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「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第19話

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伊藤有紀、フリーライター。10年前に夫を亡くしてから、女手ひとつで息子を育ててきた。50歳を目前に控え、慌てて婚活を始めてみるが……。「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第19話をお届けします。

「ラス婚~女は何歳まで再婚できますか?~」 ― 第19話

―お知らせー
いつも当連載をご覧くださいましてありがとうございます。
今回の第19話より、タイトルを改題してお届けいたします。

人生最後の婚活、ラスト婚活=“ラス婚”によって、伊藤有紀は再婚できるでしょうか?
波乱万丈の婚活奮闘記に、ひきつづきお付き合いください。
どうぞよろしくお願いいたします。



●第19話の登場人物
伊藤有紀(いとうゆき/49歳・フリーライター・50歳を目前にして婚活を開始)
曽我真之(そがまさゆき/55歳・仕事で知り合った有紀の昔の彼。20年ぶりに再会を果たした曽我はどうやら妻と不仲。もしかしてやり直せるのではと有紀の期待は膨らむも、連絡は気まぐれで……)
矢野瑛子(やのえいこ/48歳・結婚相談所付属の婚活マナー教室講師・有紀の婚活をバックアップしてくれていたが、曽我を批判したことで絶交したまま)
リア充KY(りあじゅうケーワイ/53歳・町田で飲食店を経営するセレブ。有紀に会うなり「ただの主婦」「不倫願望?」と目を背け侮辱)
バカリズム似NH(バカリズムにエヌエイチ/48歳・知財法律関係の会社員。高年収で心やさしきセレブ。LINEのやりとりで有紀と恋が始まったはずだったが)





●ここまでのあらすじ 
わたしは伊藤有紀、仕事はフリーライター。10年前に夫を交通事故で亡くしてから、ひとりで息子を育ててきました。50歳も目前になって、急遽婚活を開始することに。親友・瑛子のアドバイスで、マッチングサイトPairs(ペアーズ)に登録。ここまでふたりの男性と実際に会ってみたが、ひとりめのKY氏からは「ただの主婦」とバカにされて拒まれ、ふたりめのNH氏はLINE越しのやりとりでやさしさに惹かれるも、いざ会ってみると容姿を受け入れられず、もがいて──。

■婚活って何? ボロボロに傷つき、やさしい人を傷つけて──

Twitter、Facebook、Instagram、etc.──。
ネットを介して見知らぬ人とつながることがあたりまえの社会になってから、どのくらい経つだろう。
その日あったこと、感じたことを気軽にpostして、「いいね!」やコメントをもらって、やりとりが始まって。



公開の場でなされるやりとりの多くは、他愛ないものにすぎない。けれど、SNSのダイレクトメッセージ機能、メールにLINEとなると、事は一気に様相を変える。そこは密室なのだ。
男と女がそこへ立ち入り、うしろ手にそっとドアを閉めたなら、いつどのような物語が始まってもおかしくはない。たわむれの恋も、本物の愛も──。



NHさんとわたしもそうだった。Pairsでつながり、LINEのやりとりを重ねるうちにわたしは、NHさんと寄り添って生きていきたいと願うようになっていた。その思いはおそらくNHさんも同じで、だから初めて会う日、わたしたちはただ答え合わせをすればよいはずだった。
「想像どおり、良識ある人だ」「思ったとおり、やさしい人だ」。抱いていたイメージと現実をすりあわせる、答え合わせを。



そこをクリアできれば、残る課題は容姿だけ。お世辞にも美人とはいえないわたしの容姿を、NHさんは受け入れてくれたというのに。想像より老い、疲れて見えたNHさんの姿を、わたしはどうしても受け入れることができなかった。なんて狭量な女──。



あの日、中目黒の駅で別れ、NHさんとは逆方向へ向かう電車に乗り、わたしは半ば放心したように車窓をみつめていた。
夜の車窓は、いつだって女に酷い。目の下のたるみ、重力に抗いきれず下垂する頬。日頃鏡で見知っている顔よりよほど老けこんでやつれた自分の顔が、物言わずじっとこちらを見返してくる。あの夜もそうだった。



「ねえ有紀、自分の顔をよく見てごらん。こんなに老いて醜い顔をしているんだよ。NHさんの容姿を受け入れがたいだなんて、本気で言ってるの? 身のほど知らずのアラフィフ女。いっそ哀れだね……」
車窓に映るもうひとりのわたしが、嗤っている。



けれども、それでも、結婚という安心を手に入れたいからといって、やさしいNHさんを欺くわけにはいかない。好きになったふりなんてしてよいはずがない。
嫌われても、憎まれてもいい。お付き合いはできないと伝えよう。なんとか少しでもさりげなく、NHさんを傷つけないように……。



そう心を決めてバッグからスマホを取り出したタイミングで、NHさんからLINEが届いた。「会えてうれしかったです。はっきり言いますね。有紀さんのことがとても気に入りました」
そのメッセージを読んでわたしは、疲れた、と思った。ほんのすこし前、リア充KYさんに侮辱されボロボロに傷ついたくせに、今はこうして何の罪もないNHさんを傷つけようとしている。わたしは一体何をしているんだろう。婚活っていったい何?



