもないからどうでもいいんです」その男子は笑ったあと、顔を近づけた。内緒話のように店の隅をみた。「でも——あそこみえます?」

「どこです?」

「あの数学教師みたいな眼鏡のオッサン」

 私は紙コップを手にうなずいた。オーブンレンジのコーナーの前を神経質そうに歩いてまわる男性がいた。社員っぽかった。ちなみに、その男子から珈琲のいい香りがして——よくみると子犬っぽい顔が可愛かった——ちょっとドキドキした。

「あいつに働いてるふうにみせたいってわけです。だから、こうして、お姉さんに珈琲をわたして」そこでまたカプチーノをもらった。受けとる私も私だった。「こうやって口を動かしてれば時給がもらえるんですよ、僕」

 私はその率直さに笑ってしまった。居心地のいい子だった。

 しかし、そんな話をして、ふと気づけば八時十分だった。まずい。さすがに遅れすぎてしまった。ごめんなさいと頭を下げて、あわてて照明とアナウンスの飛び交う店内をぬけると、同じ大通りに面したビルに入った。

 エレベーターをおりて——スマホを鏡にしながら光速で髪をととのえた——幹事の名前を告げると、さっそく、ふすまで仕切られた部屋に案内された。

「あ、ミホ、ひさしぶりだねえ」

 そこにいたのは女幹事のチヒロ——学生時代から趣味が合コンだった——と、もう一人スーツの男性だった。二人だけ。コースを頼む前にビールを飲んでいる。「みんな遅れてるみたい」とスマホを手にチヒロはいった。それから、こっちは幹事のヒロト君、薬剤師をしてるの、と紹介された。

「ごめんね遅れちゃって。先に飲んじゃおうよ」と、ヒロト君は、元気な声で笑いながらビールを飲んで店員を呼んだ。短髪で、いかにも幹事というタイプだった。

 なんだこれ。

 私の想像ではもうスタートしていて「遅れてすみません」と登場するなり「お、モテそうな女がきたぞ」と質問攻めにあって、その場の話題をかっさらう——とまでいわないけれど。もう少しなにかあるはずだった。はりきった日に限ってこんなことになる。普通の出会いと合コンは、まったく別物らしい。

 ほどなくメンバーは集まった。ようやく三対三の合コンになった。

 はじめに軽い自己紹介があった。それが地獄だった。まず男子が名前と仕事の話をして——ヒロト君からツッコミがあったりした——そのあとチヒロと、その友人のカナが銀行の窓口だといった。高い声で、なんとなく合コン用のキャラっぽかった。それでも「それって何色の銀行?」なんて盛り上がったあと、パンケーキ女である(この時点で自己評価は下がっていた)私の出番だった。だれかの「お、トリだな」という声がドリルみたいに耳にささった。

「えっと、ミホです」私の声は小さかった。「美術品の販売会社で働いてます」

 一同は私の方をみる。けれど、なにを言葉にすべきかわからなかった。ブラの内側に嫌な汗がしみる。「あ、あう、え——」と口ごもった。

 すかさずヒロト君が元気な声をあげた。「趣味はなに?」

「しゅ、趣味ですか?」私はその言葉にとまどった。人生で何度も経験してきた質問のはずなのに、そのたびに頭が真っ白になる。「あ、すいません、とくにありません」

 自己紹介タイムは終わった。チヒロが私をみて笑った気がした。

 実際、彼女たちのコンビプレーは絶妙だった。私がぼけっとしている間に、さっと赤と黄色のパプリカの入ったシーザーサラダを小皿にわけて、男性陣のグラスがあいたらドリンクメニューをさしだす。そのときの手の形や上目づかいも、いちいち女性雑誌の合コン特集の完コピみたいで、女の私がみても完璧だった。

