『横顔の女』バックナンバー
#1「窓」 #2「台所」 #3「お裁縫」 #4「お鮨屋さん」 #5「お化粧」 #6「スキー」#7「旅」
#8「コーヒー」
#9「和室」
#10「今を生きる今くん」
#11「叔母のワイン煮」
#12「文房具さん」
#13「物思いのススメ」
#14「京都通信2」
無事に時代劇の撮影も終わり、東京に戻ってきた。
いやはや、私の心はすっかり京都に残っている。
本当に、毎度影響受けやすい自分に、笑ってしまう。
祇園によくお世話になる知り合いがいるので、ただいま〜と、入っていけるお店もある。親戚みたいな気持ちがして、ホッとする。
祇園白川や縄手、三条あたりを休みの日に歩いた。
おそらくは芸者さん、色白で結い上げたうなじの見惚れるほど綺麗な人がいた。その人は衣擦れの音をさせて石畳の小径を歩いて行く。お太鼓の帯も右下がりで、着物の裾もかなりタイトに着付けていて、粋な人だなあと感心した。
違う日にも芸者さんを見かけたが、その人もきちんと髪を結い上げ、うなじが際立って美しかった。磨き上げるとはこのことかと知った。
ふたりともどこかへ向かっていて、私の目の前からパッと消えてしまった。余計に、こちらは余韻が濃く残る。
先日、京マチ子さんの『女系家族』という映画を拝見したのだが、伏し目がちの顔、流し目の顔、企んだ顔、焦りの顔、復讐の顔、ラストのつきものが落ちたような顔……。
女の顔とは、こんなにもさまざまな場面で、めくるめく美しいものなのだと、あらためて気付いた。
顔形よりも、感受性の鋭さを隠そうとしても滲み出る、そんな顔が、いかに魅力的かと。
前に読んだ雑誌に、「大人の女とは、ミステリアスなイメージ」という内容があった。そういえば私も若い頃、大人というのは、ミステリアスで、自信に満ち溢れた人だと思っていた。
それは、付け焼き刃ではなく、積みあげた年輪みたいなものであり、確かなものなのだ。揺るがない魅力なのだ。
なーんてことを、すれ違ったふたりの女性は、涼やかに私に考えさせてくれた。
続きはまた秋の日の夕暮れに、静かに考えてみよう。私は自分がなりたい大人になれているかということを。
戸田菜穂