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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第12話

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10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきた。50歳も目前になって、急遽婚活を開始。親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第12話をお届けします。

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第12話

●第12話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳を目前にして婚活を開始)
伊藤陽向(いとうひなた/19歳・有紀のひとり息子。大学に合格。春には1年生に)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・結婚相談所付属の婚活マナー教室講師・婚活に向け有紀を叱咤激励してくれている)
藤崎和江(ふじさきかずえ/56歳・瑛子が勤める業界最大手の結婚相談所相談員)




●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。50歳も目前になって、急遽婚活を開始することに。親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。瑛子が勤めている銀座の結婚相談所で面談を受けるも、「美しくないあなたでは成婚は無理」と暗に拒絶されて──。

■アラフィフ婚活は茨の道!? 面談のショックから立ち直れないまま……

ようやく春も近いことを思わせてくれた、小春日和の銀座。
つらすぎた面談のあと、思いがけずメールが届いたのだった。昔大好きだった、あの人からの。そこには短くこう書かれていた。「ご無沙汰しています。お元気ですか。よかったら食事でもご一緒しませんか」。



何と返信すればよいのかわからなくて、一度読んだきり、そのメールはそっと閉じたままにしてある。遠い昔振った女に、いまさら何の用があるというのだろう──。



夕食を済ませ自室へ引き上げる陽向(ひなた)の背中を見送り、さあ私も仕事……と思ったところへ電話が鳴った。着信音は「イパネマの娘」。瑛子だ。



「ごめん、有紀! 面談、立ち会えなくて。同僚のお母さんが倒れたとかで、代わりにレッスン頼まれてさ。で、どうだった?」
「そうか、瑛子、忙しかったんだね。面談は……、あの、ね……」



勘のよい瑛子のことだ。口ごもる私の様子から、大方の察しはついたのだろう。翌日、軽くランチをとりながら話をすることになった。携帯を充電器にセットした途端、画面にPairs(ペアーズ)の通知が表れた。「YNさんからいいね!が届きました」。
やめて。白い花のプロフ画像にほだされて、簡単に「いいね!」なんてしないでよ。こんなに太ってて、50歳を目前に控えたおばさんの私。再婚なんてできるはずがない私に。



プロフにちゃんと自分の姿を載せていないから誤解を生むのだと、本当はわかっているのに。すっかりうしろ向きになっていた私は何かに八つ当たりしたくなって、指先でその通知を冷たくフリックし、画面から追い払うのだった。

■商品価値、ゼロ。絶望するわたしを励ましてくれるのはやはり親友

翌日。瑛子との待ち合わせはまた恵比寿。駅ビルの中はどこも人であふれ返っている。待ち合わせの店へと急ぎながら思う。いまどきの子って、なんてきれいなんだろう。髪型もメイクも上手くて、誰もがそれぞれ美人に見える。あの子たちに比べたら、私なんてゴミみたいなものだな。太ってて、年寄りで、商品価値ゼロ。
ちょうどショーウィンドウに映った自分の姿が目に入って、ため息をつきながら目をそらした。



エスカレーターを上がって、いつものそば屋に入る。このビルで一番普通の店。洒落ても気取ってもいない。お陰でアラフィフの私には入りやすくて、つい足が向く。店に入ると、奥のテーブル席にすでに瑛子の姿があった。



「ごめん、瑛子。忙しいのに待たせちゃった」
「大丈夫」瑛子が言う。「なによ有紀、元気ないね。今日は奢るから好きなもの頼みな。あ、ほら有紀これ好きなんじゃない? イベリコつけせいろ」
私はこくんと小さくうなづいた。メニューを見た瞬間それが食べたくなったこと、瑛子ったらなんでわかったんだろう。



面談をしてくれた藤崎さんに、私では再婚は無理だと言外に告げられたこと。せいろをつつきながら話すと、瑛子は労るようにやさしい微笑みを浮かべて言った。
「有紀、50前から婚活はじめることの厳しさをわかってない気がしたから、カンフル剤打ってもらおうと思ったんだけどね。ショックが強すぎたか」
「うん……」。いけない。瑛子の前だと気がゆるんで、また涙になりそうだ。私は食べることに夢中なフリで、ことさら熱心にせいろをパクつく。



「まあ私、結婚相談所に勤めてるって言ったって、会話教室の専任だからね。シニアの結婚事情に精通してるわけじゃないの。でも有紀のこと知ってるから。再婚、無理だとは思わないな」
「ありがと。励ましてくれて。でももういいんだ」私は懸命に笑顔を取り繕った。



