読めばきっと好きになるSFの世界(短編集)【TheBookNook#9】
SF作品は好き嫌いが分かれやすいジャンルといえるかもしれません。でも連載「TheBookNook」Vol.9では、八木さんが短編に絞って選定してくださったので、どれも読みやすく、気軽に読み始められるはずです……!! ぜひ軽率に手に取ってみられてください。
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
“SF”ときいて皆さんは何を思い浮かべますか?映画でいえば“スターウォーズ”や“バック・トゥ・ザ・フューチャー”などが有名ですが、そんな圧倒的自由な非現実世界で繰り広げられるのがSFの世界の特徴です。
どのストーリーも読めば読むほどに嫌でも惹き込まれてしまいます。ただ、興味はあっても小説だと最後まで読み切れるか不安で手を出せずにいるという声もよく聞きます。もったいない……。
難解に思われがちなSF小説ですが、SFと一括りにいっても扱うテーマは多岐にわたり、なかには驚くほどサクッと読めるものも存在するのです。
今回はSF好きな人はもちろん、初めての方にもおすすめのSF小説をより手に取りやすい“短編集”に絞ってご紹介させていただきます。まとまった読書時間がとれない人や集中して読むのが苦手な人でも短編集であれば気兼ねなく物語に浸ることができるはずです。
1.星新一『ボッコちゃん』
日本のSF作家の第一人者でもある、星新一のショートショート集。なんと作者自らが選んだ50もの作品がこの一冊に集約されています。荒んだ人間社会への皮肉や教訓、起こり得そうな未来にゾクッとしたり……かと思えばクスッと笑えたり。50年以上も前に書かれた作品とは思えない世界観と、想像できそうでできない結末に何度でも搔き乱されたくなります。
一作一作の物語はかなり短いにも関わらず、展開が二転三転するスピード感とそのオチを理解した後にもう一度読まずにはいられなくなる表現力の高さに気づけたのは大人になってからでした。星新一、恐るべし。
2.キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』
韓国人SF作家の初短編集。本作はコミュニケーションを主題に、コールドスリープやファーストコンタクト等SFの定番ネタを盛り込んで紡がれていきます。SF要素が強いのに不思議と物語に住む人たちは現在の私達とそれほど心持ちは違わず、親しみやすいのが印象的です。
そう、なんといいますか、SF小説を読んでいたつもりが、いつのまにかどうしようもない現実に目を向けてしまっているような……一度読んだら癖になる面白い読書体験でした。
もしこの物語の結末にあなたの心が動いたとしたら、現代で自分がすべきことは何か、“片手間に”考えてみてください。かなり引力のある作品なので読後の感情は自己責任でお願いします。
3.倉田タカシ『あなたは月面に倒れている』
短編でも強い刺激を感じたい人におすすめの作品。正直かなり変化球でぶっ飛んでいるお話も多いですが、SF特有の独特な世界観と特異な設定は健在です。読みながらも私は今何をしているのだろう……と我に返ったり、そうかと思えば背筋を伸ばして足早に読み進めてみたり、ときに独特な表現から脳内の配線に直接触れられたような感覚に陥ります。
理解が追いつかないまま進む物語が苦手な人は少し読み疲れてしまうかもしれません。でも私はこの本を手に取った自分を誇りに思います。最後に、この短編集への敬意をこめて私が読後に抱いた感情を残します。
「最高の時間の無駄遣いでした」。
■SFの世界を味わうならまずは短編から
いかがだったでしょうか? 今回の3作品からはあえて外しましたが私は12歳の頃、日本のSF作家、“筒井康隆”さんから小説の世界にグッと魅了されました。難解なイメージをもたれがちなSF小説ですが、一度その魅力にハマると心ごと掴まれ抜け出せなくなります。まずは忙しい合間にも手軽に読める短編から、SFの世界に飛び込んでみてください。
■「TheBookNook」について
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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