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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第14話

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伊藤有紀、フリーライター。49歳と11ヶ月。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第14話をお届けします。

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第14話

●第14話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳を目前にして婚活を開始)
伊藤陽向(いとうひなた/19歳・有紀のひとり息子。まもなく大学生に。母の婚活には賛成だが……)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・結婚相談所付属の婚活マナー教室講師・婚活に向け有紀を叱咤激励してくれている)
曽我真之(そがまさゆき/55歳・仕事で知り合った有紀の昔の彼。20年ぶりに有紀に連絡を)





●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。50歳も目前になって、急遽婚活を開始することに。親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。結婚相談所で面談を受けた帰り、20年ぶりに昔の彼から連絡を受けて再会の約束をしたのでした。近づくその日までに小太り状態から脱却して、私、女に戻ることができる!?

■元彼に会うために痩せないと──人生が色づき始めた

曽我さんに会うために痩せる。2週間で必ず痩せて、Mサイズの女になる。
明確な目標ができたお陰で、わたしは生まれてはじめてダイエットに本気になった。不退転の覚悟で、さあ、自分との戦いが始まる。





<ダイエット1日目 体重62kg>
朝食、昼食は普通に。午後、おやつにバナナを1本。夕食抜き。
夜、陽向(ひなた)からクッキーで誘惑されるも、ちゃんと断った。寝る前にはもうふらふらだったけど、ベッドに潜り込んでなんとか乗り切る。


瑛子の指示に従い、Pairsでとりあえず3人に「いいね!」を返したら、カップリング成立ということで、3人のうち2人からメッセージが来た。でもダイエットのせいで返信する気力が沸かず、放置。





<ダイエット2日目 体重60.8kg>
なにこれ!? たった一晩夕食を抜いただけで、1.2kgも体重が減ってる!!! 俄然やる気が出て、朝は食パン1枚だけにしてみたけれど、すぐ空腹に悩まされて仕事にならず。
昼食は打ち合わせのあと、富士そばでかつ丼をかっこんでしまう。私のばか! 猛烈に後悔して、夜はお茶漬けのみ。お腹が空かないうちに、Pairsのメッセージに返信。




①リア充KNさん(53歳/町田市在住、飲食関係経営者・役員、年収2000万~3000万円。海外らしきスキー場での画像とか、やけにリア充っぽい)に。「画像のセンスが素敵だね」とか、いきなりフランク。遊び人? そういう人と関わるのは人生初。怖いけどちょっと楽しい。「褒めていただいてありがとうございます」と真面目に返しておく。


②バカリズム似NHさん(48歳/東京在住、知財法律、身長164cm、年収1000万~1500万円)よく言えばバカリズム似? 50前なのに可愛げのある容姿と、趣味が映画鑑賞というところに惹かれる。知財法律って知的な感じだけど、文章は誤字脱字だらけ。おっちょこちょいなのかも? 好きな映画を訊いてみた。返信、来るかな?





<ダイエット5日目 体重61.4kg>
ちゃんとダイエットしてるのに、なんで体重が増えるわけ? 泣きたい。曽我さんに会う日に着るつもりの、くすみピンクのワンピースを恨めしく眺める。
Pairsのメッセージ、KNさんとはチャットみたいにやりとりが続いた後、丸1日放置された。忙しいのかな。


NHさんは律儀に毎日、丁寧な返事をくれる。相変わらず誤字脱字が多い。法律のことはわからないけど、こんなにミスタイプが多くて成立する仕事だろうか? ほんとに法律関係? ちょっと疑念が沸く。文面を見る限り爽やかで、今のところ好印象ではあるけど。



そしてもうひとりメッセージをやりとりする人ができた。J.Uさん。IT関係で43歳、年収1000万~2000万円って書いてある。事実ならお金持ちだけど、それにしてはヒッピーみたいな風体で世界のあちこち旅をしてる画像が並んでる。メッセージは言葉使いが正しいし、仕事にやりがいを感じてるとか、どれも明るい気配。そういうのっていいな。会ってみたくなる人……。





<ダイエット10日目 体重58.2kg>
ダイエット、10日目なのにまだ-4kg。焦る。ワンピース、おそるおそるファスナーを上げてみたけど、半分までいかない。あと4日しかないのに、これで間に合うんだろうか?
だからって今以上に食事を制限すると、貧血っぽくなっちゃって仕事ができそうにない。


曽我さんと会う日が近づいて、Pairsの男性たちとメッセージで話をして。私の人生は、なんだかにわかに色づきはじめた。
夫を亡くして、男になったつもりで働くと決めてからは、仕事と陽向のことで精一杯の日々を生きてきたのに。メール越しとはいえ、ひとりの女性として丁寧に扱われることで、眠っていた何かが目覚めたとでもいうのだろうか。