「ってか有紀さあ。そこがダメなんだよ。誰かにたった一回、否定的なこと言われたくらいで、婚活あきらめようとする。それじゃ、できる結婚もできなくなるの。

いい? 今、有紀が厳しい状況に置かれてるのはほんとだよ。でもね、それ有紀だけじゃないって。よっぽど若いかよっぽど美人でもない限り、婚活って誰だってつらいの。心から好きになって、この人と一生……なんて思える相手に、簡単に出会えるはずないじゃない? だからみんな、何人も何十人も、ときには百人以上の人にがんばって会ってさ。

精一杯きれいにして出かけて、そのたびに期待して。でもほとんど空振りばっかで、身も心も疲れ果ててね。やっと好きになれた人からはあっさり振られたりして、もう私何やってんだろうって。このまま一生ひとりなんじゃないかって。

みんな数え切れないほど泣いて、絶望して、それでもまた立ち上がってがんばってる。幸せになりたいから。一生ひとりで生きてくなんて耐えられないから。
わかる? 有紀。みんながんばってるんだよ。戦ってるの」



瑛子の言葉を、私は身じろぎひとつせず聴いた。身体中の細胞に沁みてくる気がした。



「だからね、いい? 今この瞬間から、もう逃げないって私に誓いなさい。有紀はいいとこいっぱいある。ご主人が死んじゃってから、ひとりで陽向(ひなた)のこと育ててきたでしょ? よくがんばったよ。陽向、立派に育ったじゃん。もう大丈夫。ここからは自分のために生きるのよ。応援するから。わかった?」



声をあげて号泣してしまいそうで、私はタオルハンカチに顔を埋めて堪えた。ありがとう、瑛子。私にはもったいない友達、ほんとに。



「さ、ぼやぼやせずに動こう。時間をムダにしないよ。私、藤崎女史と話すわ。うちに登録してもらえるように。それから……、あ、Pairsどうした? ちゃんと『いいね!』返して、やりとり始めなさいよ。ダイエットもね。それ、最後のイベリコにするか」
「え~?」と言いながら私は、涙のにじむくしゃくしゃの顔で笑った。

■2週間・緊急ダイエットの厳命くだる!あの人との再会を心に期して

「あ、そういえばね。びっくりなのよ」。ふと思い出して、昔の彼、曽我から突然メールが来たことを話すと、にわかに瑛子が色めきたった。

「で? なんて書いてあったの?」
短いメールの内容と、まだ返信できずにいることを伝えると、呆れ顔の瑛子にまた叱られた。すぐ返信して会うべきだというのだ。



「無理だよ、会えないって。私、すごい太ったもん。20kgくらい。びっくりして、ドン引きされちゃう。第一、曽我さん結婚してるはずだし」

「うるさい!」。瑛子の怒り声が店内に鋭く響いた。「いいから返信しなさい。お久しぶりです、ご連絡ありがとうって。今すこし仕事が立て込んでるのでって、うーん、2週間後なら大丈夫ですって!」
「だって……」
「だってもへったくれもないの。彼もう離婚したか、離婚を考えてるかもしれないじゃない。会わなきゃ何もわからないし、始まらないの。いい? 2週間で痩せなさい。この前教えた方法なら、絶対イケるから。スレンダー美女になれなんて無理言ってないでしょ? 余分な脂肪を落してこざっぱりすれば、現役の女に戻れるって。さ、行くよ!」



イベリコ豚の最後の1枚に未練を残しながら、私は急きたてられるように店を出た。

階下のブティックで瑛子に、着たことのないような色のワンピースを買わされる。くすみピンクとかいって、大人の女性をかわいく見せる色らしい。ネックレスをしなくても見栄えがするように、襟ぐりにキラキラしたビーズが縫いつけてある。
あの、でもこれ、ファスナー上がりませんけど?



「それでいいの。2万円近くしたワンピース、着ずに寝かせられないでしょ? ダイエット、がんばるこった」。瑛子が不敵な笑みを浮かべている。
確かに。貯金に回すはずの2万円、投資しちゃったんだものなあ。でも瑛子のお陰で、なんとか歩き出せそうだ。ワンピースの入った紙袋を、私はぎゅっと抱きしめてみる。

(13話につづく)

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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
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第17話(https://p-dress.jp/articles/2545
第18話(https://p-dress.jp/articles/2576

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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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