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彼が婚内婚活をする理由「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第22話

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婚内婚活(コンナイコンカツ)をご存じだろうか。言葉通り、結婚した状態で婚活をすることを指す。再会した曽我真之が、婚内婚活を始めた理由を前に、主人公の伊藤有紀は何を思うのか――。連載「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~ 」第22話。

彼が婚内婚活をする理由「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第22話

●第21話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳を目前にして婚活を開始。20年ぶりに再会したOL時代の先輩・曽我との未来を一時は思い描くも、偶然、曽我の信じ難い行状を目撃してしまう)
曽我真之(そがまさゆき/55歳・妻と不仲。20年ぶりに有紀を呼び出すもろくにフォローもしない。その後何をしているかと思えば!?)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・結婚相談所付属の婚活マナー教室講師・有紀の婚活を全面的にバックアップしてきた)
婚活女性(こんかつじょせい/43歳・曽我を『イトウ』と信じ銀座で婚活デートをしていたが、予期せぬ展開に逆上)


●前回までのあらすじ
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。50歳も目前になって、急遽婚活を開始することに。

親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。ふたりの男性と実際に会ってみたが、うまくいかず落ち込む。

自力での再婚は無理と、瑛子が勤める婚活会話教室の母体である結婚相談所へ登録に赴いたところ、絶交していた瑛子と久しぶりに再会して和解。

食事でもと数寄屋橋へ向かう途中、瑛子が見つけた婚活カップルを尾行。婚活の実態をこっそり学ばせてもらうことに。

ところがその婚活カップルの男性は、既婚者である知人・曽我だった! 20年ぶりに会ったきり自分にろくなフォローもしないまま、今度は結婚詐欺を!?

■コンナイコンカツ=婚内婚活!?

「コンナイコンカツ!?」



妻帯者でありながら婚活中の女性とデートをしたうえ、結婚の可能性まで匂わせる──。曽我さんのとんでもない行状に、わたしは衝撃を受けていた。なにこれ、結婚詐欺じゃないの!?



デート相手の婚活女性が逆上しているのはもちろんのこと、婚活会話教室で講師をしている瑛子だって、こんなこと黙って見過ごせるはずがない。

「コンナィ、コンカツ──。もしかしてそれ、『婚内婚活』ってこと? 結婚してますけど婚活もしますって? 冗談じゃないわ。ゲス不倫したいだけのくせに、もっともらしいこと言っちゃって。あなた婚活ナメてるわけ!?」

婚活のプロとして許せなかった瑛子が、曽我さんを一喝した。



「曽我さん。最低……」しぼり出すように言ったわたしの言葉に、うつむいていた曽我さんがおもむろに顔をあげ、口を開いた。

「有紀ちゃん、失望させてすまない。でも、僕にだって言い分が──」

そのとき曽我さんのジャケットの内ポケットで、スマホがバイブした。取り出したiPhoneの画面を確かめた曽我さんは、「ちょっと失礼」とその場を離れ、数メートル先のガラス戸を押し開けてパティオに出た。こちらに背を向け、iPhoneを耳に当てて誰かと話をしている。

「有紀、ちょっと近くまで行って、話聞いてきなよ」と瑛子にうながされたわたしは「やだよ」と尻込みしたけれど、「んなこと言ってる場合? また別の女性騙してるかもしれないじゃない。ほら、早く」と瑛子にせきたてられ、仕方なくパティオへとにじり寄った。ガラス戸の手前にある柱の陰に身を隠し、曽我さんの声に耳をすませてみる。



「どうせ僕に選択の余地なんて……。ああ、君のしたいように……。わかった、どちらでも……ああ、任せる」

木で鼻をくくるような話しぶりの相手は、どうやら曽我さんの奥様らしい。広尾のフレンチで聞いた「妻とうまくいっていなくて」という言葉がどうやら嘘ではなかったとわかって、わたしの中でこわばっていたものが、ほんのわずかばかりほどけた気がした。



眉間にシワを寄せ、苦い顔で話をする曽我さんの横顔を、淡い春の光が照らしている。乾いた頬、深く刻まれたしわ。広尾の夜には気づかなかった老いがにじんでいる面差しをみつめるうち、「初老」という言葉が脳裏をよぎり、やりきれなさに胸がふさぐ。