身体とも心とも区別のつかないどこかにひたひたと潤いが満ちる感覚があって。それはつまり私が女に還りゆく道程なのだと、理屈抜きに知っている気がした。なぜなら私もまた、ひとりの女であるから──。

■親友のぶっきらぼうなやさしさが、胸深く沁みて

<ダイエット13日目 運命の曽我DAY前夜 体重54.7kg>
いよいよ明日は曽我さんに会う日。ダイエット期間は2週間、体重はマイナス7.3kg。毎日眺めてがんばった大事なワンピースを着てみる。よし。取りあえず身体は収まった。あとはファスナー。ドキドキしながら、少しずつ引き上げる。あとちょっと、あとちょっと……。上がった! ついに1番上まで! これで曽我さんに会える!





嬉しくて、目頭が熱くなった。ああでもこれ、食事したらパーンなんて脇の縫い目が裂けないだろうか。明日は、昔着てたボディスーツを下に着込めばなんとかなる? あれ、どこにしまったっけ……。



姿見に映る私は、どう贔屓目に見ても所詮50前のおばさんだけど。明日は美容室に行って、髪をセットしてもらって、お化粧だって。
神様、どうか1日だけ。ううん、曽我さんと会ってる何時間かだけでいいんです。私に魔法をかけてください。ちょっとだけ綺麗に見えるように。曽我さんが背中を向けて帰ってしまわないように……。





ピンポーン。玄関のベルが鳴って、宅配のお兄さんが小さな紙袋を届けてくれた。差出人は……瑛子? なんだろう。急いで袋を開けると、小さな箱が入っていた。箱に貼られた付箋に、瑛子の字で何か書いてある。「曽我用」。何? 
箱の中身はイヤリングだった。小さな白い花の。耳につけると、花が可愛く揺れる……。
そっか。アクセサリーのことなんて考える余裕なかったよ。明日、これ着けて行くね。
ありがとう、瑛子。
親友の、ぶっきらぼうなやさしさが、胸深く沁みてきて。てのひらに載せた愛らしいイアリングを、わたしはいつまでも見つめていた──。

■20年ぶりの再会。昔の彼と、再び恋に?!

とうとうこの日、曽我さんに会う日がやってきた。待ち合わせは、広尾。東京メトロに揺られながら、私は何度もそっと手鏡を覗いて、ため息をついた。いまどきのヘアメイクってこんな感じでいいんだろうか。おくれ毛をわざと作るの? 頬紅もこんなに? 小さな鏡に映る見慣れない自分の顔が、どうにも心配で落ち着かない。白い花が耳元で、不安げに揺れている。





電車が広尾駅に着いた。「ふうっ」。周囲に聞こえたかもしれないくらい深いため息をひとつついて、私はホームに降り立った。久しぶりに履いたハイヒールのせいで、足元がおぼつかない。なんとか地上への階段を上り、改札を出る。目的のフランス料理店へは、たしかこの横断歩道を渡って……。スマホで地図を確かめようとした瞬間、声が聞こえた。
「有紀、ちゃん……?」





え? まさか……。驚いて声のする方へ振り返ると、そこには、戸惑いながらこちらを窺う顔があった。曽我……さん? ああそうだ。曽我さんだ。確信を抱くと同時に、もう視界が滲み始めた。涙の再会なんて、私、そんな柄じゃないよね? 泣くな、有紀。自分に言い聞かせて唇をかみしめても、こみあげるものを堪えることができない。



「やあ! 久しぶり」。歩み寄ってくる曽我さんの笑顔が、笑うとうんと目尻の下がるやさしい顔が、昔のままで。けれどやっぱり20年分、ちゃんとおじさんになっていて。大好きだったくせっ毛には、白いものが混ざっている。そんなすべてが胸に迫って、わたしにはもう言葉がなかった。





「元気だった?」「急に呼び出して驚かせたね」。何を言われても首をぶんぶん縦に振って、うなずくことしかできなくて。 メイクが台無しになるってわかっているのに、滂沱の涙が止めようもなくあふれてしまう。
ああわたし、この人のことが大好きだった。会いたかった。ただその思いだけが、ひたひたと全身を満たしていく。
もう一度誰かと生きる人生を与えてくださるのだとしたら。神様、その相手はどうか曽我さんだと言ってください──。



20年ぶりに曽我さんに会って、私は再び恋に落ちてしまったのだと思う。このあと聞くことになる彼の告白が、どれほど私を苦しめるものか、このときはまだ知らぬままに──。

(第15話につづく)

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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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