 男子はヒロト君と同じくスーツであらわれたコウスケ君とダイチ君だった。正直、ひさしぶりの合コンの空気にのまれて観察する余裕もなかったけれど。

 でも、このなかでは、ダイチ君が一番カッコいいと思った。黒髪で、ちょっとエネルギッシュな感じ。バックパッカーみたいな海外旅行が趣味らしかった。

 ほかの女子が同じことを考えているのもわかった。とくにチヒロは、トイレから帰るなり、その前の席に陣どって、自動車の部品メーカーという仕事について質問しては、しきりに「すごい」を連呼して〝私の狙った男に手をださないでモード〟全開だったのでおとなしくするしかなかった。

 気づけば、私は、大皿にあまったサーモンや唐揚げをひきうけるだけの女になっていた。盛りあがる個室にて、横で、へらへら愛想笑いするだけだった。

 というのも、ことごとく恋愛認知学のメソッドが通じなかったからだ。

 まず相手が複数いたからルッキングもどうすればいいかわかなかった。興味ある相手にだけ視線をむけるといいのだろうか? でも、合コンは、みんなに好かれた方が得な気もするし——この場では、なにをするのが正解なんだろう? 

 相手と深い仲になるためのキラークエスチョンやラブリートークメソッドも持ちだせるような空気でなかった。海外旅行やスノボや地元の話に、私は、箸を手に「へええ」とか「ふうん」とか空気みたいな声をだした。

「助けて、ベニコさん」と、私は、心のなかでさけんだ。

 ブルーベリー味のケーキっぽい雑なデザートがでたあと、短いのか長いのかわからない二時間は終わった。ビルの前で「じゃあ、あとでLINEグループつくるから」と、男女は解散した。気づけば、みんなのこともよくわからないままだった。

 それでもチヒロとカナは満足そうだった。地下鉄で帰るからと、適当な嘘をいって男性陣とわかれたあと「合コンって反省会が楽しいんだよね」とひきかえしてスタバに入った。

 私も同席したけれど、そこからはダメ出しの嵐だった。男性陣に対して——でも、あのダイチさんはアタリだよね——それから私に対しても。その優越感をこめた顔で「もっと、アピールしないとダメだよ、合コンはテンションだよ?」とアドバイスをくらった。

 帰り道、とぼとぼ三条大橋を歩いた。

 対岸の三条ローソン前で、観光客がカメラをむけているものがあった。酔った足どりの男女も立ちどまっている。夜桜だった。一本だけ、街路樹が咲いていた。夜の河原から、飲み会をおえた学生たちの笑い声がした。

 そうか。もう春なのか。

 春は出会いの季節。子どものころから何度も聞かされてきたフレーズだった。でも実際のところ、この年になれば新しいことなんかなにもおこらない。数年に一度、職場に、緊張した顔の新入社員がやってくるくらい。

 30才で彼氏にふられて、いまも一人。だれも愛してくれない。

 じゃあ、私の人生は——ずっとこのままなの?

 そんなことを考えていると、あ、泣くかもと思った。そう感じた次の瞬間には、本当に涙がでてきた。とまらなかった。バッグから、あやしい仕事を紹介してくれる広告のついたポケットティッシュをとりだして目におしつけた。

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」

 その声に、ぴたりと手をとめた。

 そっと顔をあげる——ばっちり濃い欧米風のアイメイクと目があった。ワンカールしたボブ。ぽっちゃり体型ながら、品のいいスーツを着こなして、海外映画のキャリアウーマンという雰囲気だった。

「ひさしぶりね」ベニコさんはいった。「私を呼ぶ声がしたの」

■今日の恋愛認知学メモ

・いままで習ったメソッドは合コンでは通じない?

・私は、まだまだ愛される実験をしなきゃいけないみたい。

わたしは愛される実験をはじめた。第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」

https://p-dress.jp/articles/5241

【読むだけでモテる恋愛小説12話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

Share

浅田 悠介

マジシャン。日本催眠心理協会認定 心理療法士。いつも「ウインナー珈琲を飲みたいな」とか考えながらコミュニケーションについて書いてます。おかげさまで「最近なにしてるの?」「愛について考えてるよ」が鉄板の返しです。

Latest Article