銀座千疋屋 銀座プレミアムアイス&ソルベ PGS140
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【TheBookNook #48】では、冷たく甘いアイスがスッと溶けるように、読み終えた後に静かな温もりが残る3冊を八木さんがセレクト。村上春樹×糸井重里『夢で会いましょう』、川上未映子『愛の夢とか』、乙一『夏と花火と私の死体』――アイスが鍵を握る不思議な短編と青春サスペンスで、夏の読書時間をひんやり彩ります……!
暑い日にふと食べたくなるのがアイス。
そして不思議と似たように手を伸ばしてしまうのが本。
どちらも手に取ったその瞬間は冷たく、甘く、口の中にすっと溶けていくけれど、食べ終わった後、読み終わった後には手の中があたたかく、心の奥に残る何かがあるもの……。
今回ご紹介するのは、そんなアイスがほんの少し顔をのぞかせる物語たち。
ひんやりした甘さと、ちょっと不思議な余韻を残す読書体験をお届けいたします。
この夏、物語の中のアイスクリームが溶けてしまうまえに。
本作は、同時代を代表するふたりの著者がつづる競作ショートショート集。ルールはひとつ、カタカナ文字の外来語を用いること。不思議なものでパッと文章を見ただけでどちらが書いたのかが分かります。
そこに意味があるのかないのか、ギリギリの文章たちが炸裂。描かれていく世界観がどこまでも自由で、シュールで、振り回されっぱなし……だけれど、そこに少しの楽しみを持たせながら私たち読み手にしっかりと最後まで読ませる文章に仕上げるのは、やはりこのおふたりだからこそ。
ショートショート集だと油断していましたが、いい意味で読むのに長編以上のエネルギーを使いました……。
そんな本作品でアイスが登場するのは、「ブルーベリーアイスクリーム」という題の一編。“ブルーベリーアイスクリームが食べたい”と夜中の2時に突然言い出した彼女。そのリクエストに応えるためにタクシーに乗ってブルーベリーアイスクリームを探しに出かける彼。
このあらすじからは到底想像できないような展開にきっとあなたも振り回されます。全編を通して、夢で見たことをそのまま書き起こしたような“意味不明”なお話ばかりなので、はっきりとした結果や落ちを求める方には向かないかも。
この作品は、“よくできた夢”を話し上手の人から聞くような気持ちで読むのがおすすめです。
本作は、はっきりとした感情になる前の、不確かな“感覚”が描かれた表題作を含む7つの短編集。
劇的な変化ではないけれど色鮮やかな一瞬、そういうものが人生にはあるのだと信じたくなる一冊でした。
湿度を越えて流れゆく文章が水流や嘔吐や寝息のようで、同著者の「すべて真夜中の恋人たち」もそうですが、とにかく“薄暮”の使い方が私はたまらなく好きです。
著者独特のふんわりとした文体の幻想的な短編でさらりと軽く読めるのに、少し深く考えてしまうとぞっとするような後引くお話ばかり。
ピアノの音に誘われて始まる女同士の交流を描いた表題作や、アイスクリームのように溶けてなくなる恋の話など。なかには人の死を扱っていたりと、冷静に考えればヘビーなお話でも重くなりすぎない文体の影響か、どの編も軽やかで、心地のいい音楽を聞いているような一冊でした。
そんな本作でアイスが登場するのは、「アイスクリーム熱」という題の一編。アイスクリーム屋で働くわたしと、2日おきにアイスクリームを買いに来る彼。
そして、物語は意外な展開を迎えます。全編を通して、物語を読んでいると言うより頭の中で自分自身と会話しているような読書体験でした。皆さまにもぜひこの違和感のあるあたたかさを感じていただきたいです。
乙一さんのデビュー作でもある本作品。当時、なんと16歳。信じられない完成度に多くの人が驚愕しました。
殺されて死体となった九歳の“わたし”とそれを隠そうとする兄妹のひと夏の大冒険。そう、死体目線で描かれていくのです……このあらすじだけでもガクンと物語に引きずり込まれます。
恐ろしいほど淡々と語る“わたし”が妙に大人びていて、どこか他人事で、とても残酷な物語のはずなのに、ずっと死体である“わたし”目線で語られるその子供らしい口調に、気づけば兄妹の死体隠しを応援してしまっていた自分がいてドキッとしました。
途中までは私たち読者をミスリードさせ、最後にひっくり返すこの構造。安易に予想できたはずなのに、その予想が当たった試しは一度もありません。
少し難解な設定ではありますが、すっと頭に入ってくる文章でストレスなく読め、展開がテンポよく進むこともあり一気読みできてしまう方も多いと思います。
あと何より解説が的確すぎて面白い。死体である語り手の感情が、あえて抑えられていることで、逆に私たち読者の想像力を刺激し、ホラーというよりもサスペンス性を高めています。たった16歳の少年が描いたこの物語の無邪気で残酷な展開と、描かれていない乙一少年(16)の背景を、多くの人に味わっていただきたいです。
本作のどこでアイスが食べたくなったのかは、読んでからのお楽しみで。
今回は、夢と記憶とちょっと奇妙なアイスクリームのような三冊を紹介しました。
暑い夏、あえて暑い場所で冷たいアイスを食べるのは至福の時間です。少し大人の味のラムレーズン、迷った時の王道バニラ、そして少し背筋がスッとするレモンシャーベットなど……物語に登場した味に合わせてアイスを選んでみるのもまた楽しいかもしれません。
アイスで思い出す物語、あなたにもありますか……?
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★DRESS 連載:『ときめきセルフラブ』について★
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自分の“好き”を探求しながら、オトナの性をもっと楽しく、自分らしく楽しむヒントをお届けします。セルフプレジャーブランド「ウーマナイザー」監修のもと、商品ごとの魅力や楽しみ方を徹底解説も……。
⬇︎第1回は、こちらから⬇︎
「ウーマナイザーに男性向けもあるって知ってた?【ときめきセルフラブ #1】」
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