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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第6話

伊藤有紀、フリーライター。49歳と10ヶ月。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。1浪の末、息子が大学合格。ほっと安堵する以上に、子育て完了の寂しさがこみあげて。この先40年も続くかもしれない人生、ひとりで生きていける気がしない。それならと50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第6話

●第6話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳目前にして婚活を開始)
伊藤陽向(いとうひなた/19歳・大学に合格。ようやく受験から解放され、羽根を伸ばしている) 
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・婚活マナー教室講師・有紀の親友)




●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。息子・陽向(ひなた)が大学生になったのを機に、婚活を開始することに。婚活会話教室で講師を務める親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。ちょいぷよ解消のため、婚活緊急ダイエット指令が下る。あれもこれもがんばるけれど、その前に、一番大事なことがまだ……。


■アラフィフの花嫁になれるかも?けれど心にかかる、息子のこと

 息子、陽向(ひなた)も大学入学が決まったことだし、そろそろ自分の人生も考えなくちゃなぁ。婚活、始めるべきなんだろうか……。その程度の漠然とした気持ちで瑛子と会う約束をしたのに、いざ相談を持ちかけると、話は急展開。マッチングサイトに登録は済ませるわ、婚活のためのダイエット指導は受けるわ、なんだか一気に事が動き出した。
 店を出て、寄るところがあるという瑛子と駅で別れて、ひとり電車に揺られる帰り道。

「50歳目前のわたしが、もう一度お嫁に行っちゃうかもしれないんだよ? すごくない?」自分を盛り上げて、TO DOリストを楽しくこなしていこうと思うのに、実のところ、はしゃぐ気持ちになれない自分がいた。わかっている。理由は息子・陽向の存在だ。

 突然の交通事故で夫が亡くなったのは、10年前の冬。音もなく雪が降りしきる、12月の凍える朝だった。当時、陽向はまだ9歳。朝寝坊をしたことのない陽向が、めずらしくその朝に限って、なかなか起きてこなくて。小学校のクリスマス会に遅刻しそうになったものだから、夫が車を出して、学校のそばまで陽向を送っていったのだった。

 陽向を降ろして会社へと向かった夫の車に、信号無視をしたトラックが突っ込んだと。事故の知らせを受けて病院にかけつけたとき、夫の顔には、すでに白い布がかけられていた。ほんの1時間とすこし前、「行ってらっしゃい」と送り出したはずの夫が、いまはもう息をしていないという事実を、あのときわたしは、どうすれば受け入れることができただろう。
 混乱して、苦しくて。ただ、陽向を守らなければという思いだけに支えられて、今日までの日々を生きてきたように思う。

■母の再婚、息子はどう受け止める?心が不安で揺れる

 あれから10年。幼かった彼もいつしか母の背を超え、生意気になったのと同じぶんだけ、頼れる存在になった。大学も決まったいまが、わたしたち親子に訪れた転機。遠からず訪れるであろう巣立ちのとき、陽向が安心して離れていけるよう、わたしにはパートナーがいたほうがいいに違いない。けれど。


 たったひとり残った親であるわたしの再婚を、陽向はどんなふうに受け止めるんだろう。訊けば「いいよ」と言ってくれる子だ。「そうするといいよ」と。けれどそれは、彼の本当の気持ち? 父を亡くした彼が、いままた母親から捨てられるなんて。そんな孤独を、味わわせるわけにはいかない。でも……。とにかくまずは、陽向の真意を確かめなければ。ようやくそこまで決めたとき、LINEの着信音が鳴る。陽向からだ。

「今、渋谷。飯ある?」
 母がこんなにデリケートな思いに揺れているというのに、ご当人は食事の心配をしている。例によってミニマムなLINEを目にしたら、ふっとおかしくなった。ありがとね、どうやら肩の力が抜けたわ。今夜のうちに、話をしよう。心にあることを全部正直に話して、陽向の気持ち、ちゃんと訊くんだ。


 冷たい指先に、はあっと白い息をふきかけ、見上げた夜空に星は見えない。けれど、この雲の向こうには、きっといまだって星が輝いてる。そう思うとなぜだか、力が沸いてくるのだった。これからどんな人生が待っているとしても、わたしたちきっと幸せになれる。なろうって。


(第7話へつづく)



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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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