言葉を交わす人もない寡黙な車両が、ガタン、ゴトンと不規則に揺れながら、孤独な夜を進んでゆく──。


■自力で再婚なんて無理。最後の砦はやはり結婚相談所

自助努力だけで再婚に辿り着くなんて、わたしにはとても無理。ドジなわたしが的外れな婚活をしてしまえば、また誰かを傷つけることになるのだし。
身にしみてそうわかった気がして、アポを取り、銀座へ足を運んだ。もう二度と足を踏み入れたくなかったはずの場所。瑛子が勤めている銀座の結婚相談所へ。



初めて面談に出向いた日、「あなたでは再婚は厳しい」と冷たくわたしをあしらった藤崎さんが、いま目の前で入会手続きの書類を確認してくれている。瑛子が口添えしてくれたお陰だろうな、きっと。
あれからいろいろあったせいだろうか。この面談室が、なぜかすこし懐かしくさえ感じられる。まだ婚活の現実を、何も知らなかったあの頃──。



「まあね、アラフィフでも結婚おできになる方はいらっしゃいます。伊藤さんもお痩せになって、努力なさったようですし。ま、しばらくがんばってごらんになればいいんじゃないですか?」
相変わらず冷ややかな言い方。シニアの婚活市場は随分成長していると聞くけれど、成婚率の高くないアラフィフ女性は、結婚相談所にとって望まざるお客なのかもしれない。月々1万円とか2万円の会費ではなく、結婚が決まった人が支払う数十万円の成婚料で、こういうビジネスは成り立っているらしいから。



苦い思いは胸にしまって、「よろしくお願いします」と頭を下げ、書類の控えを受け取って廊下へ出た。



藤崎さんにいいところを見せようと、無理をしてピンヒールの靴を履いてきたせいで、どうも歩きにくいったらない……と思った瞬間、毛足の長い絨毯にヒールの先がひっかかって、わたしはおでこからドーンと派手に転んでしまった。
手にしていたバッグが宙を舞い、サイドボードに飾ってあった花瓶にぶつかって割ってしまう。ガッシャーン! と大きな音があたりに響き渡り、「何ごと?」と大勢の人が集まってきた。


■「本気の婚活が始まるよ!」再会した瑛子から激が飛ぶ

恥ずかしすぎる、消えてしまいたい……。でもなんだか足首のあたりに激痛が走って、動けそうにない。



「大丈夫ですか?」さすがの藤崎さんも、駆けよってきてわたしを助け起こしてくれた。そのとき、「有……紀?」と訝しげにこちらを覗き込む顔があった。瑛子だ。
「やっぱり有紀だ。んもう、なにやってんの。立てる? そっと立ってみなよ。足、折れてるといけないから」
「うん、ありがと……」。瑛子の助けを借りて、わたしはなんとか立ち上がることができた。どうやら骨折はまぬがれたらしい。



藤崎さんに「すみません。花瓶、ちゃんと弁償しますから」と頭を下げたけれど、事務方らしき男性に「大丈夫よね?」と声をかけた藤崎さんは、「今回は結構ですよ。それより足、お大事に」と笑って去っていった。
集まった人々がそれぞれの持ち場へと立ち去り、受付の女性が飛び散った花瓶の後片付けを始めてくれた。
「あの、ごめんなさい。手伝います」と詫びるわたしに、自分もほうきを取ってきた瑛子がちいさく笑って言った。
「いいから。それより、登録済んだんでしょ? じゃ、角のドトールで待ってて。提出するものがあって寄っただけだし、10分くらいで行けるから」



「ありがと、ほんとに」。電話でけんかしたきりだったのにな。曽我さんのことを悪く言われて頭にきて、瑛子にはもう関係ないなんて、わたし、ひどいことを言ったのに。瑛子ってなんて大人なんだろう。涙腺がバカなせいで、わたしはまたべそをかいた。
「ほらもう、そうやってすぐ泣く。泣いてる場合じゃないよ。ここからが本当の正念場。本気の婚活がはじまるんだからね!」
ひさしぶりに聞く瑛子の激に、びくっと身が引き締まる思いがした──。




(第20話へつづく)




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第1話(https://p-dress.jp/articles/2082
第2話(https://p-dress.jp/articles/2083
第3話(https://p-dress.jp/articles/2087
第4話(https://p-dress.jp/articles/2149
第5話(https://p-dress.jp/articles/2162
第6話(https://p-dress.jp/articles/2197
第7話(https://p-dress.jp/articles/2226
第8話(https://p-dress.jp/articles/2252
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第18話(https://p-dress.jp/articles/2576

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伊藤 有紀

フリーライター。 39歳のとき、夫が急逝して、わたしは突然ミボージンになりました。以来、ひとり息子をなんとか一人前に育てあげなくてはと、仕事と子育てに多忙な日々を過ごしてきたのです。あっという間に月日は流れ、息子がようやく...

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