「婚内婚活」を口にする曽我さんの支離滅裂ぶりは、老いの坂をくだりはじめた者が見せる悪あがきなのだろうか──。

■既婚だけど、人生を仕切り直したい

「もういいだろ。今ちょっと取り込んでるから」曽我さんが電話を切ろうとしているのに気づいたわたしは、あわてて瑛子たちのもとへ戻り、平静を装って曽我さんを待った。「ね、どうだった?」とせっついてくる瑛子を、「後で」と目顔で制して。

曽我さんと一緒だった婚活女性は腕を組み、いらだった視線でわたしまで睨みつけてくる。



電話を終えて戻った曽我さんが、ふうっと長い息をついて、話し始めた。

「すみません。思わず『婚内婚活』なんて勝手なことを言ってしまいましたが。いや、50を過ぎた男が非常識なと、批判されるのも当然です。でも、もう一度人生を仕切りなおしたい、新しいパートナーを見つけたいって、僕なりに真剣に考えて婚活を始めたんです──」



「は? 真剣? 新しいパートナー? 馬鹿馬鹿しくて聞いてらんないわよ! こんなイカれた妻子持ちのムダ話に付き合うヒマないから! あなたのアカウント、婚活サイトに通報しますからね。強制退会よ!」

キッと曽我さんをにらんだ婚活女性は捨てゼリフを残し、カツカツとヒールを鳴らして店を出ていった。



女性の背中を見送った瑛子は、曽我さんに詰め寄った。

「怒鳴られるくらいで済んでラッキーだってわかってます? 会社に押しかけられでもしたら、大変な騒ぎになるところだったのよ。真剣に考えて婚活をって、奥様とは一体どうなってるんです。一緒に暮らしてるんでしょ? こんな形で裏切るなんて……」



「待って、瑛子。曽我さんの話、聞いてみようよ」パティオでの曽我さんの切ない横顔を目にしてしまったわたしは、さらに言い募ろうとする瑛子をなだめて、「とにかく座ろ。立ち話もなんだから」と、ふたりを席へいざなった。

■家庭内別居という冷戦状態を、人生残り30年続けたくない

「有紀ちゃん、ありがとう。情けない話だけど、うちはいわゆる家庭内別居っていうか。最低限の用件以外口をきかなくなって、もう何年になるかな……。これっていう具体的なきっかけがあったわけじゃないんです。念のため言っておくと、僕は浮気してません。夫としての務めを、僕なりに真面目に果たしてきたつもりです。



ただ有紀ちゃんも知っての通り、僕らの仕事は飲みの席も多くて、いつも深夜にしか帰れなかったし、週末もゴルフだなんだで家を空けることが多くて。



僕が不在がちだったせいか、妻は子供たちの教育にのめりこみましてね。お陰で娘も息子も一流校に入れはしましたが、家の中はいつも殺伐としていたんです。たまに早く帰れても、テストの点がどうだとかって、妻がヒステリックに叫ぶ声を聞かされてね。



わかってもらえるでしょうか。男にとって、妻の機嫌が悪いほど堪えることってないんですよ。外で疲れて帰ってきても、待ってるのは不平面の妻。ひとの顔を見ればこれでもかと愚痴や文句を浴びせてくる。言い返せば火に油をそそぐことになるから、お説ごもっともでやりすごすしかない。そんなふうに毎日ひたすら耐えながら、僕は恨みましたよ。妻をじゃありません。こんなに気の合わない女を妻に選んでしまった、若かりし日の自分の愚かさをです。



僕ももう55歳になりました。でも平均寿命まで生きるとしたら、あと30年ほど人生が残ってる。間違った相手だったと気づいてしまった妻のそばで、息を殺して生きるには長すぎる。とはいえ、この先ひとりで生きていく自信は持てない。それなら、非常識ではあっても今すぐ婚活を始めてしまおう。手を取り合って仲良く生きていける女性を見つけたら、離婚に踏み切る勇気が持てると──」



ひとりぼっちになるのは怖いから、結婚を継続したまま新たに婚活を始める。そんな身勝手な理屈に、賛同なんてできるはずがない。ただ、修復不能な状態に陥った相手とこの先何十年も生きていけないという文脈には、同意せざるを得ないように思える。



「婚内婚活、か……」瑛子とわたしの声が重なる。思わず見つめ合ったわたしたちは、これまでの人生で最長かもしれない、長い長いためいきを漏らすのだった。




(第23話につづく)




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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
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第9話(https://p-dress.jp/articles/2277
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第19話(https://p-dress.jp/articles/2614
第20話(https://p-dress.jp/articles/2658
第21話(https://p-dress.jp/articles/2931

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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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