ときには梅雨のアンニュイな空気に浸り、雨の美しさに目を向ける
イラストレーター・ヤベミユキさんが街で見かけた素敵なひとを紹介する、『素敵なひとの素敵な生活』。今回は、雨の街で見かけた、むら染めのワンピースをまとったひと。梅雨空に似合う彼女の佇まいから、アンニュイな空気に身を任せて雨の美しさを楽しむ生活を想像します。
街を歩いていて目を引くあの人。なぜその人に惹かれるのか、そこに感じられるのは背後にあるライフスタイル。その人からイメージをふくらませて、素敵な生活を想像してみた。
■梅雨のアンニュイな空気をまとったひと
先日、雨が降る街で見かけた、むら染めのワンピースがアンニュイで美しいひと。
ゆるく羽織られたそのワンピースは、ガーゼのように柔らかく、彼女にまとわりつく。
裾にかけて藍色に染められた模様はまるで梅雨空のようだ。
美しいカッティングが施されたクリアバッグや淡い色合いのスポーツサンダルも、儚げなムードを保っている。
そこにマニッシュなブラウンの傘がポイントになっていていい。
憂鬱な空色も振り続ける雨も、彼女の一部となってコーデを引き立てる。
いや、むしろ、彼女は梅雨のそれらの美しさを知っていて、この服を選んだのだろう。
挨拶のように「きょうは雨で嫌ですよね」なんて言いながら家を出てきた私はなんだか恥ずかしくなった。
雨はこんなに美しいのだ。
彼女のように、梅雨のアンニュイなムードを楽しめたならどんなにいいだろう。
■光だけが美しいのではなく、すべてに意味がある
そう、たとえば。
アンニュイな色合いのメイクを楽しむ。
湿度の高い空気に反して、メイクは全体的にパウダリーな質感にすると雰囲気が出る。
上瞼にサーモンピンクをのせたら、下瞼には淡いブルーをひとさじ。口元はグラデーションに色味を広げ、絵画のようなムードに。少しずつ色味を重ねて儚げなニュアンスを楽しみたい。
雨具はとっておきのものを探し出す。
どうせなくすからと適当に選んだ傘が、あなたのコーデを台無しにする。
ただが傘。されど傘
どうせなら雨が楽しみになるくらいとびきりのものを選びたいところだ。
紫陽花の曖昧な色を楽しめるのも今だけの贅沢だろう。
好みの枝を購入したら、新鮮な水に活けて永く楽しむ。
(鉢植えなら色の変化も楽しめるのでおすすめです)
丁寧に育てたら、梅雨明けには美しいドライフラワーになるので、夏の楽しみが増える。
ときには無音にして、雨音に耳を傾けてみてはどうだろう。
雨が落ちる音、植物が濡れる音、水たまりが跳ねる音、カエルの声も聞こえてくる。
ただひたすら音に身を委ねてみる。
雨が流れるようにこのまま憂鬱な気持ちも流れていくといいのに。
なんて考えていると、
「お母さん、最近元気ないね」という声が聞こえてくる。
午前5時。ベッドの中の娘の声だ。
「そんなことないよ」と無理やり笑顔を作ってみるが、なんとなく気分が塞がっているのは紛れもなく私だった。
気付いたら紫陽花のように感情の色が変わり、わけもなく気分が落ちる。
そんな自分が嫌だと思うことが多々ある。
でも、光だけが美しいものではないことを梅雨空が教えてくれる。
どんな感情も、自分の一部であって、そこには意味がある。
なんとなく心が塞ぐときはそれでいいのだろう。
今日はどっぷりと“それ”に浸ろう。
そう決めて、10分後に鳴るであろう目覚ましを止めた。
『素敵なひとの素敵な生活』のバックナンバー
#1「シンプルなTシャツに、むら染美しいスカーフ。素敵なひとの素敵な生活」
#2「初秋の着こなしが素敵な人。アメリカンスリーブのニットに襟の抜いた大きなシャツの組み合わせ」
#3「セットものをシンプルに。ツインニットを素敵に着こなすひと」
#4「秋の深まりを楽しむ着こなし。繊細で綺麗な色使いが素敵」
#5「凛とした冬の足音が聞こえる季節。衣替えは、自分のイメージを更新する絶好の機会」
#6「食べることは、生きること。自分を慈しむ、王様のような朝食を」
#7「あなたは大切な人と過ごしている時、どんな顔をしていますか?」
#8「大人だからクリスマスには浮かれてはいけない、なんて誰が決めたのだろう」
#9「ざっくりニットでゆったりとした年の瀬を。除夜の鐘に耳を傾け、新しい年に想いを馳せる」
#10「新春。取り巻くすべてを楽しみながら、新しい自分を見つけてゆく」
#11「女の子は誰だって女優。さまざまな自分を演じる楽しみ」
#12「バレンタインだから楽しみたい、ドラマチックな女性性」
#13「帽子のある生活で、“おしゃれを楽しむ心”を呼び覚ます」
#14「出会いと別れの季節こそ、立ち止まってノスタルジーに浸りたい」
#15「“今”の美しさに気づき、その瞬間を生きるということ」
#16「不要なものを手放し、今まで懸命に生きてきた自分自身を愛する」
#17「『どうせ私なんか』をやめてみる。おしゃれを楽しむ少女が教えてくれたこと」
#18「忙しない毎日。ときにはだらだらと、心ゆくまで休んでもいい」
#19「小さな思考や選択の積み重ねが、素敵な自分をつくってくれる」
#20「動いて、食べて、眠る。その繰り返しが、未来の美しさの糧になる」
#21「ときには梅雨のアンニュイな空気に浸り、雨の美しさに目を向ける」
#22「今年の夏は一度きり。目で、耳で、肌で、儚い季節をめいっぱい楽しむ」
#23「朝顔のように自然体で、自由に腕を伸ばして生きればいい」
#24「潔くなくても、不器用でもいい。愛すべき『私のスタイル』はきっとある」
イラストレーター。美容、アパレル業界を経てイラストの世界へ。前職のキャリアを活かしたファッション、美容イラストを描いています。