ちょっとそこまでひとり旅だれかと旅/幻冬舎/益田ミリ
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「本選びのすゝめ【幻冬舎編】【TheBookNook #25】」では、八木奈々さんが益田ミリ、尾形真理子、小川糸の作品を紹介。心温まるエッセイや短編集が揃い、幻冬舎ならではの魅力を楽しめます。ぜひお手に取ってみてください。
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
出版社別で出会う本選びのすゝめ、第三弾。
今回は書籍の出版のみならず、企業ブランディングにも特化する「幻冬舎」さんの魅力をお届けさせていただきます。
※ 画像はイメージです。
誰もが一度は耳にしたことがありそうな村上龍さんの『13歳のハローワーク』や木藤亜也さんの『1リットルの涙』、他にも下村敦史さんの『同姓同名』など、さまざまな話題作を取り扱う「幻冬舎」さんですが、今回はそんな中でも比較的読みやすい“短編集”と“エッセイ”にジャンルを絞ってご紹介させていただきます。
ぜひ、「幻冬舎」さんにしかない魅力を味わってみてください。
図書館で目にすると必ず手に取ってしまう益田ミリ氏の作品たち。ほのぼのとしたイラストや物語の中にもピリッとひりつく言葉が潜んでいて、毎度、本の厚み以上の満足感を得られるのが印象的。
一度読んだら忘れられないフレーズを私の中にもたくさん残しています。もちろん本作品も、一気読みでした。
「昨日まで知らなかった世界を、今日の私は知っている。」という一説から始まる、いわゆる旅エッセイですが、旅エッセイとは思えないほど俯瞰した角度から描かれていて、ワクワクしている感情の描写さえ、極めて冷静かつ、癖になる言葉たちで描かれていきます。
地図も写真もなく、名所がたっぷり載っているわけでもないけれど、ガイドブックを見ているよりもソコに行ってみたくなるし、食べてみたくなる。ほんの少しの想像力をもてば、旅先の空気に触れているような気さえしてきてしまいます。さすが、益田ミリ。
ざっくりとした旅の費用が書かれているのも有難い。まだ知らないはずの旅先のできごとや、ちょっとした呟きに、わかるーっと共感しながら読んでしまう人も少なくはないはずです。
私もいつか、ちょっとそこまで。
高校生の頃、装丁とタイトルに惹かれて購入したこの作品。路地裏にひっそりと佇むセレクトショ
ップで一着の服を買う5人の女性の短編恋愛小説。
倦怠期や不倫、さまざまな恋の悩みをもつ女性たちが、セレクトショップで繰り広げる“すきま”の時間。同じ試着室の鏡を通して自分の気持ちと向き合っていく主人公たちの物語はどれも驚くほどに前向きで、必死で、少し×××……。
共感できる恋も、できない恋も、どちらにも感情を揺さぶられる二日酔いのような感覚に苛まれると
同時に、暖かい気持ちが全身を駆け抜けました。彼女たちの“その先”が知れないもどかしさからなのか、
結末を委ねられた安心からなのか、次に私が恋をするときは、この短編集のエピローグみたいな恋がしたいと恥ずかしげもなく思えてしまったほど。
眩しすぎるくらいに、すがすがしいほど大人の恋たち。読後は今までよりも少しだけ素直に、丁寧に、周りの人や自分の気持ちと向き合おうと思える一冊でした。そう、「可愛くなりたいって思うのは、ひとりぼっちじゃないってこと。」
今年の2月に発売された小川糸さんの最新エッセイ。コロナ禍の一年間のことが日記帳で綴られて
いくのですがもうこれはエッセイというより、小川糸さんそのもの。
いい意味で、特別感心するような発見や刺激のない他人の人生を丸窓から覗いているような感覚に浸れます。執筆活動が忙しいに違いないのに、味噌や石鹼、アイスクリームに梅干しなど、なんでも手作りしてしまうバイタリティーをみて感心すると同時に、『ツバキ文具店』のぽっぽちゃんのあの暮らしの丁寧さは、小川糸さんの実生活がベースになっていたんだ……と驚いたのもつかの間。ライオンのおやつは『エンドオブライフ』を先に読んでいたら書けなかったのかもしれないこと、ベルリンの話が無くなったり、ペンギンさんが出てこなかったり。
とにかく小川糸さんの作品を読んでいればいるほど分かるアレコレと、“小川糸”という人間そのものがこの作品にはたくさん詰まっています。それと同時に、どのページから読んでも楽しめるほど日常の切り取り方が絶妙で面白く、並んだ言葉もすっと頭に入ってくるため、初めて小川糸さんの文章に触れる方にもおすすの一冊です。
読後は暮らしを愛する気持ちが戻ってくるので、日々の生活がちょっと荒れてきたぞ……と思ったら、ぜひ。
いかがだったでしょうか。今回は、「幻冬舎」さんから短編とエッセイに絞ってご紹介させていただきました。
余談ですが、つい先日、このテーマに引っ張られて幻冬舎文庫を2冊、あらすじも知らないまま衝動買いしてしまいました。読む前からワクワクするこの感覚、久しぶりです。みなさんの日常にも、刺激的な本との出会いが広がりますように。
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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