『横顔の女』バックナンバー
#1「窓」 #2「台所」 #3「お裁縫」 #4「お鮨屋さん」 #5「お化粧」 #6「スキー」#7「旅」
#8「コーヒー」
#9「和室」
#10「今を生きる今くん」
#11「叔母のワイン煮」
#12「文房具さん」
#13「物思いのススメ」
今、京都にいる。
新春ドラマの衣装合わせの帰り、ちょっと寄り道して、寺町商店街の鳩居堂近くのスマートコーヒー店で、この原稿を書いている。
普段は並んでいる人気店だ。
私は京都の仕事も多く、暮らすように滞在したこともなんどもある。
京都は、通えば通うだけ居心地がよくなる。
撮影所の皆さんも、お帰りなさいと迎えてくださる。
伺うたびに街も店も人もよそよそしさが、消えていくような気がしている。
ほっとする場所をいくつか持っておくといい。喫茶店でも、料理屋さんでも、カウンターでお話したりすると、馴染んでくる。
また、新しいことも、ちょっと奥まった京都のいいとこも、教えてもらえるそれが醍醐味。ガイドブックには、載らない場所。
いやあ、中学受験に落ちて、“残念だったね京都旅行”から始まり、あれから何回来たか数え切れない。小学生のときは、清水寺や二年坂、奈良も行って、朝粥を食べたり、あんまり記憶に残っていないが、弥勒菩薩は美しかったなあ。
太秦東映撮影所も、見学した。
懐かしい。
広隆寺の弥勒菩薩を観に今もよく伺う。映画村のそばだ。
今いるスマートコーヒーは、太秦の松竹撮影所の前にも姉妹店があり、そこには、髷(まげ) をつけたままの役者さんもたまにいるから、行かれたら楽しいかもしれない。ホットケーキが昔ながらの銅板焼きで、最高に懐かしい味。
食が細い方なら、鍵善の葛切りをお昼に食べて、夜までお腹を空かせるのもいいかもしれない。この葛切りは必ず食べに来る。氷の音まで美味しい。
仮に女子ひとり旅なら、一軒ショットバーを行きつけにしてもいいかもしれない。飲み屋街ではなく、ぽつんとあるようなね。
老舗のバーには、ロマンがあるし、そこに通う方たちのムードも素敵だ。
京都弁を聴きながら、洋酒をいただくのもいい。
そうそう。ショットバーと言えば、間接照明だが、さきほど寺町商店街の京電商会という小さな街の電気屋さんで、探していた緑のガラスのランプシェードを見つけたのだ! 小躍りしてしまうくらい嬉しい!20年前に同じ店で買って、引越しの際、実家に移動したりして、どうしても見つからなかったものだった。
小さな灯りを上から吊るすと、そこだけ緑色にふわっと照らされ、居心地のいい小さな空間ができる。
そして、おすすめは、金閣寺。閉館間際に滑り込んだことがあって、忘れられない。
雪が降り、金閣寺と、ひとり対峙した。
あの美しさ、鳳凰が舞い降りたようなその姿に、もうほかには何もいらないとため息をついたなあ。
旅の最後に、時間があれば、京都駅伊勢丹の上の方にある和久傳で、カウンターに座り、暮れなずむ京の街を見ながら、早めの夕食を食べ、京都にさよならをするのも、おすすめだ。
ああ、まだまだ書き足りないから、またいつか書くことにする。
とにかく京都は、物思いにおおいにふける旅ができるのだ。
戸田菜穂