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タイトルと物語の温度差が凄い。掻き乱され小説。【TheBookNook #7】

中身を知らずにタイトル買いするのはリスクがあるけど、ときには成功することも。読後にタイトルに戻って「ああそうか」と腹落ちする。そんな楽しみ方もいいものです。連載「TheBookNook」Vol.7では、タイトルと内容の温度差に心を揺さぶられる三作です。ぜひ手にとって、刺激的な読書体験を。

タイトルと物語の温度差が凄い。掻き乱され小説。【TheBookNook #7】

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

新しい本を手にするとき、皆さんは何を基準に選びますか?

その本の装丁やタイトル、作家、評判、帯にある言葉、惹かれる理由はさまざまだと思います。ちなみに私は図書館にある“最近返却された本”というコーナーが好きで、そこから無造作に本を借りることも多いです。

写真はイメージです。

そんな数ある本との自由な出逢いのなかで、タイトルと物語の温度差が激しい作品に出会ったことはありませんか? 美しい装丁やタイトルからはとても想像もできないような物語に触れた後、改めて目にするその表紙がまるで初見のように感じられることもあります。

今回は、物語の面白さだけではなく、視覚から掻き乱される感覚を皆様に味わっていただきたく、読む前と読み終えた後の感情の差が激しいと私が感じた作品を紹介させていただきます。

1.中島京子『妻が椎茸だったころ』

日常の片隅に起こる、ちょっと怖くて愛おしい、5つの偏愛短編集。夢と現実が交差するような奇妙さで、不思議な夢を見たけれど、どこからが夢だったか思い出せないときのような読後感を味わえます。

吸引力のあるタイトルから抱いた印象とはまるで違う、静かに歪んだ登場人物と、心温まる話なのに、読後しばらく経ってから時間差でゾクッとくる気味の悪さ。背筋をなぞる不安感が病みつきになります。

私は表題作と最後のお話が特に好きでした。タプタプの余韻に浸りながらも、“特に感想はない……”と言ってしまいたくなる。これがこの作品の感想です。

2.村上龍『限りなく透明に近いブルー』

著者の処女作にして芥川賞受賞作品。タイトルの美しさと表紙の青に惹かれ手に取ってしまったこの作品。

ドラッグ、セックス、暴力、依存。文体から滲み出てくる匂いや感覚が妙に生々しく、中学生の私は途中で読み進めるのを断念してしまいました。

そして大人になって再読。相変わらず作中で蠢(うごめ)く薬や性の描写はとても強烈で、その容赦ない不快感に耐えられず、日常のフィルターを通しながらでなければ向き合えませんでした

でも、本当に一瞬だけ、この物語に刹那的な希望を見ました。いや、見間違いかもしれません。この本を手に取るときはどうか自己責任でお願いします。

3.高瀬準子『おいしいごはんが食べられますように』

こちらも芥川賞受賞作品。仕事と食事、三角関係、それぞれの正義。他人に弱さを見せることを許される者とそうでない者。これは虚無とも絶望とも諦めとも違う。でもその全てが含まれていて、読了後には致命的な感情の静けさが襲います。

暖かい表紙と祈りのようなタイトルでありながら呪詛のようにも思える本作品。うっかり落とした一滴の“黒”が何者かによってかき混ぜられてしまう恐怖、終始息苦しさに苛まれるのはきっと誰もが感じたことのある妙に生々しく身近な感情が重なるからかもしれません。一気読み必須な作品です。

■読書の締めくくりにタイトルと装丁を眺めてみては?

どんな本でもタイトルや装丁には何かしらのメッセージが込められていると私は考えています。ぜひ、皆さまも本を読み終えた後、改めてタイトルの字体や色、装丁に目を向け、思考を自由に巡らせてみてください。もう一歩深い、本の世界へ踏み込めるかもしれません。素敵な読書ライフが広がりますように。

\八木奈々さんの過去記事はこちらから/

「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook #1】」
「暑い夏には熱い物語を。【TheBookNook #2】」
「行きたい国に思いを馳せて【TheBookNook #3】」
「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook #4】」
「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook #5】」
「秋の夜長を味方に。【TheBookNook #6】」

■「TheBookNook」について

この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。

一冊の本から始まる「新しい物語」。

「TheBookNook」“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。

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↓ 前回ご紹介作品 ↓

「秋の夜長を味方に。【TheBookNook #6】」

1『旅のラゴス』筒井康隆
2『夜のピクニック』恩田陸
3『舟を編む』三浦しをん

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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