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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第9話

伊藤有紀、フリーライター。49歳と10ヶ月。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。1浪の末、息子が大学合格。ほっと安堵する以上に、子育て完了の寂しさがこみあげて。この先40年も続くかもしれない人生、ひとりで生きていける気がしない。それならと50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。<第9話>

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」― 第9話

●第9話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳目前にして婚活を開始)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・婚活マナー教室講師・有紀の親友・道ならぬ恋の渦中?!)



●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。息子・陽向(ひなた)が大学生になったのを機に、婚活を開始。婚活会話教室で講師を務める親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。「そうそう『いいね!』 は来ないはず」という瑛子の言葉に反して、いきなり届き始めた『いいね!』に大慌て。さて、どうする?!

■自力でPairsに対処しなければ……

 今夜。それもほんの数時間前、登録したばかりだというのに。ちょっと目を離したすきに、スマホのスクリーンは、Pairsからの通知で埋め尽くされていた。
 顔出しをする勇気がなかったから、プロフの画像は白い花。いつか公園で撮った適当なもの。しかもいい歳をした私に、こんなにたくさんの「いいね!」が来るなんて。


 想定外の急展開にうろたえた私は、とにかく瑛子に連絡をしようとPairsの通知をよけ、LINEのアイコンをクリックする。でも。「Pairsにいいね!が」とメッセージを書きかけて、刹那、指先がためらった。瑛子、もしかして今頃、あの人に会ってる? ふと、そんな気がしたから。2、3ヶ月前のことだっただろうか。「好きになっちゃいけない人なのに」と。短かすぎる告白を聞いた。相手はたしか、小さな貿易会社を経営してる人だったはず。


 今夜、恵比寿の店を出て、瑛子と私、ふたり並んで駅へ向かって……。そういえば瑛子、様子が
変だった。渋谷へ出て乗り換えのはずなのに、西麻布がどうとか言って、日比谷線に。あのときの、
伏し目がちな横顔……。
 ああもう私、なんてバカなんだろう。そして、救いがたく身勝手だな。悩んでいたのは瑛子のほうだったのに、自分の話にばかり付き合わせてしまって。友達甲斐のない女。


 恋をすると、女は2種類に分かれる。不安に負けて、逐一誰かに相談したがる女と、不安を受け入れ、思いを静かに貫く女。瑛子はいつだって後者だ。多くを語らない。
 まして、人に知られてよい関係ではない彼とのその後について、安直に仔細を口にするはずがなかった。「もう会わないつもり」。ぽつりと漏らした瑛子の言葉を聴いたのが、たしか最後だったはず。けれど、日頃前言をひるがえすことのない彼女が、「会わないつもり」を覆してまで彼と会っているのなら、ようやく作ったであろうふたりの時間を邪魔することはできない。瑛子の友達として、やはり。

■あなたたち、何者?「いいね!」をくれた男性陣をチェック

 よおし。このPairsの荒波を、今はひとりで受けて立とう。そう決めて、私は勇気をふるった。
Pairsのアイコンをクリック。「お相手から」というページで、「いいね!」をくれた男性陣をまずはひと通り確認。それぞれのプロフへ飛んでみることにしよう。なんだろうな、心臓がバクバクする。
 あれ? なんかすごい大群だと思ったけど、数えてみると1、2、3……たった5件じゃないの。最初に「いいね!」をくれたマッターホルンKYを加えても、わずか6人。よ、よし。このくらいならなんとか対応できるって、と自分を鼓舞してみる。あなたたち、何者? さあ、名前を名乗っていただきましょう。


