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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第18話

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49歳と11ヶ月の女性フリーライター。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第18話をお届けします。

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第18話

伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳を目前にして婚活を開始)
曽我真之(そがまさゆき/55歳・仕事で知り合った有紀の昔の彼。20年ぶりに再会を果たした曽我はどうやら妻と不仲。もしかしてやり直せるのではと有紀の期待は膨らむも……)
リア充KY(りあじゅうケーワイ/53歳・町田で飲食店を経営するセレブ。有紀に会うなり「ただの主婦」と目を背けて)
バカリズム似NH(バカリズムにエヌエイチ/48歳・知財法律関係の会社員。高年収のセレブだが成功を鼻にかけるところがない)




●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。50歳も目前になって、急遽婚活を開始することに。親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録し、結婚相談所で面談も。20年ぶりに再会した昔の彼・曽我は、まだ既婚者だが離婚も視野に? 有紀とやり直そうと? けれど気まぐれな連絡では真意が見えない。PairsでつながったKYとはリアルで会い、冷淡にあしらわれた。「ただ気の合う友人として会おう」と約束したバカリズム似のNHとは、LINEのやりとりから恋が始まる……!?

■アラフィフでも若く、美しく見せる方法は?

40をいくつか過ぎた頃からだろうか。女の顔はその日によって、軽く10歳違って見えるようになる。
肌も体調もよい日には実年齢より5〜6つ若やいで見え、不調ともなれば一気に老けこみ、実年齢より3〜4つ、年上に見えてしまうのだ。



それにしても、とわたしはしみじみと実感する。アラフィフに至った年齢の女が若々しく、美しくあり続けるのは、なんと難しいことなのだろう。
打ち合わせ帰りに立ち寄った渋谷のデパートで、わたしは行きかう女性たちをそれとなく眺め、小さなため息を漏らすのだった。



加齢によって輝きを失なった髪質を考慮しない一途なロングヘア信仰は、バブル期で止まったままの価値観を浮き彫りにしてしまうし、濃い色に頼りすぎるメイクは、艶への執着が見る者に重い。
太っても痩せすぎても老けて見える。流行を気にしすぎればイタく、構わなければあっさりと古びる。



どうすれば若く、あるいは若々しく見えるのだろう。どうすれば少しでも美しく見える?
バカリズム似のNHさんとは、ただの気の合う友人として会うと約束してあるのだから、気負う必要などないはず。それでもやはり出会いの瞬間、女としてまだ「あり」だと思われたい。NHさんの瞳が「あり」だと物語る瞬間を見届けたい。その願いが叶ったら、あの日の痛みを忘れられる気がする。リア充KYさんに目を背けられた日の、あまりの惨めさを。

■女としてまだ「あり」だと思われたい

だからこそわたしはどうしても変わりたかった。また会いたいと思われる女になりたいのだ。どうしてでも。



やはりもう1着だけワンピースを買おうかと迷ったけれど、気に入ったものは5万円もしてとても手が届かない。せめてもと思い、化粧品コーナーで新色の口紅を買った。
美容部員の女性が、新発売の美容液のサンプルを付けてくれてうれしかった。今夜1度使ってみてよかったら、残りはNHさんと会う日のために大切に取っておこう。
駅へ向かおうと歩き出したところで、LINEの着信音が鳴った。NHさんからだ。
会う日が決まってからというもの、NHさんのメッセージはひときわやさしく、そしてマメに送られてくる。



マナーに適った堅いやりとりが少しずつほどけて、軽い冗談を書いてくれることもある。海外と日本の会社が結ぶ契約の法務関係を扱っているという知的なNHさんだけれど、知性をひけらかすようなところはまるでない。KYさん同様、相手を自分の都合に合わせさせる威張ったタイプの人かと身構えもしたけれど、海外出張が多くて常に忙しいNHさんだから仕方のないことだったのかもと、徐々に理解できるようになった。



「息子さん志望校に受かったんだ。お母さんがんばったね」とわたしをねぎらってくれたり、「少し気が早いけど、就活をうまく運ぶコツはね」とアドバイスをくれたり。
成功したセレブの人はやっぱり違うなと感心させられる行き届いた配慮や、言葉の端ばしににじむやさしさ、そこはかとなく伝わってくる品のよさに、「こんな人と人生を歩めたら幸せだろうな」と思い始めているわたしがいる。



