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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第7話

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伊藤有紀、フリーライター。49歳と10ヶ月。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。1浪の末、息子が大学合格。ほっと安堵する以上に、子育て完了の寂しさがこみあげて。この先40年も続くかもしれない人生、ひとりで生きていける気がしない。それならと50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第7話

●第7話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳目前にして婚活を開始)
伊藤陽向(いとうひなた/19歳・大学に合格。ようやく受験から解放され、羽根を伸ばしている) 
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・婚活マナー教室講師・有紀の親友)





●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。息子・陽向(ひなた)が大学生になったのを機に、婚活を開始することに。婚活会話教室で講師を務める親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。婚活緊急ダイエットも開始予定。でもその前に、母の再婚をどう思うのか、息子に真意を確かめなくちゃ……。

■早くも「いいね!」の通知が。恐るべし、Pairsの初速

 最寄駅から自宅までは、10分と少し歩く。10年前に夫を亡くして、仕事を得るために上京して。まだ小学生だった息子・陽向(ひなた)とふたり、暮らすようになったのがこの町だった。


 駅前から伸びる遊歩道に沿って、桜の木が植えられている。4月ともなれば爛漫の花で満たされるこの道を、陽向と手をつないで、幾度歩いたことだろう。薄紅に彩られた桜のトンネルは、私にとって、幸せのシンボルなのかもしれない。春が来るたび飽くことなく、桜木を見上げ、花々を見つめ。そのたびに、陽向とふたり無事に生きていることの幸せが、沁みてくるようで。遠い空のどこかで見守ってくれている夫に繰り返し伝えた。ありがとう。私、がんばるから、と。


 遊歩道からそれて、緩い坂をのぼる。庭に大きな柚子の木を植えているお宅の前で、立ち止まっ
てほんの一瞬休むのが、いつからかクセになった。陽向、そろそろ駅に着く頃だろうか? LINEが
来てはいないかと、取り出したスマホの画面に目をやった瞬間、私はあやうくiPhoneを落っこと
すところであった。
「KYさんから、いいね!が届きました」
 水色に白抜きのハートマークのアイコンと共に、私のスマホ上部にPairsからの通知が現れた。
KYですと? 誰よ、KYって。当方まだ心の準備がないところへ闖入するなんて、まさ
にKY、空気読めない人。でも早速「いいね!」ってどういうこと? 顔写真を載せてない
から、「いいね!」はそうそう来ないだろうって、瑛子は言ってたのに。

■53歳、やけにリア充なKYのプロフにジャンプ!

 周囲をすばやく見渡し、人の気配がないのを確かめた私は、スマホ上部に表示されたPairsから
の通知をクリックしてみた。と、どうだろう。KYとやら名乗る男が、照らっとつややかな顔で、や
けににっかりと笑っているではないか。どうやら山スキーの途中で撮られた一枚らしい。背景には、
海外らしき冬山が写りこんでいる。あれか、マッターホルンか。冬、山、と来て思いつく単語がそ
れしかなかった私は、つばをごくりと飲み込み、緊張の面持ちで雪山へとジャンプを試みる。KYの
プロフィールページへ、飛んでみたのだ。
 顔もわからぬ女にいいね!と送った男、KY。まずはプロフをざっと読んでみる。なになに、年齢
は53歳。町田市に住んでいて、飲食関連の経営者とある。年収は2000万円以上? ほんとかなぁ。

■プロフ文章や改行頻度に人間性が表れる!だからしっかり読み込もう

「プロフの文章を読めば、良識があるかどうか、知的な人かどうかわかるよね。自慢話が多い男は、
自分大好きで尊大、でもほんとは自信がない。明るいか暗いか、チャラいか真面目か。文章から読
み取れるものはほんと多いから、しっかり読み込むんだよ。メールと同じで、改行の頻度なんかも
性格が表れるポイントね。改行なしでぎっしり長文書き込んでる男は、相手を追い詰めるストーカ
ー気質の場合があるから要注意、とかさ」


 瑛子に教えられたチェックポイントを思い出しながら、KYの文章を私なりに精査する。スキー
と車が好きで、休日は仲間と集まってBBQ? 53にしてはやけにリア充みたいだけど、年収
2000万円とかの世界ってそうなの? 自分と一桁収入の違う世界のことは、どうもよくわからな
い。



 首を捻りながら、アップされている画像をチェックしてみる。推定マッターホルンでのスキー
姿の他には、愛車なんだろうか、高そうな車が数台ガレージに並んでいる画像。ワイングラスを手
にした1枚は、プロが撮ったらしきモノクロの1枚。
 どう見てもこなれたセレブおじさんって感じ。なぜ顔出しもしていない私に「いいね!」をくれたのか。謎だ……。でも、「悪くないと思える男からいいねが来たら、とにかくまずは『お気に入り』に入れてキープだよ」という瑛子の教えを思い出し、あわてて「お気に入り」をクリックしておく。
「お、いい男だなって思っても、すぐにいいね!を返しちゃだめよ。ここはリアルの恋愛と同じ。駆
け引きだからね。すぐつながりたくなっても、最低半日は待たせなきゃね。いいね!をもらい慣れてる男ほど、きっと『あれ?』って思うから」


 なるほどなぁ、そういうものなのか。恋愛能力皆無を自認する不肖、伊藤有紀、49.9歳。瑛子大先
生の教えに従うのみである。帰宅したら、年齢確認書類を写メって、Pairsに送って。いつでも戦闘
開始、もとい、メッセージ交換を始められるよう、迎撃態勢に入ります。
(いかん。どうしてもファイティングポーズを取ってしまうな、これ!)


(第8話につづく)



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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
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第18話(https://p-dress.jp/articles/2576

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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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