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少しでもいいおじさんになるための準備

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連載『そんなこと言うんだ』は、日常の中でふと耳にした言葉を毎回1つ取り上げて、その言葉を聞き流せなかった理由を大切に考えていくエッセイです。#16では、下の世代にとっていかによき年長者になるかということについて考えていきます。

少しでもいいおじさんになるための準備

■めちゃ虚無ハイテンションバブルおじさん

DJ KOOの話をする。
TRFの。あの派手なおじさん。

といっても別に彼のことは詳しく知らなくていい。
若い頃にヒットチャートを賑わした音楽グループのメンバーで、天然ボケで、60歳手前にしバラエティ番組で再ブレイクした、彼についての知識はその程度で十分だ。

そんな彼が2年前の春の3カ月ほどの間、ファミリーマートの店内放送のパーソナリティを担当していた。このファミラジという店内放送では、数カ月周期の交代制でパーソナリティが入れ替わり、ラジオ形式でフリートークをおこなう。放送内容は1週間ほどで更新される。多くの人にとっては、買い物しているとき断片的に耳に入る程度のものだ。この真剣に聴いている人が皆無と言っていいファミラジに、筆者は一時期夢中になっていた。皆無は言いすぎた。

KOOのファミラジ、初回の放送はマジでどうしようもなかった。
毎度語尾に「イエーイ!!」を入れてくる。普段ステージ上で見せるようなハイテンションなノリが1人喋りのラジオ形式と壊滅的にミスマッチで、店内にいる間中おじさんが上滑りするのを聴かされる。虚無だ。話すエピソードもどうにもテンポが悪く、聞きどころがわからない。

そしておそらく、客商売のキャリアが長い彼自身、その手応えのなさは感じ取っているらしく、不安が滲み出るように言葉尻の声が小さい。毎行ハイテンションに喋りはじめて猛烈に失速するのを繰り返す。それがより一層虚無感を強調していた。
筆者自身いたたまれなさに耐えられなくて、その頃のランチはろくに選ばず適当にひっつかんだおにぎり2つで済ませて、足早に店を出ていた。

だから未だにテレビでKOOを見かけると反射で特に食べたくもなかったあさりと枝豆のおこわおにぎりの味が口の中に広がる。Twitter上でも当時のファミラジの評判は散々で、「虚無」「発狂しそう」などの意見が散見された。

でも、うまくいかないのも道理だろうとも思う。最近バラエティ番組での稼働が増えたといっても、彼は喋りのプロじゃない。音楽家であり、ましてやDJだ。DJのパフォーマンスは、オーディエンスと同じフロアで生の反応を受けながら内容を変えていくもの。密室での1人喋りとは正反対といえる。これまで培ってきたものがまったく活かされないアウェーな現場だっただろう。

■成長するおじさん

そして2週目、第2回分の放送が始まって驚いた。だいぶマシになっている。
抑えるべきところは抑え、上げるべきところで上げるテンションのペース配分がされ、上滑り感が軽減された。話のテンポも格段によくなり、起承転結がはっきりした。エピソードの内容も妻や娘との話が中心になり、ほのぼの日常系DJといった方向性に定めてやっていこうという意志が感じられた。第1回から第2回までの間にしっかりとアップデートしたのがありありと窺い知れる。

それは何も意外な話じゃない。元々彼は勉強熱心な人だ。
元々DJとして、最前線のクラブで最先端の音楽を常に摂取してきた人だし、バラエティ番組から引っ張りだこになって以降はノートをつけているという。オファーを受けた番組を出演前に必ず観て、傾向と対策をまとめたノートだ。KOOは芸人へのリスペクトをたびたび口にしていて、喋りのプロである彼らと同じステージに立つうえで自分がすべきこととして、番組の予習と復習を欠かさないという。

そうした真摯な姿勢を音楽、バラエティの現場のみならず、ファミラジでまで貫いているであろうことは想像に難くなかった。現に第3回、第4回とどんどんトークの質は向上していった。
当時高3の娘が卒業文集の寄せ書きに「Boy Meets Girl 出会いこそ 人生の宝探しだね」とTRFの歌詞を引用したというエピソードトークなんかはゴールデン帯の番組でも戦力になるであろうしっかりした出来だった。

■一番大きな感謝を伝えた相手

そして迎えた最終回、もうこの頃にはすっかりファミラジが楽しみだ。
最初から最後まで1周聴きたくて、すでに買って読み終えている週刊少年ジャンプを立ち読みするフリさえした。

最終回のメインテーマは、そのときTRFがデビュー25周年を迎えたこと。
KOOはこれまでのグループの歩みを振り返り、感慨を語ったのち、25年間を支えてきてくれた人たちへ感謝の言葉を贈りはじめた。

まず挙げたのが家族だったと思う。
これまでにもよくファミラジで妻や娘の話をしていたので、なんだかこちらとしても感慨深い。ただ、家族を最初に持ってきちゃうのか、このあと大丈夫か? と思った。トークの定石でいうと、これまでにしてきた妻や娘の話が前フリとして利いているし、”ファミリー”マートの店内放送ということでクライアントを立てる意味でも有効だ。最後に持ってきたほうがよかったのでは? ここまでKOOの成長を見守ってきているのもあり、勝手にいらん心配をしてしまう。

続いて感謝を伝えたい相手として挙げたのはメンバーとスタッフ。
まあ順当だろう。でもこれで、最後にメンバーとの思い出話でひと盛り上がりさせて締める線もなくなった。大丈夫か? どう締めるんだ?