1)けいすけ 49歳 東京 IT関係の経営者・役員 身長170cm 年収600~800万円 長男
2)NY 51歳 東京 上場企業(通信業) 身長170cm 年収800~1000万円 次男
3)T 54歳 アメリカ合衆国 クリエイター 身長168cm 年収2000~3000万円 長男
4)NH 48歳 東京 会社員(知財法律) 身長164cm 年収1000~1500万円 長男
5)ぶーきち 50歳 東京 会社員 身長165cm 年収400~600万円 長男
そして、最初に「いいね!」をくれたのが
6)KY 53歳 東京 経営者・役員(飲食関係) 年収2000~3000万円 長男


 え~、これってどこまでほんとなんだろう。全員年収が高すぎない? 日本ってここまで好景気に沸いてましたっけ? ああそうか、私の年齢が高いから「いいね!」をくれる男性の年齢も高くて、その結果年収も高くなっているのかな、もしかして。みんないい大人だものね。
 あと、いまさらだけど、身長ってプロフィールには必須事項なんだな。身長170cmって書いてる3人は、きっと実際には160cm台と見た。でも私、自分と同じ程度の高さがあれば、身長って何cmでも気にならないけどなぁ。男性にとってはこの「170cm」って、きっと死守したい線なのだろう。身長については、多少のウソなら許せるかも。むしろいじらしいというか? うーん。

■惹かれるのは面白い男性。でも結婚向きではない!?

 さて、深呼吸。これからどうすればよいかというと。瑛子の教えを思い返してプロフィールページをさらに精読、画像もちゃんと見て、誰に「いいね!」を返すか、考えてみる。でもすぐに「いいね!」をせず、最低半日待たせること……って、私が何より苦手な駆け引きってものをしなきゃいけないのが、正直、憂鬱でならない。


 今の時点で気になっているのは、3のTさん(54歳アメリカ在住)と、6のマッターホルンKY。Tさんはアメリカから参戦ってところが面白いし、職業がクリエイターってところも、業種的に私と似ているから、話が合いそう。って、アメリカに住んでいて、どうやって会うつもりなんだろう。まさかFaceTimeとチャットで交際、万一結婚なんてことになった時にリアルで初めて会うとか? マッターホルンKYは、「いいね!」第1号ということで印象に残ったのと、画像がどれもかっこつけすぎで、逆に面白い。とはいえ、洗練された男性であることは間違いないだろう。


 と、ここでハッと気づく。私の選択基準って、やっぱり「面白い」が最初に来ちゃうみたい……。ふー。ひと仕事した気になってひと息ついた瞬間、瑛子からLINEが。「Pairsどうした?」。相変
わらず、男性みたいに短いメッセージ。でもやっぱりここでも瑛子は自分のことを語らず、私の婚活を気にしてくれている。「瑛子こそ、あれからどうした?」。そう返信を書いたけれど、送らずに消した。


 瑛子が自分から話してくれるまで、待つよ、私。その日までずっと、祈ってるからね。でも、と思う。瑛子と彼の幸せを祈ることは、彼の家庭の終わりを願うことだ。奥さんと、確かまだ小さかったはずのお子さんたち。知らない人たちだからって、ひとつの家庭の終焉を祈るなんて。

■婚活の行方を左右する「彼」との出会い

 めぐり始めた思いを振り払い、瑛子へのメッセージを書き直した。「ありがと、気にしてくれて。それがさ」。いきなりいくつも「いいね!」が来たこと。瑛子に言われた通り、プロフを精査しているつもりだけれど、結婚適性よりも、面白さが気になってしまうこと。思ったままを書き送るや否や、瑛子からただちに返信が届く。
「有紀は婚活ナメてる。こら! そもそもダイエットは始めたの? 夜から始めてって言ったけど!?」
 ひー! 瑛子ったらやっぱり鬼コーチ。ベッドにスマホを置き、そっと後ずさりした瞬間。新たな「いいね!」の通知がPairsから届いていたことに、私はまだ気づかずにいた。


「J.Uさんからいいねが届きました」。のちに私の婚活のゆくえを左右することになる、J.Uが降臨。どうなる? 私のアラフィフ婚活!





(第10話へつづく)

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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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