潔くなくても、不器用でもいい。愛すべき「私のスタイル」はきっとある
ビーチリゾートで見かけた、鮮やかな風景と対照的なホワイトシャツに身を包んだひと。彼女のように、自分のスタイルに自信を持って生きられたら、どんなにいいだろう。イラストレーター・ヤベミユキさんが、街で見た素敵なひとからその背後のライフスタイルを想像します。
街を歩いていて目を引くあの人。なぜその人に惹かれるのか、そこに感じられるのは背後にあるライフスタイル。その人からイメージをふくらませて、素敵な生活を想像してみた。
■どこにいても自分のスタイルを纏う人
先日、ビーチリゾートで見かけた、鮮やかな景色と対照的なホワイトコーデに身を包んだ人。
1枚でさらりと纏ったビッグサイズのリネンシャツは、袖にギャザーがあしらわれていてシンプルながら存在感がある。ドラマチックなつば広帽の顔周りにはスカーフが巻かれていて、クラシカルでいい。
この大きなつば広帽をトランクに詰め込んだであろう彼女は、あれもこれもと欲張らずに、自分らしい洋服を厳選したのだろう。
ホテルに帰ったら海水で濡れたシャツを洗濯して、次の日はタウンで着るのかもしれない。
ハットは、スカーフはどのように着るのだろう。
どこにいても自分のスタイルはこれだと言っているかのような彼女。
彼女のように、自分のスタイルを纏って生きられたならどんなにいいだろう。
■あなたの「スタイルの核」は、どこにある?
そう、たとえば。
季節の変わり目のおしゃれを吟味する。
シーズンスタートはスタイルを更新するチャンス。
そのシーズン初めて買うものは、ぜひとも全力で選択してほしい。
なんとなくで買ってしまうと、それに合わせるアイテムもなんとなくになり、結果、シーズンエンドまで引きずってしまう。
(ちなみに私はセールを我慢して、そのシーズンの新作を買うようにしています)
自分らしいスタイルに悩んだときは、クローゼットを見返してみる。
トレンドが変わっても、なぜか手にとって身につけているもの。着古して襟ぐりが伸びたものや履き倒した靴も、それらのアイテムがあなたのスタイルのキーとなる。
(そういったアイテムは廃盤になる前に同じものを探すべき!)
自分の好きなものがわからなくなったときは、ノスタルジックな風景をヒントにしてみる。
なぜなら、なんとなく好きな配色、匂い、空気感、雑多感、本質的に好きなものはここに眠っていることが多く、知らず知らずのうちにオシャレのベースになっていたりするから。
最後に。
スタイルをつくるのは毎日の繰り返し。
いくら素敵なものを着ても、中身が伴わなっていないときっと映えない。
食事は特に大切で、丁寧に食事をすることは、自分を慈しむ行為に直結する。
決して、心と身体を適当なもので満たしてはいけない。
そんなことを考えていると、ふと、長女のため息が聞こえた。
「最近、みんなと同じことができないし、自分だけ違う気がする。でも個性もないし、なんだかダメ人間な気がする」
もうすぐ10代の多感な時期。
みんなと一緒のレールの上から落ちないように、彼女なりに戦っている。
ああ、私もずっとそうだった。
できないことも多く、思春期になると、その自信のなさからカメレオンのように人の顔色を伺うことばかりを覚えた。
スタイルだって未だ確立していないから、試行錯誤しながら、でもなんとかやっている。
ビーチで見た潔い彼女が死ぬほど眩しいけれど、でもこの不器用で散らかった感じが私のスタイルなのだろう。
コンプレックスに隠れていたけど、探さなくてもここにあったのだ。
その空気感は、まさしく大好きだった田舎の風景だった。
『素敵なひとの素敵な生活』のバックナンバー
#1「シンプルなTシャツに、むら染美しいスカーフ。素敵なひとの素敵な生活」
#2「初秋の着こなしが素敵な人。アメリカンスリーブのニットに襟の抜いた大きなシャツの組み合わせ」
#3「セットものをシンプルに。ツインニットを素敵に着こなすひと」
#4「秋の深まりを楽しむ着こなし。繊細で綺麗な色使いが素敵」
#5「凛とした冬の足音が聞こえる季節。衣替えは、自分のイメージを更新する絶好の機会」
#6「食べることは、生きること。自分を慈しむ、王様のような朝食を」
#7「あなたは大切な人と過ごしている時、どんな顔をしていますか?」
#8「大人だからクリスマスには浮かれてはいけない、なんて誰が決めたのだろう」
#9「ざっくりニットでゆったりとした年の瀬を。除夜の鐘に耳を傾け、新しい年に想いを馳せる」
#10「新春。取り巻くすべてを楽しみながら、新しい自分を見つけてゆく」
#11「女の子は誰だって女優。さまざまな自分を演じる楽しみ」
#12「バレンタインだから楽しみたい、ドラマチックな女性性」
#13「帽子のある生活で、“おしゃれを楽しむ心”を呼び覚ます」
#14「出会いと別れの季節こそ、立ち止まってノスタルジーに浸りたい」
#15「“今”の美しさに気づき、その瞬間を生きるということ」
#16「不要なものを手放し、今まで懸命に生きてきた自分自身を愛する」
#17「『どうせ私なんか』をやめてみる。おしゃれを楽しむ少女が教えてくれたこと」
#18「忙しない毎日。ときにはだらだらと、心ゆくまで休んでもいい」
#19「小さな思考や選択の積み重ねが、素敵な自分をつくってくれる」
#20「動いて、食べて、眠る。その繰り返しが、未来の美しさの糧になる」
#21「ときには梅雨のアンニュイな空気に浸り、雨の美しさに目を向ける」
#22「今年の夏は一度きり。目で、耳で、肌で、儚い季節をめいっぱい楽しむ」
#23「朝顔のように自然体で、自由に腕を伸ばして生きればいい」
#24「潔くなくても、不器用でもいい。愛すべき『私のスタイル』はきっとある」
イラストレーター。美容、アパレル業界を経てイラストの世界へ。前職のキャリアを活かしたファッション、美容イラストを描いています。