何言ってるの、ただの友人として会うんでしょ? そう自分を戒めてみるけれど。NHさんの真意は、本当のところどのあたりにあるのだろう。

■LINEで関係を壊すのって簡単かも……落ち込む夜

いまは北米にいるというNHさんからの今日のLINEは、珍しくすこし弱気だ。「接待終わって、こんな時間にようやくホテルに帰ったきました。昨日から微熱が引かない。疲れか溜まっているのかな。明日ここを発ったら一旦日本に戻るのて、有紀さんに会えますね。そのあとまたすぐシンカポールだよ」



こんな日はいつもの誤字も笑えない。書かれている以上に具合が悪いのではないかと心配になってしまう。渋谷のスクランブル交差点の近くにあるフルーツショップの入り口脇に立ち止まって、「大丈夫ですか? 今夜はぐっすりお休みくださいね」と返信した。
NHさんから即レス。「有紀さんのやさしい言葉に癒されます。ありかとう!」と書かれている。



世界中を飛びまわってがんばっているNHさん。言葉ひとつで癒されてくれるなら喜んで、と思い、「おつかれさま」と女の子がかわいくほほ笑むスタンプを送ろうとした、そのとき。うっかり手がすべって、わたしはとんでもないスタンプを送ってしまったのだった。女友達とふざけ合うとき専用の、おじさん感全開の「権力ちゃん」というスタンプ。しかも、添えられている台詞は「知らんがな」だなんて。どうしよう!? 今日はスプリングコートもいらないあたたかさだというのに、わたしは渋谷の雑踏の中で凍りついた。
わたしのバカ! 体調のすぐれない人を相手に、よりによって「知らんがな」だなんて。素敵だと思っている男性に、こんなかわいげゼロの、妙なおじさんのスタンプを送ってしまうなんて。



どうしよう、どうすれば、と焦るうち、5分、10分と無為にときが過ぎていく。いまさら何を言っても言い訳になりそうで怖くて、わたしにはうまくフォローすることができなかった。
NHさんからの即レスはふっつりと途絶えたきり。スマホは素知らぬ顔で静まり返っている。
終わっちゃったな。たった1個スタンプを送り間違えたせいで。そう思うと悲しくて、自分の迂闊さを呪いながら、わたしはとぼとぼと帰路に着いたのだった。

■誤って送ったおじさんスタンプが、LINEで始まる恋の導火線に!?

帰宅して、陽向と簡単な夕食を終え、お風呂に入り、上がってから少し仕事をして。それでもやはりNHさんからの返信はなかった。
時差があるんだもの、眠ってるのかもよ? と良い方に考えたくても、そろそろ日本は午前0時。北米は午前10時になるはず。前夜何時に寝ても朝7時には起きてニュースをチェックするというNHさんが、こんな時間まで眠っているとは思えない。



「LINEで関係を壊すのって簡単だな。なんて呆気ない……」やさしいNHさんとの縁を自分でダメにしたことが悲しくて、落ち込んだまま眠りに落ちかけたそのとき。ピロンとLINEの着信音が鳴った。
寝ぼけたままあわてて枕もとのスマホを手に取ると、差出人はNHさん。鼓動がダダダと強い音を立てる。さすがのNHさんも不快感をあらわにしているに違いないとおそるおそるメッセージを確かめると、送られてきていたのはなんと、わたしが送ったのと同じおじさんのスタンプ。「かしこまり!」とおじさんが敬礼のポーズをしている。



このマイナーなスタンプを探し出して買ってくれたんだ、NHさん。もしかすると、わたしがうっかりこのスタンプを送ってしまったことに気づいて? わたしの気まずさを軽くしてくれるために?
嫌われた、もう連絡がくることはないと思ったNHさんからLINEが届いて、しかもそこからNHさんらしいやさしさ、お茶目さが伝わってきて。涙腺の弱いわたしはめそめそと泣きながらスタンプを返した。「ヤダもう……」とおじさんが泣いているスタンプ。



