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わたしは愛される実験をはじめた。第11話「愛される女はさよならを知っている」

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【読むだけでモテる恋愛小説11話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

わたしは愛される実験をはじめた。第11話「愛される女はさよならを知っている」

【これまでの恋愛小説】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」

■第11話「愛される女はさよならを知っている」

 とにかく私の恋がどうなったか報告しようと思う。

 オクムラさんとは、あれから二回デートをした。一回目は三条の新京極通にある映画館——それも恋愛ものだ。これも恋バナをすることで、男性の脳を恋愛モードにする“ラブリートークメソッド”の応用で、恋愛認知学の“ラブリーシアターメソッド”だった。

 暗い映画館から外にでるとぼうっとなった。

 主人公のドラマチックな純愛が乗り移ったみたいだった。つい恋をしたくなってしまう。寺町タリーズの二階のソファで感想をいいあうと、一層、その感覚は強まった。見終えた映画の話をして、さらに感情を深めるという二段構えの技だった。

 宇治抹茶ラテのカップを手に、オクムラさんと目があうとドキドキした。そして互いにドキドキしていることもわかった。

 恋愛認知学のメソッドには一つだけ欠点がある。効きすぎてしまうこと。愛される前に、愛してしまわないように心を強くひきしめなくてはいけなかった。

 それから三条商店街のまんなかで「三嶋亭」の老舗のすき焼きを食べた。テーブル席に空きがないということで、偶然、個室にとおされた。床の間に掛軸まであるような和室で、ちょっと大人のデートだなと思った。

 気のいい仲居さんが、じゅうじゅうと春菊や牛肉を焼くのを横目に、瓶ビールをついで、オクムラさんは仕事の話をはじめた。いつも帰りが遅いとか、業務が多いとか、転職を考えているだとか。

「ミホさんには、なんでも喋ってしまうな」と、オクムラさんは白飯をたべた。

 そのとき、私は口につけたグラスをとめた。「あ、その台詞は、モテない人間だと主張することになってしまうのに」と冷静な自分がいた。

 モテる人間のふるまいをすることで、異性の気をひくという恋愛認知学の教えに反してしまう。デートでは、私は人生を楽しめていません、なんて話をすべきじゃない。どんなときでも人生を楽しもうとアクションしている、と伝えるべきなのだ。

 さらにオクムラさんは心を開いてくれたからか——ありがたいことに——なんで生きているかわからない、自転車にのって人生から逃げだしたい、なんて話まではじめた。想像以上のネガティブトークだった。

 私は箸を手に、せっかくのすき焼きとビールなんだから、もうすこし楽しい話をしたかったのにと思った。視線を落として、お皿のすみで、くたくたになった青ネギをつついた。そんなんじゃ、女心はひきつけられないのよ。

 その日から、オクムラさんからLINEがきても心躍らなくなくなった。既読をつけたまま放置でも気にならない。数日後に返信することさえあった。あれほど即座に返さないと心配だったのに。

 面白いもので、そんな扱いをするようになって——正直雑だと思う——よりオクムラさんからLINEがくるようになった。

 返事もしないうちから“追撃LINE”がくることもあった。なにげなさそうな文面は、このあいだ教えた四条のそば屋の感想だったけれど、返事がないのを気にしているのがわかった。男性というものは追えば逃げるのに、こちらが気のない態度をとると、あわてて追いかけてくるものらしい。

 もちろん、これも恋愛認知学で説明できる。私が“価値の高いモテる女”のふるまいをしているからだ。わざとではないにしろ。

 そして考えてみれば、これはいままで、私が、さんざんモテる男たちにされてきたのとおなじことだった。彼らは女に対して、実に、そっけない態度をとる。お前のことなんか求めてないし、ほかにも候補は大勢いるんだよ——というふうに。それでどういうわけか、こちらとしては、ぐんぐん心を奪われてしまうことになる。

 こんどは私がモテる女として、異性に、そういうことをしているわけだ。

 それでも、せっかく私のことを気にしてくれているわけだし、この歳だから、そろそろ結婚も考えないといけないし、他にいい人がみつかる保証もないから、このあたりで妥協も必要なんじゃないかな——そんな考えが洗濯機のなかみたいに頭をまわった。