そして1拍空けて挙げたのが、これまで応援してきてくれたファンのみなさん。
なるほどまあそうなる。特に話を盛り上げて締める感じではなく、ファンへの感謝でしっとり終わらすのか……と思ったら、ファンへの感謝も締めのテンションではなく、さらっと切り上げてしまった。ファンが最後じゃない。これ以上誰がいる? と思っていたときにKOOの口から出たのが、今回の記事のテーマである忘れられない一言だ。

「そして誰より大きな感謝を伝えたいのは、常に刺激を与え続けてくれた後輩たちですね」

■「常に刺激を与え続けてくれた後輩たち」

KOOの言葉にはっとして思わずジャンプから顔を上げた。顔を上げた先の本棚に面出しされていた『ヤングアニマル嵐』の表紙のグラビアアイドルと目が合う。名前も知らないその子の幸せを祈る。KOOの言葉でもう、魂がそういう祝福に満ちたコンディションになっていた。

記憶がおぼろげながらKOOの言っていたことの趣旨をまとめると、自分たちTRFは一定の成功を収めることができたし、そこで停滞することもできた。けれど下の世代が常におもしろい音楽を作っていたのが刺激になって、動き続けようという気にさせてくれた。止まらずにいられた。実はとてもいい影響をもらっていたんだ、ということだった。

自分に”これ”が言えるだろうか?
この”感謝の相手”が出てくる人はそうそういないだろう。
家族、メンバー、スタッフ、ファン、それでいいのだ。十分に好人物なはずだ。
年下からの影響を素直に認めた上で、一度得た業界内でのポジションに胡座をかかず学び続けて、「ありがとね、おじさん君らのおかげでがんばれてるよ」が言えるだろうか?

KOOの姿勢は、クラブミュージックというユースカルチャーに携わる人間として理想的な姿のように思う。常に”近頃の若者”として矢面に立たされがちなジャンルを仕事にする人間として、自分は常に最新のシーン動向をチェックし、新しいものごとを拒否しない、若者のやっていることを否定しないという矜持。当たり前じゃないことだ。老害になるのは簡単なんだから。

老害的だと指摘される人のよくある反論として、「俺は若い頃からこうだった、年寄りじみているというよりむしろ若い頃の感覚のまま生きている」といった旨のものがある。お気づきのように、これこそがまさに老害的な感性であって、なんら弁解になっていない。「だからその話をしてんだよ」なのだ。
おじさんが若い頃の感覚、つまり昔の感覚のままアップデートを怠り、いつまでも今の時代の価値観を取り入れられない、それが老害たる所以。年をとったら急に一人称がワシになるわけじゃない。

■少しでも「いいおじさん」になるために

おじさんが苦手だ。多寡は人それぞれであれ、どこかしら古い価値観が残っている場合が多いし、特にジェンダー観の部分では相容れないことばかりだ。ただKOOの話を聞いて、アップデートをサボらないおじさんの可能性に希望が持てた。

「自分はこういうおじさんになれるだろうか?」と考えると自信がない。少なくとも自分の人格の根っこの部分に老害的な要素がないとは思わない。いいおじさんになるために技術を培っていくしかない。ただ、あの言葉が天然で出たものなのか、テクニックとしての配慮からくる言葉なのかはあまり関係がないとも思う。

『ウルトラマニアック』という漫画がある。
そのバレンタインの回で、主人公・亜由の友人である仁菜が、亜由の片思い相手である人気者の好青年・架地の意外な一面を目撃する。架地は女子たちからもらった大量のチョコレートをこっそり捨てていたのだった。

それを受けて仁菜は、亜由に「架地くんが本当は好青年のふりをしているだけだったらどうする?」と訊ねる。ところが亜由は「惚れ直すかな」と答える。

「自分の嫌な部分を抑える努力をしてるってことでしょ」「”天然でいい人”も”努力していい人”もどっちもすごいよ」というのが亜由の考え方。確かに、努力次第で配慮や優しさが獲得できる、悪癖が抑え込めるというのは希望でしかない。

今10代の触れているカルチャーを思うと、自分の時代より進歩的・解放的に感じることが多々ある。
物心つく前から『ズートピア』を観て、りゅうちぇるやバービーが耕した土壌が、さらなる発展を遂げた未来のテレビで育った世代に、軽蔑されない大人でいられるだろうか。せめて年下にとって邪魔な存在ではありたくないし、かっこ悪い欲求だけどできれば尊敬もされていたい。KOOのファミラジは、そういう気持ちを引き締めてくれるものだった。

Photo/Nanami Miyamoto(@miyamo1073

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ヒラギノ游ゴ

ライター/編集者

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