小さな思考や選択の積み重ねが、素敵な自分をつくってくれる
イラストレーター・ヤベミユキさんが街で見かけた素敵なひとを紹介する、『素敵なひとの素敵な生活』。今回は、1枚の靴下をじっくり吟味する、ミックスコーデとニュアンスのある配色にセンスを感じるひと。顔を上げ、こちらに近づいてくる彼女の正体は……。
街を歩いていて目を引くあの人。なぜその人に惹かれるのか、そこに感じられるのは背後にあるライフスタイル。その人からイメージをふくらませて、素敵な生活を想像してみた。
■ミックスコーデとニュアンスのある配色が素敵な人
先日、街で見かけた、ミックスコーデとニュアンスのある配色が素敵な人。
オーバーサイズのチルデンベストは古着だろうか。80年代風のレトロな色合いがいい。
頭にはムラ染めのパープルのスカーフが巻かれていて、レモンイエローのスリップドレスとの配色が美しい。
パープルがかったグレーのシューズといい、首元から少し覗く赤茶のインナーといい、一つひとつのセレクトがうまい。
スマートフォンで真剣に何かを調べるその先には、靴下がディスプレイされている。
私が眺めていると、彼女が顔を上げ近づいてきた。
『彼女』はその日待ち合わせをしていた姉だった。脳内で妄想をしていた私は少し恥ずかしくなって、「靴下買うの?」と声をかけた。
「うん、でもやめとく。調べたけど履いた感じがわからなかったから」
どうやら欲しい靴下のイメージがあって、そのイメージにマッチするのか商品の画像検索で調べていたらしい。
私は驚いた。
いつだっておしゃれで華があり注目を集めてきた姉。
きっと生まれ持ったものが違うのだと、パッとしない自分を恨んだこともあった。
しかし、そんな姉をつくっているものは、こんなにも小さく地道な作業だったのだ。
私も、そんな地道さを楽しむことができたなら、どんなにいいだろう。
■地道な積み重ねは、小さくてつまらないものだけれど
そう、たとえば。
安い服ほど吟味する。
手軽におしゃれが楽しめるプチプラ服だが、安いがために「この値段なら失敗してもいいや」と思って購入していないだろうか。
そのくせ、もしそれが、自分に合わなかったとしても、もったいなくて着てしまう。
でも、それを着たあなたの1日の方がはるかにもったいない。
大切なのは、「どれだけいけてる服を着るか」より「どれだけいけてない服を着ないか」なのに、ものがあふれている今日、私たちはつい忘れてしまう。
(幸いプチプラ服は気軽に試着できるので、納得するまで何度でも試着してほしい)
美しさを望むとき、自信をなくしたときなんかは特に、つい華やかなコスメや高価な化粧品を求めたくなる。
けれど、私が前職で美容部員をしていた経験上、お店で一番きれいなお客様は、意外と安価でシンプルな化粧品を使っていた。
いつもの化粧品をいつもより丁寧に使ってみる。
土台が整えば、いつものコスメが何倍も映える。使い方を変えることは、遠回りなようで近道だ。
ところで、あなたは今どんな部屋で過ごしていますか?
そして、望むインテリアはどんなものだろう。
生活の基盤となるインテリアには、どう生きたいかが隠れている。
たとえば、ゆっくり休む人生を大事とするならベッドルームを、家族との時間を大切とするのなら、心地よいリビングを望むだろう。
(私の場合は、家中の写真を撮って、「ここがこうなったらいいな」をひたすら書き込んだ)
なんて考えていると、
「だって私のことを好きだっていってくれるから」
という声が聞こえてきた。
思春期に差しかかる長女の声だ。
相手のことは特に好きではないが、せっかくだからその子と付き合おうかなと思っているようだ。
しかし、人間関係こそ、彼女にちゃんと選んでほしい。
学校では、誰とでも仲良くなりましょうと教えているけれど、自分が心地良くいられない関係は必要ないから距離を取ればいいと思うし、つらいならさっさと環境を変えればいい。
選ぶ権利はいつだって自分にあるのだから。
地道なことはつまらない。
せっかちな私はすぐに結果が欲しくなる。
地道にコツコツ積み重ねたものは、あまりにも小さく、目に見えないかもしれない。
でもそうやって積み上げてきたものが自分を作るのだろう。
羨むようなスタイルやセンスも、元はとてつもなく小さな思考や選択。
だったら、私も素敵な人になれるのかもしれない。
そう思い、なんとなく手に取ったチョコレートを戻した。
『素敵なひとの素敵な生活』のバックナンバー
#1「シンプルなTシャツに、むら染美しいスカーフ。素敵なひとの素敵な生活」
#2「初秋の着こなしが素敵な人。アメリカンスリーブのニットに襟の抜いた大きなシャツの組み合わせ」
#3「セットものをシンプルに。ツインニットを素敵に着こなすひと」
#4「秋の深まりを楽しむ着こなし。繊細で綺麗な色使いが素敵」
#5「凛とした冬の足音が聞こえる季節。衣替えは、自分のイメージを更新する絶好の機会」
#6「食べることは、生きること。自分を慈しむ、王様のような朝食を」
#7「あなたは大切な人と過ごしている時、どんな顔をしていますか?」
#8「大人だからクリスマスには浮かれてはいけない、なんて誰が決めたのだろう」
#9「ざっくりニットでゆったりとした年の瀬を。除夜の鐘に耳を傾け、新しい年に想いを馳せる」
#10「新春。取り巻くすべてを楽しみながら、新しい自分を見つけてゆく」
#11「女の子は誰だって女優。さまざまな自分を演じる楽しみ」
#12「バレンタインだから楽しみたい、ドラマチックな女性性」
#13「帽子のある生活で、“おしゃれを楽しむ心”を呼び覚ます」
#14「出会いと別れの季節こそ、立ち止まってノスタルジーに浸りたい」
#15「“今”の美しさに気づき、その瞬間を生きるということ」
#16「不要なものを手放し、今まで懸命に生きてきた自分自身を愛する」
#17「『どうせ私なんか』をやめてみる。おしゃれを楽しむ少女が教えてくれたこと」
#18「忙しない毎日。ときにはだらだらと、心ゆくまで休んでもいい」
#19「小さな思考や選択の積み重ねが、素敵な自分をつくってくれる」
#20「動いて、食べて、眠る。その繰り返しが、未来の美しさの糧になる」
#21「ときには梅雨のアンニュイな空気に浸り、雨の美しさに目を向ける」
#22「今年の夏は一度きり。目で、耳で、肌で、儚い季節をめいっぱい楽しむ」
#23「朝顔のように自然体で、自由に腕を伸ばして生きればいい」
#24「潔くなくても、不器用でもいい。愛すべき『私のスタイル』はきっとある」
イラストレーター。美容、アパレル業界を経てイラストの世界へ。前職のキャリアを活かしたファッション、美容イラストを描いています。