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戸田菜穂連載『横顔の女』#9

戸田菜穂連載『横顔の女』#9

「和室」

 今、江戸時代のドラマ撮影に入っていて、毎日スタジオに通っている。
 薄暗いセットの中にいると、不思議と落ち着く。夜は行燈(あんどん)の灯りのみで、女性ははかなく美しく見えたに違いない。月あかりも冴え冴えと、闇の中、虫の音も耳に麗しかっただろうなあと想像している。五感がとぎすまされる夜だったはずだ。陽のあるうちに働き、日暮れとともに休む。

 私も今は5時前に起きて、朝のまだ夜露を含んだ濡れたような空気を吸う。新緑の植物の息吹に元気をもらっている。

 セットの和室にいると障子の良さにも気付かされる。一日の陽の移り変わりを和紙を通して壁や襖(ふすま)の色まで変えてくれる。陰も作ってくれる。

 私は蛍光灯が苦手で、どこまでも均等に白い光の中にいると落ち着かない。西洋のホテルへ行くと、ほとんどトップライトはなく、いくつか背の高いスタンドライトとデスクランプ、ベッドサイドのランプがあるのみ。これで夜がぐっと大人っぽく陰影を帯びた素敵なものとなる。平面の絵ではなく、油絵のような光と陰の何層にも重なる夜となるのだ。

 和室をリフォームした際に、デザイナーさんにアドバイスいただいたのだが、障子は本物の和紙がいいということで、上野の唐紙専門店に行って、障子紙、襖紙、引手、全て自分で選んだことがある。その楽しいことといったら。自ら選んだそれらに囲まれて、和室の全てが愛しく感じる。畳、畳のヘリも選んだ。畳が日焼けして色が変わった後もなじむ色にした。和紙は光が命だ。今まで感じなかったことだが、時代劇に身を置き、実感している。

 照明さんも、和紙のような特殊な紙を巻いてライティングされていて、それが顔に揺らぎを与え、陰影を与える。表情ができる。

 これから和室をリフォームされる方がいらしたら、ぜひ、ご自分で選ばれたらいいと思う。日本の色の奥深さも知る。丁子色(ちょうじいろ)、鳶色(とびいろ)、灰桜色、菜種色、白磁色、灰紫色、墨色、利休鼠(ねずみ)色……。

 私は夕陽に映えそうな楊梅色(やまももいろ)の淡色を襖紙に選んだ。
 昔祖父が言っていた。「夜目遠目笠の内」美人に見える要素だそうだ。
うん。全てが白日の下にさらされるよりも、少し隠れている方が、想像をかき立てられるものなのだろう。

戸田菜穂

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戸田菜穂

1974年生まれ、広島県出身。1990年、第15回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞しデビュー。93年放送のNHK 連続テレビ小説「ええにょぼ」で主演を務め、以降、テレビ・映画などで活躍。

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