戸田菜穂連載『横顔の女』#6
「スキー」
先日、ななななんと、スキーをした! 30年ぶりにだ。
子どもが幼稚園児のときは、ソリなどして一緒に遊んでいたのだが、ふたりともスキースクールに入って、夫とゲレンデデビューしてしまい、残された私は、ホテルの部屋でぽつんと雪見酒……ではつまらない……。
「今でしょ!」と、プライベートレッスンを申し込み、まずはスキー靴を履くところから始めた。重いし、歩きにくいし、痛いし、ロボットのように歩いてゲレンデに。
次にスキー板の履き方、はずし方、そして横へ倒れる転び方。片方の板を履いて歩く。そんなスーパー初心者レッスンを広大な苗場の片隅で行なう。ケガをしないように、一つひとつ頭に叩き込む。
先生に、「何かスポーツされてました?」と聞かれ、「テニスとボクシングを」と。先生、
「わーこわー、近づかんとこー」。
といってもテニスって、高校生のときの話やんと、自分でも笑ってしまう。スキー、30年ぶりと言うのも、高校の修学旅行の志賀高原でグループレッスンを受けただけ。全く覚えてない。
ちょっと歩いて、平地をゆるゆると滑る練習をして、すぐにリフトへ。えー! マジですか! 何もできないし、止まれないし、曲がれないし、高所恐怖症だしー! 迷う間もなくリフトの列に。「はい、乗って」「え!え!!」
ひざかっくんみたいにリフトの椅子がひざ裏にあたり、リフトにすとんと乗った。激こわー! 風で揺れるし、スキーの足は重い〜。リフトにひょいと乗っていた子どもたちを心底尊敬。私、いざというときは度胸があるのだが、それまではけっこうあたふたするタイプで、「キャー怖いー! キャー!」と年がいもなく叫んでいるのは私ひとり。リフトが急停車したり、強風で揺れたりするたび、青くなり、生きた心地がしなかった。
「リフトに乗らないと、スキーできませんからねー」と先生。「あ、はい。ですよね」高価なレッスン代だもん。こうなったら絶対にボーゲンはマスターしてやると意気込むことに。八の字で滑って、八の字で止まる。両手を横に開いて、うまれたての仔馬のようにわなわなしている私の横を4歳くらいの男の子が華麗にスススーッ。く、くやしい。私の憧れは、いつの日か両足を揃えて雪しぶきをあげて、シャーッと止まる、あれ、あれがやってみたい。
「あー、だいぶ先ですねー」と先生。
スキー。内股の筋肉、腕とお尻、背中。普段使わないあらゆる筋肉が呼び覚まされ、最高だ。今日はぐっすり眠れそう。
一番心に響いたのは、「あのね、地球を滑るかんじ」という先生の言葉。地球を滑る!なんて素敵な表現!
もっと地球を滑るために、早速スキー用品を買いに出掛ける熱のこもりよう。
いやあ。47歳にして、赤ちゃんが立ち上がり一歩踏み出す歓びを体現できるとは!
新しいことに触れるって、人生の醍醐味ですな〜。
戸田菜穂