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SOSだったかもしれない言葉について

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連載『そんなこと言うんだ』は、日常の中でふと耳にした言葉を毎回1つ取り上げて、その言葉を聞き流せなかった理由を大切に考えていくエッセイです。#5では、某若手女性俳優の方が番組で口にしていた言葉から、"キラキラ女子"と呼ばれるような人について考えていきます。

SOSだったかもしれない言葉について

■「ちゃんと話を聞いてくれる人」

前々回「顔むくんでるね」、前回「女呼ぼうぜ」と実体験ベースの話が続いてかなり憔悴したので、一度少し筆者の体験から離れる。今回取り上げる言葉は「ちゃんと話を聞いてくれる人」。ある日つけっぱなしにしていたテレビから耳に入った言葉だ。

口にしたのは若手の某女性俳優で、「かわいい」「美人」の代名詞として名前が挙がるような有名人の1人だ。彼女がバラエティ番組で司会者から「好きなタイプは?」と訊かれてこの言葉を返した。

そもそもこういった質問自体が気持ちのいいものではないんだけど、今の放送倫理からすれば別段問題にならないものなんだろう。むしろ返答のほうこそやや風変わりなものかもしれない。「優しい人」とか「おもしろい人」とか「くしゃっと笑う人」とか、通り一遍の答えではなかったから。ただ筆者はこの言葉を聞いて、案外これは切実な話かもしれないと思ったんだ。そのとき筆者が思い浮かべたのは、いわゆるキラキラ女子的なる人たちを"喋れない"人間だとみなす振る舞いのことだった。

そんなこと言うんだ

Twitterを始めてからずっと違和感がある。筆者は元々、顔写真や本名を伏せたアカウントでSNSをやる気はさらさらなく、周りにそういう友達もいなかった。みんな友達同士でだけ繋がって、その輪の外にいる人に向けて何かを発信することはまずない。筆者はいまだに5ちゃんねるの見方がわからないし、学生の頃の友達はみんな似たようなネットリテラシーだった。

筆者が今のようなアカウントを始めたのは単純に、大怪我をして半年入院することになってめちゃめちゃ暇でめちゃめちゃ寂しかったからだ。だからTwitterにいるインターネットにディープに慣れ親しんだ人たちに対していまだに住む世界の違いのようなものを感じることがある。

特に強烈な違和感を覚えたのが、一部の「非モテ」や「陰キャ」や「あの呪いの2文字」などの立場を内面化した人たちの声の大きさだ。ホームルームでは静かだったあの子たちの一部が、強い言葉を使っていわゆるキラキラ女子的なる子たちをこき下ろしていた。「自分は弁が立つ」というアイデンティティを誇示するように、自分に言い聞かせるように攻撃的。そして彼女ら彼らはネットによって可視化されただけで、ずっと世界に存在してきた人たちだ。さっき住む世界の違いと書いたけど、きっとこの表現自体が思い上がりで、彼女ら彼らとずっと一緒にこの世界で暮らしてきたのに、筆者には見えていなかったにすぎない。

そんな一部の人たちにとって「キラキラ女子」や「陽キャ」や「ウェイ」、古い言い回しを引っ張ってくると「リア充」「一軍」「DQN」「スイーツ(笑)」などなどの層の人間は、人の心の機微に鈍感で害悪な、くだらないポップカルチャーを好み芸術を解さない化物だった。

■キラキラ女子にはことばが必要だ

一部の攻撃的な人たちは、いわゆるキラキラ女子的なる人たちを「喋れない」存在と見なす。言葉を知らないし、考える知性もない存在らしい。タピオカミルクティーを飲み、EXILE TRIBEを聴き、テラスハウスを観ている奴らは何も考えていないバカで、自分たちのような真に価値のあるカルチャーに触れている人間より劣る感性を持ちながらでかい顔をしているひどい奴らだと。

Twitterで初めてそういった言説に触れるようになり、攻撃を受けている側の子たちとつるんできた筆者はかなり面食らった。

この連載ではあまり用語を使わないことにしているからこの1文に集約しておくけど、彼女らはインセルによる怨嗟やマンスプレイニングの的にされるほか、発言の機会は「黙ってればかわいいのに」といったトーンポリシングで圧殺される。ちなみに今出てきた3つのカタカナの解説は記事の最後にまとめた。

