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「私、名誉男性かもしれない」自分はおかしいのかもと思ったときに

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連載『そんなこと言うんだ』は、日常の中でふと耳にした言葉を毎回1つ取り上げて、その言葉を聞き流せなかった理由を大切に考えていくエッセイです。#15では、世間の情勢を見て自分の言動を改めようとするものの、その手がかりが掴めていない人たちとの関わりについて考えていきます。

「私、名誉男性かもしれない」自分はおかしいのかもと思ったときに

■相談があります

「私、名誉男性かもしれない」

ここ半年の間に6人から言われた言葉だ。

頻繁に会う友達、年に何回か会う程度の友達、3年会っていない友達、”知り合い”程度の距離感の人、Twitterのフォロワー、自分主催のイベントで募集したトークテーマの投稿者、それぞれに距離感は違えど、気にかけていることの大枠はみんな同じだった。

この記事では名誉男性という言葉の説明はしない。知らない人が自分で調べる過程を経て、こういったジャンルについてディグっていくことに慣れてほしくて書く記事だからだ。わざわざSafariで別タブを開いて検索窓に「名誉男性」と打ち込む手間は、必ず今後の糧になる。約束する。
そして、次のパッセージから本題に入っていくので、今がまさに別タブを開くのにちょうどいいタイミングだ。調べる必要を感じた人は、検索上位の記事をいくつか読んだらまたこの記事に戻ってきて続きを読んでほしい。


とはいえ、すでに知っていた人、これを機に調べた人、そしてまだ調べていない人、すべての人を想定してこの先を続ける。
もう知っている人には知っての通り、名誉男性というのは男性ではなく女性のことだ。そして”名誉”とあるが実際には不名誉なフレーズだ。自分から名乗ることはそうそうない。

だから、この言葉を自分に対して使うとそれなりにショッキングなニュアンスを伴う。ある種の告解だ。事実、このフレーズを聞かされるたび筆者はぐっと体温が下がるような緊張感を覚える。
ただ、似たような言葉を投げかけられた経験のある人は一定数いて、そういう人の間では十分に”あるある”のフレーズだとも思う。

この記事の目的は2つあって、1つは先に書いたとおり、こういったジャンルについて知っている単語の少ない人にとって興味を持つきっかけになってほしいということ。そして2つめは筆者からの相談だ。このフレーズが発語される状況に対してどう関わりを持っていくのがいいのか、この記事を読む人と一緒に考えさせてほしい。

■”しでかした”自覚

ジェンダーにまつわる時事ネタが浮上するたび、親しい人たちから「私も同じことをしでかしていた」と自分を省みる言葉を聞くことが増えてきた(「私も」はあっても「僕/俺も」のケースは今のところごく少ない。がんばっていこうな)。中にはそれをきっかけとして明確にウォーク、つまりジェンダー意識に目覚めたと言えるモードに入る人もいる。
ただ、今回取り上げる「私、名誉男性かもしれない」という言葉の主たちの場合はちょっと状況が異なる。

何かというと、「私、名誉男性かもしれない」の段階の人たちは、”しでかした”自覚がまだない。ただ、日々タイムラインなどで目にする身近な人の意見を追っているうちに、自分の感覚が世の中的にどうやら好ましくないものなのかもしれない、というのを察知した、という段階だ。

見識を深めていきたいのだけれど、ガイドになる過去の体験がないので、隣人としてどう促したらいいのかがわからない。ジェンダー論のロジックをしっかり説明しても、実感を伴わないのでどうにもピンときていない。というのが筆者が”相談したい”と書いた理由だ。
彼女ら同様に「私、名誉男性かも」と感じることがあるという人も、このフレーズに近い言葉を聞かされたことがあるという人も、思うことを聞かせてほしいです。

■目覚める前の記憶がない

”しでかしていた”という自覚、つまり自分が何かしら差別的な言動をしていたり、他人の権利を軽んじるおこないをしていたりといった加害の記憶にせよ、逆に自分が差別や暴力を受けたという被害の記憶にせよ、時を経て自覚することは糧になる。

実際に筆者の周りには「モテない女がなんか言ってるよ、うまくやりゃいいのに」という態度でいた頃の自分の首を絞めてやりたいと話し、今では日々ジェンダー関連の情報を熱心に追っている人もいる。筆者もこのジャンルについて発信する以上、謝罪と後悔と恥とで日々震えながら原稿を書いている。また、何年越しに「あのとき自分が受けたあれはセクハラだったんだ」と気づいて一気に目覚める人もいる。

対して今回取り上げるのは、そういった「あのときの自分のあれやばかったな」の手前の段階で「やばかったのかもしれない」と勘づいて来た人たちだ。

#metooムーブメントが勃興した頃のタイムラインを見て「私、名誉男性かもしれない」と言ってきた友達は、「私は男から嫌な思いをさせられたことが本当に一度もないんだよね」と言い切った。

