家にいるのに家に帰りたい/辰巳出版/クォン・ラビン
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【TheBookNook #47】は、八木奈々さんが選ぶ、心に寄り添う韓国エッセイ3冊をご紹介。強すぎず弱すぎず、日々の疲れや葛藤をそっと包み込む言葉が、あなたの生き方にやさしい風を届けます。
「大丈夫?」と聞かずに、ただ隣に座っていてほしい――
そんな日におすすめしたいのが “韓国エッセイ”。
強すぎず、弱すぎず、一度吹いてはふと止まって、また吹いてくる。
まるで古い扇風機のような言葉たち。
何かを強く肯定するわけでも、否定するわけでもありません。
並べられているのは、派手な物語とはほど遠い、ただ“生きている”ということばかり。
それが、韓国エッセイ。
大丈夫じゃないときに読めば、涙がとまらなくなり、大丈夫なふりをしているときに読むと、痛いほど沁みる。
あなたも韓国エッセイデビュー、してみませんか?
一見、矛盾しているように思えて、なにひとつ矛盾していないこの真っ直ぐなタイトルに惹かれ、気づけば購入していたこの作品。この韓国エッセイには特別な事件も、派手な言葉も登場しません。
ただ、静かに、著者の感情や過去と向き合いながら、前半は人生、後半は恋愛の断片が描かれていきます。私たち読者は、その語りをただ静かに聞くだけ。意見を求められることも、次の展開にハラハラさせられることもありません。
でも、それなのに、不思議と心が満たされていく感覚に、初めて、自身が疲れていたということに気づかされます。
本のタイトルにある“家”が、著者であるラビンさんにとって意味することはなんなのか……、読み終えた後しばらく考えました。
大きな病気にかかっているわけでも、今すぐ誰かの助けが必要なわけでもない、でも、どこか毎日息苦しくて、呼吸ができる居場所を探しているそんなあなたの近くをそっと通りかかるラビンさんの言葉たち。
他人ごとのはずなのに、まるで自分ごとのように一つひとつの言葉に胸が締めつけられます。
彼女も、その周囲の人たちも、みんな幸せになってほしい。読後、素直にそう思えた自分を抱きしめたくなる一冊でした。
本作は、内向型と外向型、双方の特徴をリスペクトを交えながら、著者の体験を通して丁寧に解説していく韓国エッセイ。
生きていくうえで欠かせない“社会性スイッチ”。それをオフにした途端ぐったり疲れたり、口に出したことをぐるぐる考えすぎたり、ときに大切なスイッチが故障したり……。
それでも“人と関わるのを諦めないで”と、背中を押されるような強引な読後感でした。
内向的、外向的のどちらか一方が秀でているのではなく、それぞれに長所があり、それぞれの苦しさがあり、全ての人がその両方に当てはまる……とのこと。
内向型であることによって苦労や損をしているのではと思うことがあったので、その呪縛から少し解放されたような気持ちになれました。
「ディナーの約束をしないわけ」
「冷酷な犯罪捜査ものが好きなわけ」
「寡黙な美容室のお得意様です」
……これ、私のこと?と思わず口にしてしまうほど共感の嵐。
明るく社交的に見えるあの人も、いつも笑顔のあの人も、毎朝、社会性スイッチを入れて、社会の一員を演じているだけなのかもしれません。
日々生きる中で、小さく、もやっとしたときに、ぜひ読んでいただきたい一冊。
“自分のために生きる”心の整理ができるかもしれません。そう、他の誰でもない、自分のために。
“人生の大半はつまらないのだから、そのつまらない時間を幸せに過ごそう”。
この作品は、会社勤めとイラストレーターの副業で疲弊していた著者が、何の計画もなしに退職し、過去を振り返りながら次の生き方を見つけていく……人生のシフトダウンを推奨する韓国エッセイ。
プロローグからユーモアを含んだ軽快な文章が印象的だったので、ぜひ、店頭で手に取って冒頭だけでも読んでいただきたい…。
自分の自由や時間を売って得たお金で、自由や時間を買う、狂った社会。「お金は稼げば稼ぐほどよい」「努力は正義」……なんて世間の“正解”に捉われてしまえばしまうほど、人生というのは生きづらいもの。
でも、今、生きているのは“自分”の人生。そんな当たり前のことにすらハッとしてしまいました。
自分の価値観で考えることを辞めてしまっている全ての大人に贈りたい、回復薬のような一冊。
読後は、自身の過去の失敗や挫折を辿りながら、まだまだ悩みは尽きないけれど、でも、それでもいいし、そんなものなのかも……と、自分の呆れるほどの不完全さを、少し愛してあげたくなりました。
韓国エッセイを読むときのルールはひとつ、「頭で理解しようとしないこと」。
大前提として、ここに“正解”はありません。
本にある内容が正しいとか正しくないとか、わかるとかわからないとか、そんなこと考えなくていいのです。
流し読みでも大丈夫。
本当に必要な言葉は、どんなに飛ばし読んでも、すっと、目と心に飛び込んでくるもの。
楽をすることはできなくても、もう少し楽に生きるヒントが見つかるかもしれません。
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