『次の土曜飲みにいきません? 上司に教えてもらった焼鳥屋が美味しいんです』

 そんなときに、オクムラさんから誘いがきた。

 土曜は約束があるというと——本当は女友達とヨガにいくだけだとはいわなかった——では日曜日でもいいですからと強引に決まった。

 いつのまにオクムラさんがアピールをして、私が、それを受け入れるか判断する立場になっていた。完全にポジションはこちらにあった。気に入らなければ、せっかくの休日をあなたに使うわけないわよ、というふうに。

 私はカーペットの上で、ベッドの側面にもたれた。ニトリの家具がきしんだ。三回目のデートか。なにかあるかもしれないと思った。

 約束の夜、京阪の神宮丸太町駅におりた。地下から階段をあがると、すこし季節を巻きもどして真冬のような風が吹いた。待ち合わせ場所の交差点はすぐにわかった。

 すぐ側の河原で、鴨川が、黒い水面にゆらゆら町あかりを映していた。

 その光景をみつめているうちに、ふと悲しくなった。理由はわからない。いや、予感していたかもしれない。のこり少なくなったページを気にしながら、そっと一冊の本を読み終えてゆくような感覚だった。

 案内されたのは屋台風の焼鳥屋だった。軒先にビニールシートをはって、その空間を、中央においたストーブが暖めていた。鉛筆と注文用紙を手に、あれもこれも美味しかったよなと、店員にわたしながら、オクムラさんの様子がおかしかった。

 なにかを焦っているみたいだった。ビールを飲んで、串にさされたモモ肉やピーマンや砂ずりをかじって、だまったかと思えば、急に実家や職場の話をはじめたりした。前の恋人は、仕事に悩みすぎたあげく、一方的にわかれを告げたのだとも語った。そのあと、ちらっと私の顔をのぞいた。だからと目をあわせるとそらした。

 こんなにお喋りな———自分の話ばかりする人だっただろうか。はいと手札をひろげて、なんでもかんでも隠さず言葉にされてしまうと、女としては、どこに惹きつけられていいかわからなくなる。

 私はあいづちをうちながら目の前の男性をみた。

 素敵な人だった。もう一度、好きになれるだろうかと考えてみた。その瞬間、とっくに、私のなかでなにかが過ぎ去ってしまったのを感じた。

 会計のとき、いつものように半分だそうとすると「払わせてください」とオクムラさんはいった。いつになく真剣な表情だった。私は財布をひっこめた。基本的には女も会計を負担すべきと学んだ。けれどいまがその例外なのだと思った。

 お店をでると粉雪がふっていた。夜風に白いものがはらはら——手のひらにのせるとすぐに形もみえなくなった。横でオクムラさんはなにかいいたそうにしていた。けれど口からでたのは、これも最後の雪かもしれませんねと、あたりさわりない感想だった。

「あの」その駅までの帰り道、オクムラさんは細い声でいった。「今日は手をつなぎませんか?」

 私は反応できなかった。心のなかの答えに気づいてしまったから。むしろ、どうすればオクムラさんを傷つけずにいられるだろうと考えた。

 すると急にオクムラさんが足をとめた。「あの、すいません」

「はい?」私も足をとめた。

「ぶっちゃけ——僕って男としてありですか?」

 私はさらに返事できなくなった。数秒後、それ自体が返事になっているのだと気づいた。

「なんていうか」オクムラさんは足もとをみた。地面はとけた雪で雨つぶのようにぬれていた。「すごく話しやすくて、素敵な人だなって思ってました。今日、ちょっと変な感じだったかもしれないけど、ずっと緊張してて。あの、もし、よかったら付き合ってもらえませんか」

「私、ですか?」

 つい口からでたのは的外れな言葉だった。ひさしく、こんなふうに告白されたことなんてなかったから。頭が混乱した。顔がほてった。恥ずかしかった。でも、うれしかった。

「無理そうかな」オクムラさんは髪をかいた。「そんな気もしてて」

「いえ——」

「ミホさんはモテるだろうからなあ」

 私はすぐにも訂正したかった。そんなことないですよ。やっぱり男性と目をあわせるのは緊張するし、LINEできる男性なんていないし、彼氏にはフラれたし、歳も歳だし、将来のことを考えると落ちこむし、町でイケメンをみるとため息がでるし、若い女の子の悪口なら朝までいえるし、いまだに男の人ってなに考えてるかわからないし。