最近でいうとタピオカもそうだけど、ナイトプールが普及しはじめた頃なんかは特にひどかった。

ナイトプールへ行くような奴はミーハーで、浮ついた、自意識過剰で、頭の悪い人間だと断じて、好き勝手な書き込みをする人をたくさん見かけた。その内容というのも「プールは写真を撮るところじゃない、泳げ」といった聞くに堪えないズレきった話だった。ナイトプールは明らかに写真を撮るところだ。

ナイトプールでなくても自撮りのためにプールへ行く人はいるし、泳ぎにいく人もいるだろう。筆者にとってのプールは水を抜いてスケボーをやるところだ。あらゆるものがそうであるのと同様、プールにも複数の用途がある。「重曹は頑固な汚れを落とす洗剤として使うもので、パンケーキをふわふわにするために使うなんて間違ってる」みたいな話で、単純に自分の狭い視野を他人に押しつけようとしてアホが露呈して恥をかいているのに本人が気づいていないだけだ。ステルスレイダーくらい高速で空回っている。

魔女狩りもあった。「非モテ」の立場から発言しようとする人が「美人」であろうものなら「お前は真の非モテではない」と「真の非モテ」からバッシングを浴び発言を遮られる。見聞きした覚えがないだろうか。

当たり前に思考して生きている人間が「喋る能がない」と見なされ、「喋れる非モテ」である自分たちには彼女らを貶める権利がある、という態度には心底ゾッとした。

■SOSだったかもしれない言葉をあつめて

あの女性俳優は自分から積極的に喋るような人ではない。共演した年上の男性俳優から「現場の華」呼ばわりされていたこともあった。これは褒め言葉ではなく、彼女が実力や実績のある働き手として見なされていないということだ。常に「黙ってそこにいてくれるだけでいいから」という態度に晒されている。彼女を取り巻く男性の多くが、彼女の話す言葉に興味を持っていない、学ぶべきことがあるなんて考えてもいないんだとしたら、絶望は深い。

キラキラ女子にはキラキラ女子の地獄がある。彼女らを攻撃してきた人たちにも地獄がある。自分の地獄が眼前に迫ってきていると、視界の端にある他人の地獄は目に留まりにくい。あんたはあんたの地獄でずたずたになりながら戦ってきたんだろう。首を右か左に少し振ってみてほしい。あんたがこき下ろしていた子たちが、あんたと別の種類の地獄にあんたと同じ表情で苦しんでる。

あの「好きなタイプ」は、もしかしたらSOSだったのかもしれない。そういう一つひとつのSOSに努めて敏感でいたい、というのがあの言葉を聞いて考えたことだ。勘ぐりもお節介も本意じゃないから、不安が確信に変わったときすぐ動けるように、SOSに聞こえた言葉を頭の片隅に覚えておく、くらいの距離感を大事にしている。

参考と言ってはなんだけど、この連載の次の回で筆者の友人のあるキラキラ女子的なる子の話を書こうと思っている。今回書いたようなことを考えるに当たってヒントを提供してくれるはずだ。

※インセル:自分が性的な経験を得られていないことを他責化し、世の女性に憎悪を募らせる人のこと。

※マンスプレイニング:man(男)+explain(説明)。女性は自分(男性)より無知であると断じて男性が女性に上から目線で解説をおこなうこと。

※トーンポリシング:話者の主張をくみとらず、言い方の問題だ、冷静な言葉遣いでないと議論に値しないとしてシャットアウトし、話をすり替える行為。

Photo/Nanami Miyamoto(@miyamo1073

『そんなこと言うんだ』バックナンバー

#1「ママ、いろんなことがわかんなくなっちゃうから」

#2「お前ら、なんだし」

#3「顔むくんでるね」

#4「女呼ぼうぜ」

#5「ちゃんと話を聞いてくれる人」

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ヒラギノ游ゴ

ライター/編集者

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