『全裸監督』が問題になったときには「何がいけないのかわからない、私おかしいのかな」と困惑しきった人から意見を求められた。

岡村隆史のセックスワーカーにまつわる蔑視発言のときには、別の友達が「女性が風俗で働くのと男性が肉体労働するのと、何が違うの? って聞いたら軽蔑される?」とこぼした。

ジェンダー論の観点からすると、こういった感覚はあまりにも素朴すぎる。社会の現状がそもそも不均衡な構造である以上、被害にしろ加害にしろ何1つないとは言えないだろう。

ただ、「名誉男性」という言葉を知るところまでアクセスし、さらには「もしかしたら自分の過去現在の振る舞いが”それ”に当てはまるものかもしれない」という危機感を抱いたのであれば、じゃあ具体的に何が”それ”に当てはまるのか? を自覚して、当事者意識に目覚めるまであと一息とも言える。
ただ、今の社会では性教育やその他人権にまつわる教育があまりにも不十分であり、教育がなされていない以上個々人の努力の範疇になる部分を人格の問題として責め立てるのもまた筋が違う。

だから「私、名誉男性かもしれない」というSOSを受け取ったら、ジェンダー論で今確かだとされていること、自分が学んだ限りのことを努めて丁寧に伝えている。毎度相手はピンときていない。ただそれはそれで当然だ。これまでの2〜30年疑問に思ってこなかったんだから。

ジェンダーの話題に精通した人でも、ジョージ・フロイド氏の事件を受けてのBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動のニュースを見てはじめて人種問題に関心を持ったという人は少なくないだろう。世界にはジェンダーに限らず人間の尊厳にまつわる問題が山ほどある。また、前述の通り教育が不十分な以上、ジェンダーにまつわることだけを当然誰しも理解しているはずのこととして振る舞うのはそれはそれでアンフェアな構図だ。

それぞれの価値観に沿って生きてきた年月には、等しくそれなりの強度がある。これまで不自由なくやってきたんだから、今さらわざわざひっくり返す理由は相当でかくないといけない。今までこのやり方で生き延びてきたという自信もあるだろう。長く使ってきたものには愛着も湧く。

だから、「今はしっくりこなくても、”どうやら世の中的にそういうふうになってきてるらしい”とだけ覚えておくといいと思う。いつか自分とガチッと噛み合う瞬間が来るから」「個人的な納得は一旦置いておいて、なんとなく”そういうことなんだな”と思ってみるといいかも」と苦し紛れに言って聞かせている。実際、伝えるべきことは伝えて、あとは相手の中で自身の言葉になるのをじっくり待つしかないと考えているから。これ以上の伝え方が思いついていないので、アイデアがあればぜひ教えてほしいです。

■希望もまたある

ここまで書いてきたけれど、事態はそう悪くないと思っている。最後に希望の話をする。
というのも、そもそも「私、名誉男性かも」という言葉が出てくること自体には大きな僥倖を見いだせると思うのだ。
つまり、社会がこれまでの好ましからぬ伝統を脱却する方へ向かっていることを、個人的な納得を超えたところで感じ取れる段階まで前進しているということ。興味のない人にも「なんか今までのままだとダメらしい」という危機感を抱かせるところまで来た!
グージュ、ウルストンクラフト、ボーヴォワール、あなた方から受け継いだものが、ようやくここまで来ました。

筆者自身はたまたま興味を持って自分から学びにいけたにすぎない。もしもこういったジャンルに興味が湧かないルートを辿っていたら、彼女らと同じように自分の現状に危機感を覚えて、傷つく可能性が視界にちらつきつつ「私、名誉男性かも」と打ち明けることができた自信がない。当たり前にできることじゃない。

まだ反省すべきことの心当たりがない状況でも自分を顧みて、「私、名誉男性かも」という言葉が出てくる人たちの進歩的な感覚は、素直に尊敬の念を抱かせるものだ。尊敬するし、こういう人がいてくれると世の中が可能性に満ちて見える。よき隣人として並んでいられるように、自分のなすべきことをしていきたい。

取り急ぎ、この記事によって「名誉男性」という言葉を自力で調べて知識をつける体験をした人が何人かいるはず。そしてそのはじめの一歩を踏み出したら、続く文中であえて注釈なしで出した#metooや『全裸監督』や岡村隆史の件、グージュやウルストンクラフトやボーヴォワールについて調べる心理的ハードルもずいぶん下がっただろう。中にはすでに検索して帰ってきた人もいるかもしれない。
そういう人の数をどれだけ増やせるのかが自分のなすべきことだと、今は思っている。

Photo/Nanami Miyamoto(@miyamo1073

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ヒラギノ游ゴ

ライター/編集者

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