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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第2話

伊藤有紀、フリーライター。49歳と10ヶ月。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。1浪の末、息子が大学合格。ほっと安堵する以上に、子育て完了の寂しさがこみあげて。この先40年も続くかもしれない人生、ひとりで生きていける気がしない。それならと50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。<第2話>

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第2話

●第2話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳目前にして婚活を開始!?) 
伊藤陽向(いとうひなた/19歳・有紀のひとり息子。一浪の末、大学に合格)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・婚活マナー教室講師・有紀の親友)



●ここまでのあらすじ
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。1浪の末、息子・陽向が大学に合格。ほっとしたのも事実だけれど、同時になんともいえない寂しさがこみあげてきたのです。子どもの大学合格って、子育て完了の合図だったんですね。ここからはもう、息子はひとりでも生きていけるはず。それならわたし、自分の人生を考えなきゃ。この先40年も続くのかもしれない人生を……。


■合格すれば母は不要?それならダサ母、卒業します!

 合格発表から一夜明けた、次の日。晴ればれとした笑顔の陽向(ひなた)が、ばたばたと慌ただしくでかけて行く。「夕飯? いらない。友達と食べてくるから」。いいわね。やっと受験が終わったんだもの。羽根を伸ばしていらっしゃい、と笑顔で送り出してはみるものの、「ほら、やっぱり」という思いがこみあげる。1浪した陽向の受験生生活は2年間に及んだわけで。その間、健康管理に注意を払ったり、毎日夜食を作ったり。母なりに精一杯、バックアップに務めたつもりなんだけどね。合格してしまえば、一緒に祝いたいのは友達。母なんて不要。もちろんそれで健全なのだと頭では理解していても、きっぱりお払い箱にされたような虚しさは、否定できない。
 
 いや、こんなことじゃダメだ。いつまでも息子離れできない、ダサい母親にはなりたくないでしょ? 自分に言い聞かせて、わたしはスマホに手を伸ばした。こんなときは女友だちと会うに限る。少々弱音を吐かせてもらって、それを一思いに笑い飛ばしてもらうのが、落ち込んだときには最高の特効薬になるから。

■親友に打ち明ける迷いは再婚、婚活、けれど……

 親友の瑛子にLINEを送った。「急でごめん。今夜会える?」。婚活マナー教室で婚活に効く会話術の講師を務める瑛子とは、取材を通じて知り合った。もう7~8年の付き合いになるだろうか。ロングヘアの麗しいきれいどころで、一見すると近寄り難い美女なのだけれど、実は下町育ちで気風がよい。歯に衣着せない正直な物言い、それでいて実は、心あたたかな彼女。SNSにあれこれ書き込む性分でもない瑛子の近況を会わずして知る手立ては、時折交わす短いLINE。これしかない。

 小1時間経って返信が届く。「OK!」とキューピーがマヨネーズで文字を書く愛らしいスタンプに、くすっと笑って、もう少々癒されてしまった。女同士って幾つになっても、少女だった頃とノリが変わらないな……。

 待ち合わせは恵比寿の洒落た割烹。低くジャズの流れる女性に人気のその店で、わたしは早速悩みを打ち明けた。陽向が大学に受かった途端、言葉にできないほどの虚しさに見舞われていること。ここへ来て初めて、この先40年あるかもしれない、自分の人生について考えていること。再婚、婚活、なんてことを、おぼろげながら意識し始めたこと……。
 生ビールを豪快に飲み干した瑛子は、中ジョッキをドン!とカウンターに置くなり、呆れ顔でわたしにこう宣告したのだった。

■再婚できるのは49まで?50以降は「介護婚」への茨の道

「有紀がトロいことは百も承知だけど、でも1度だけ言わせて。あんたバカじゃないの!? 
再婚する気があるなら、なんでもっと早く動かなかったのよ。50だよ、50。もうすぐ。
いまどきの婚活はWebでマッチングっていうのが基本でね。女が検索してもらえるのは、まあせいぜい49まで。50になっちゃったら、検索対象にされることすらあんまりないから、男性に会えないのよ、そもそもが。ああ、もう、ほんとトロすぎて、こっちが疲れる……」
「ごめんね。でもさ、ほら、極端な話、70歳のおじいちゃ~んとかだったら、なんとかなったりしないかな、なんて」
「あんた70のおじいちゃんに嫁ぐ気あるわけ? 介護要員まっしぐらですけど?」
「いや~、そこまでは……」

わたしは言葉を濁すしかない。もー、しょうがないわねと、こちらを軽にらみしながら瑛子が檄を飛ばしてくれた。
「いい? 今から言うこと、全部する。即する。何ぼやぼやしてんの? メモ取る!」
「はい……」バッグからごそごそとスマホを取り出したわたしに、瑛子から指示された、即こなすべきTO DOリストは以下の通りだった。

■超美人で超やさしい 瑛子大先生による緊急TO DOリスト

※タイトル含め、全文瑛子指示のまま

1)Pairs(ペアーズ)に登録する
・Facebook連携のマッチングサイトだそうな
2)結婚相談所(AとB)に相談のアポ入れ
・Aは瑛子の勤務先である大手、Bは最近評判の新興勢力。小さいけど気が利いてる
・可能な限り早い日程で!
3)銀座に本店のあるFへサイズ40のワンピースを買いに行く
・パステルカラー限定
・Fのサイズ40が入らなければ、まともな男とは再婚できないと思うこと
4)痩せる
5)痩せる
6)痩せる
・3回書いておくようにと、瑛子大先生が言いました
7)ヘアサロンとまつエク、ネイルの予約
・女に戻んなきゃ再婚なんてできないっしょ、とのこと



 なんだかもう、大変なことになってきたぞ、これは。ひきつるわたしの傍らで、瑛子がまだ熱弁をふるっている。
「いい? 次のメモ。緊急ダイエット法、いくよ!」
 こ、こわい……。

(第3話につづく)

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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
第7話(https://p-dress.jp/articles/2226
第8話(https://p-dress.jp/articles/2252
第9話(https://p-dress.jp/articles/2277
第10話(https://p-dress.jp/articles/2343
第11話(https://p-dress.jp/articles/2382
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第13話(https://p-dress.jp/articles/2425
第14話(https://p-dress.jp/articles/2454
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第17話(https://p-dress.jp/articles/2545
第18話(https://p-dress.jp/articles/2576

伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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