 でも、だめだ。口をぐっと結んだ。

「その気持はすごくうれしいです」私は首をふって、あいまいな表情をつくった。そして頭をさげた。「でも、すみません」

 私のことを好きでいてくれたのは事実だから。そのことに感謝しよう。だからこそ、ここは強がらなくちゃいけない。そう、私はモテる女なのよ。

 オクムラさんは大きな息をつくと、どこか肩の荷のぬけおちた顔をした。

 私は、オクムラさんをおいて地下の駅にもぐる階段をおりた。最後、ふりかえって目をあわせたときの、さびしそうな表情はこれからも忘れそうにない。「さよなら」といえずに「また」といって別れたのだけれど。

 かすかに雪のついたバッグに手を入れた。できた女でもないのにハンカチなんかあるわけなかった。代わりにどこかでもらった薬局の割引券つきのポケットティッシュをだした。

 ありがとう。あなたのおかげで少しだけ愛を知ることができた。

           ※

「ねえ、やっぱり惜しいことしたと思いません?」喫茶フランソアにて、かちゃかちゃカップの音を立てながら私はいった。「だっていい人だったし。感覚もあったし。ずっとLINEも続いたじゃないですか? ていうか告白されたんですよ? いまでも思いだすだけでビール二杯はいけますよ。女性ホルモンがうなぎのぼりです。肌も若返った気がするし。ほんと、どうしよ、どうしよ、どうしよ」

「ねえ、パンケーキちゃん。ひとことだけいわせて」ずんぐり体型の女性は微笑んだあと、その口紅をうごかして、濃いアイメイクでにらんだ。「極めてうるさい」

 品のいいブラックスーツ。ワンカールした黒髪ボブ。アメリカンな濃い化粧。春を前に、あいかわらず海外映画のキャリアウーマンという雰囲気だった。

「いっときでも心をかよわせた男に情けが残るのはわかる」ベニコさんはいった。「でも、あなたは自分を幸せにするために生きてるのよ。そんな感傷にひきずられてどうするの? それなら、その男と一生いればいいじゃない」

「それは——」私はいいよどんだ。

「愛はシビアよ。あんたは、結局、その男じゃ物足りなくなったのよ。恋愛認知学を身につけて男を見る目もかわったはずだから。例えばネガティブな話をしたり、自らアクションできない男に魅力を感じなくなったはずよ。それは期待や、緊張や、妄想なしに、本当の意味で、男をみられるようになったということなの」

「そうなのかな?」私は首をかしげた。「自分ではわからないけど」

「女としてのレベルがあがったわけね」

「え、ほんとですか?」

「猿が原始人くらいになったんじゃない?」

「全然だめじゃないですか」

「やっと狩りをおぼえたってことかしら」ベニコさんはいった。「これから女として成長するたびにますます男が子どもにみえてくるはずよ。そして、男が子どものようなものだと心得ている限り、あなたはすべてを知っていることになるわ」

「でも、このまま一人なんじゃないかなって怖いんです。恋愛認知学があるとはいえ、年齢もあるし、そろそろ妥協とか——やっぱり私がモテる女になるなんて」

「だからあんたはパンケーキ女なのよ」

 私は顔をあげた。 

 ベニコさんは赤い布ばりの椅子に足を組んでいた。カップを手にしていた。優雅に口にはこんで、テーブルにおいたあと、いつもの笑みを浮かべた。

「まだ、あなたの愛される実験は始まったばかりよ?」

■今日の恋愛認知学メモ

・【ラブリーシアターメソッド】デートで恋愛映画をみるメソッド。男性の脳を恋愛モードにできる。そのあと感想をいいあうことで、さらに恋愛感情を強めることができる。恋バナをして、相手の脳を恋愛モードにするラブリートークメソッドの応用。

・デートでネガティブトークは禁止。ポジションが下がるから。どんなときでも人生を楽しもうとアクションしている、と伝えるべき。

・えっと、まだ——わたしの愛される実験は始まったばかりなの?

わたしは愛される実験をはじめた。第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」

https://p-dress.jp/articles/6468

【読むだけでモテる恋愛小説12話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

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浅田 悠介

マジシャン。日本催眠心理協会認定 心理療法士。いつも「ウインナー珈琲を飲みたいな」とか考えながらコミュニケーションについて書いてます。おかげさまで「最近なにしてるの?」「愛について考えてるよ」が鉄板の返しです。

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