“理想の私”にはなれなくても、“不完全な私”が愛おしい
イラストレーター・ヤベミユキさんが、街で見た素敵なひとからその背後のライフスタイルを想像する連載。最終回となる今回は、褐色の肌とパステルカラーのコントラストが美しいひと。凛とした彼女の姿から、自分を愛し生きることについて考えます。
街を歩いていて目を引くあの人。なぜその人に惹かれるのか、そこに感じられるのは背後にあるライフスタイル。その人からイメージをふくらませて、素敵な生活を想像してみた。
■褐色の肌にパステルカラーのコントラストが美しいひと
先日街で見かけた、褐色の肌にパステルカラーのコントラストが美しいひと。
オーバーサイズのデニムジャケットに、パステルピンクのシアーなドレス。
淡く甘い配色が、褐色の彼女の肌を引き立てる。
ワンピースの裾からサイクルパンツがちらりと見え、ハリのある健康的な太ももが覗く。
艶やかな黒髪は高い位置で潔くまとめられていて、彼女の凜とした横顔が際立つ。
彼女らしさを引き立てる物選び。
彼女がありのままの自分を愛し、気に入っているのが感じられる。
コンプレックスを隠そうと、スリップワンピに無理に重ねた私のパンツスタイル。
なんだか自分の着こなしが急に重く感じた。
彼女のように、自分を愛し生きられたならどんなにいいだろう。
■完璧じゃない自分を好きになるということ
そう、たとえば。
本当に自分に似合うスタイルを見つける。
そのために、洋服を選ぶとき、自分を写真に撮って客観的に見てみる。
「鏡を見れば解るから」と言われそうだけど、私たちはびっくりするほど鏡を色メガネで見ているもので、鏡を見たスタイリングと、後から画像で見たスタイリングでは大体よいと思うものに相違がある。
(あと、隠そうとすればするほど悪目立ちするのもよくわかる)
次から次へと何かが欲しいときは、本当にそれが欲しいのか考えてみる。
満たされない何かのために、代替品で心を満たそうとしていないだろうか。
欲しいものは、ものの先にある何なのか。
財布を開く前に、ノートを開き自問してみるといいかもしれない。
自分を愛せないと感じるときは、愛を感じる食事を心がけてみる。
贅沢なフルコースでなくてもいいので、いつもより丁寧な食事を。
(素朴なものでいいのです。丁寧に出汁をとった具だくさんの味噌汁なんてどうでしょう)
私たちは食べたものでできているので、丁寧に食事をすることは丁寧に生きることであり、
自分を慈しむことでもある。
また、眠ることもしかり。疲れたのなら、マッサージに行くよりもさっさと寝てしまう。
(ちゃんと食べ、ちゃんと寝ると大概うまくいきます)
落ち葉のつもる公園で、思い切って素足で地面を歩いてみる。
落ち葉でふかふかの地面はじゅうたんのように暖かく、足を下ろすたびにしゃくしゃくと音を立てる。
世界は思ったよりも優しく暖かい。
頑張り屋のあなたは窮屈な高いヒールの靴を履いて、かかとを下ろせずに頑張っているのかもしれない。
疲れたのなら、思い切って降りてみる。
意外にも地につけた足は心地よく、そこから見る景色が素晴らしいことに気づく。
ゆっくりでも地に足をつけて自分の足で進む方が大切。
ふと、街で見かけた彼女たちを思い出す。
背伸びせず、自分を引き立たせるお気に入りを長く使う。
「私は完璧じゃないけどそんな私を気に入っているの」
そう言っている気がする。
理想の自分になれたら、新たに何かを手に入れたら、街で見かけたような素敵な人たちになれるのかと思ったけど、結局自分は変わらないし、ファッショニスタのようなオーラは手に入らない。
でも、完璧じゃない自分のなかに「それ」はもともとあって、それに気づいたとき不完全な自分が少しだけ好きになれた。
私は文章を書くのが苦手だ。
毎回部屋に閉じこもっては書いては消し書いては消し、伝えたい何かがあるのだけど、つかめずに指の間からするりと抜けていく。
他の人の文章を読んでは、格好だけの空っぽな自分に落ちこんだりもした。
だけど、苦手だと思いながら書き続けたこの連載も完璧じゃないけど愛おしい。
この連載を読み返しながら、来客用にととっておいたとびきりのコーヒーを飲もう。
そう思い、いつもよりちょっとだけ丁寧にお湯を沸かした。
イラストレーター。美容、アパレル業界を経てイラストの世界へ。前職のキャリアを活かしたファッション、美容イラストを描いています。