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戸田菜穂連載『横顔の女』#13

戸田菜穂連載『横顔の女』#13

「物想いのススメ」

今、京都にいる。
新春ドラマの衣装合わせの帰り、ちょっと寄り道して、寺町商店街の鳩居堂近くのスマートコーヒー店で、この原稿を書いている。

普段は並んでいる人気店だ。

私は京都の仕事も多く、暮らすように滞在したこともなんどもある。
京都は、通えば通うだけ居心地がよくなる。
撮影所の皆さんも、お帰りなさいと迎えてくださる。
伺うたびに街も店も人もよそよそしさが、消えていくような気がしている。
ほっとする場所をいくつか持っておくといい。喫茶店でも、料理屋さんでも、カウンターでお話したりすると、馴染んでくる。

また、新しいことも、ちょっと奥まった京都のいいとこも、教えてもらえるそれが醍醐味。ガイドブックには、載らない場所。

いやあ、中学受験に落ちて、“残念だったね京都旅行”から始まり、あれから何回来たか数え切れない。小学生のときは、清水寺や二年坂、奈良も行って、朝粥を食べたり、あんまり記憶に残っていないが、弥勒菩薩は美しかったなあ。
太秦東映撮影所も、見学した。
懐かしい。

広隆寺の弥勒菩薩を観に今もよく伺う。映画村のそばだ。
今いるスマートコーヒーは、太秦の松竹撮影所の前にも姉妹店があり、そこには、髷(まげ) をつけたままの役者さんもたまにいるから、行かれたら楽しいかもしれない。ホットケーキが昔ながらの銅板焼きで、最高に懐かしい味。

食が細い方なら、鍵善の葛切りをお昼に食べて、夜までお腹を空かせるのもいいかもしれない。この葛切りは必ず食べに来る。氷の音まで美味しい。

仮に女子ひとり旅なら、一軒ショットバーを行きつけにしてもいいかもしれない。飲み屋街ではなく、ぽつんとあるようなね。

老舗のバーには、ロマンがあるし、そこに通う方たちのムードも素敵だ。
京都弁を聴きながら、洋酒をいただくのもいい。

そうそう。ショットバーと言えば、間接照明だが、さきほど寺町商店街の京電商会という小さな街の電気屋さんで、探していた緑のガラスのランプシェードを見つけたのだ! 小躍りしてしまうくらい嬉しい!20年前に同じ店で買って、引越しの際、実家に移動したりして、どうしても見つからなかったものだった。

小さな灯りを上から吊るすと、そこだけ緑色にふわっと照らされ、居心地のいい小さな空間ができる。

そして、おすすめは、金閣寺。閉館間際に滑り込んだことがあって、忘れられない。
雪が降り、金閣寺と、ひとり対峙した。
あの美しさ、鳳凰が舞い降りたようなその姿に、もうほかには何もいらないとため息をついたなあ。

旅の最後に、時間があれば、京都駅伊勢丹の上の方にある和久傳で、カウンターに座り、暮れなずむ京の街を見ながら、早めの夕食を食べ、京都にさよならをするのも、おすすめだ。

ああ、まだまだ書き足りないから、またいつか書くことにする。
とにかく京都は、物思いにおおいにふける旅ができるのだ。

戸田菜穂

『横顔の女』バックナンバー


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#11「叔母のワイン煮

#12「文房具さん

#13「物思いのススメ

戸田菜穂

1974年生まれ、広島県出身。1990年、第15回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞しデビュー。93年放送のNHK 連続テレビ小説「ええにょぼ」で主演を務め、以降、テレビ・映画などで活躍。

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