モモ/岩波書店/ミヒャエル・エンデ
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せわしない日々のひとコマに、チルなひとときを……。連載「TheBookNook」は、本がとにかく大スキな著者がお届けする“本と人との出会いの場”。不朽の名作から知る人ぞ知るマニアックな作品まで幅広く取り上げます。一冊の本からはじまる唯一無二の“新しい物語”の世界に浸ってみませんか。
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
皆さんにとって素晴らしい本とは何ですか?
私にとって素晴らしい本とは、私をここではないどこかに連れ出してくれたり、作者独自の物事のとらえ方を教えてくれたりする本。
本を読んでいると、そこにある言葉や景色に触発され、私はいろいろなところへ旅をします。
というのも、私にとって本とは殆どの場合、“知識を得るための手段”ではなく“思考をするための手段”だからです。世の中の書き手のある全ての作品は、その人の思考、人生そのものであると私は考えています。
他者の思考、人生に、たった数百円、数時間で触れる事ができる。いわば最も簡単な人生のチート技が“本を読むこと”だと思っています。
この連載では、本が好きな人は、どんな事を考え、何を楽しみ、感じているのか。そんな事を交えながら、私のおすすめの本をテーマに沿って紹介していきたいと思っています。
「本を読むのが苦手。何をどう面白がっていいのか分からない。でも、気にはなる」
そんなよく耳にする不都合を解決できるような連載を志しています。
『モモ(Momo)』(ミヒャエル・エンデ:著、大島 かおり:翻訳 / 岩波書店)
初回となる今回ご紹介するのは、小学生の私を旅に連れて行ってくれた思い出の本です。きっと多くの人が目にしたことのある小学校の図書室にも置かれているあの厚い特徴的な絵が表紙の一冊、ミヒャエル・エンデの『モモ(Momo)』 。
この物語のテーマは「時間」。少女が“時間泥棒”によって奪われた時間を取り戻しに行く物語です。最後には無事に“ソレ”を取り戻すことができるのですが、そのために少女がしたことは、ただ、相手の話を聞く事だけでした。
本作は現代人が見失いがちな“時間の大切さ”を訴えているだけではなく、時間とは何か、命とは何か、死とはなにか、という誰もが心に一度は抱く問題をファンタジーという手法を使って子供にも分かる言葉で考えさせてくれる作品です。
灰色の男達が言葉巧みに奪っていく“時間”。でも当の本人たちは、失われているのは単なる“時間”ではなく、“自分らしく生きる命”だという事に気づいていない。作中にある「人間とは時間を感じ取るために心というものがある」という一節からも、作者エンデさんは本作を通じて“時間とは命そのものである”ということを伝えたいのだと私は感じています。
はたして小学生の私はどんな感想を抱いたのでしょうか。思い出せそうにもありませんが、きっとまたすぐこの物語にある言葉達に会いたくなるような気がしています。
児童文学ではありますが、時間に余裕がない、毎日があっという間に過ぎていく“大人”にこそ触れてほしいおすすめの一冊です。
今連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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