即レスでNHさんからまた届いたおじさんスタンプの台詞を目にして、私の心臓は止まりそうになる。そこにはこう書かれていたのだ。「恋してる?」と。
泣き笑いでくしゃくしゃになった顔で、わたしは返信した。「検討します」
NHさんから届いた次のスタンプで、わたしの涙の堤防は完全に決壊したのだった。書かれていた台詞は「俺じゃダメか?」
ダメじゃないかもしれない。ううん、むしろNHさんでなくちゃダメかもしれない。涙に暮れながらわたしは返信した。ただ「ダメじゃありません。会いたいです」と、短く書いて──。

■「恋愛相手には無理」プロフ画像と現実の落差が恋を打ち砕く

2日後の夜。
あまり洒落たお店は緊張するのでというわたしの願いを聞き入れ、NHさんは中目黒にあるごく手頃なフレンチの店を予約してくれた。待ち合わせは中目黒駅の改札を出た横手のあたり。わたしはNHさんのバカリズム似の顔を知っているけれど、NHさんはわたしの容姿をまるで知らない。今日着ているのがくすんだピンクのワンピースであることと、髪はひとつに束ねているとだけ伝え、わたしが先にNHさんを見つけて声をかけると約束しておいた。



かなり早めに待ち合わせの場所に着いたわたしは、ひとり感慨にふけっていた。
まだ妻帯者であるくせにわたしの気を惹いてみせる曽我さんではなく、外見が主婦らしいというだけの理由で「不倫願望?」などと人をはずかしめるKYさんでもなく。心から信頼を寄せ、笑い合って生きていけるこのNHさんと出会うためにこそ、わたしは婚活を始めたのかもしれない。多忙な彼のために細やかに健康管理をし、いつも笑顔で見送り、出迎えるやさしい妻になれたら。
でもまずは思うさま、彼と恋に落ちよう。アラフィフ同士の大人の恋。けれどあの青春の頃のように、無欲で、純粋な──。



そこまで思いめぐらせていたとき、手にしていたスマホが音をたてた。LINE通話がかかってきたのだ。驚いてスマホを耳にあてた瞬間、声が聞こえた。スマホから? いや、スマホを介さず直に? 「有紀さん。うしろ見て……」。わけがわからないまま、うしろを振り向くと。
そこにはスマホを手ににこやかにほほ笑む男性の姿があった。Pairsで見た画像とは似ても似つかない、老いて疲れ頭髪の後退した、うら寂しいバカリズムとしか言いようのない、小柄な紳士が──。あまりの衝撃に、わたしはその場で膝から崩れ落ちたのだった。まさかこれがNHさん!? Pairsの画像は実際の数倍良く撮れた、奇跡の1枚だったと気づいた。



「驚かせちゃってごめん! でもほら、髪型とか洋服とか教えてくれたし、LINEで雰囲気はつかめてたから、有紀ちゃんに間違いないって気がしたんだよね。で、LINEを鳴らしてみたんだ。やっと会えたね」
レストランについてからも終始にこやかで嬉しげなNHさんからは、わたしを女として「あり」と見てくれている気配が、隠しようもなくあふれている。
それなのにわたしはNHさんのことを「恋愛相手としては見られないかも」としか思えなくて、そんな自分を責め続けていた。「これほどやさしくあたたかく知的な男性を外見だけで拒むの? それじゃリア充KYさんと同じじゃないの。人を見た目だけで拒むなんて」と。



「これ頼んでよかったね。いい香りだ」白トリュフのリゾットを美味しそうにほお張るNHさんの隣で、あまりの申し訳なさにわたしは身がすくんでいた。LINEでのスタンプのやりとりの一件から、NHさんはもうわたしたちの恋が始まっていると信じていることだろう。それなのにわたしは……。
いくら心を愛せても、これでは恋にも結婚にも進めるはずがない。
このどうしようもない現実を前に、そして自分の身勝手さに、わたしはなすすべなく打ちのめされたのだった。



(第19話へつづく)




―お知らせー
いつも当連載を読んでくださり、有難うございます。
皆さんからお寄せいただく沢山のあたたかいお声に、心から感謝しています。

来週公開予定の第19話より、タイトルを
「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」と改題してお届けいたします。

人生最後の婚活、‘ラスト婚活=ラス婚’。
伊藤有紀がたどる波乱万丈のラス婚記に、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。





バックナンバーはこちらから
第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
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第17話(https://p-dress.jp/articles/2545

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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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