\八木奈々さんの過去記事はこちらから/
・「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook #1】」・「暑い夏には熱い物語を。【TheBookNook #2】」
・「行きたい国に思いを馳せて【TheBookNook #3】」
・「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook #4】」
・「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook #5】」
日頃、せわしなくしていると、ついつい子供心を忘れてしまいがちですが、ピュアな気持ちになるとなぜか安心できるものです。連載「TheBookNook」Vol.5では児童文学を三冊ご紹介します。大人になった今だからこそ改めて手にしたい作品たち。安眠のお供に、ぜひどうぞ……。
皆さんは「児童文学」と聞いて、何を思い浮かべますか?
大人気映画『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』『ナルニア物語』など、大人になっても意外と触れる機会の多い“児童文学”。
昔、読んだ名作も、大人になった今だからこそ違う捉え方ができ、子供のころには理解できなかった物語の“奥深さ”や“作者のメッセージ”にも気がつけるかもしれません。
写真はイメージです。
今回は、私たちの凝り固まった心をじんわりと解してくれる暖かみのある作風の「児童文学」を日本の作家さんに絞って紹介させていただきます。
どの作品もスラスラ読めるものばかりなので、できるだけ中断せずに読み切るのがおすすめです。展開に甘えて漠然と読み進めるのではなくて、あの頃に戻って騙されたように真っ直ぐに児童文学の世界に入り込んでみてください。
宮沢賢治の死の直前まで変化し発展し続けたと謳われる未完の名作。彼の思想の集大成とされていますが、同時に多くの謎を含んでおりその評価はさまざまです。
表題作のほかに「よだかの星」「ひかりの素足」「貝の火」なども収められています。描かれた世界がどれもあまりに透明で、正直、浸れないし追いつけず、手を伸ばしても届かない感覚と同時に、それと対照的な登場人物の孤独やラストの展開に何度読んでも良い意味で振り回されてしまいます。
原作はやや難解ともいわれていますが、分かりやすく再構成された新編/漫画版なども出版されていますので、一度読むのを断念した方も、ぜひ宮沢賢治の世界に飛び込んでみてください。
小学校の教科書にも載っている日本児童文学の名作。衝撃的な結末に子供の頃は好きになれなかった方も多いのではないでしょうか。でも実は、教科書に掲載されている“ごんぎつね”のラストと、原作のラストは少しだけ異なります。
ごんが最後に本当はどんな気持ちを抱いたのか、主人公がこの先背負うもの、そして教科書に載るまでになった理由。大人になった今だからこそ、この救われない物語に込められた“もうひとつのメッセージ”を、美しい挿絵とともにぜひ味わってみてください。決して悲しいだけの物語ではありません。
小学生の男の子が突然異世界冒険に巻き込まれ、仲間と共に竜に立ち向かう本作品。現実に帰るために“この世で一番大切なもの”を見つけないとなりません。
これは別世界で無敵の救世主となりボスを倒す……というありがちな“冒険もの”ではありません。特別な力を持っていないのに試練を乗り越えていかなくてはならないという状況に、大人なら誰もが共感できると思います。
分かりやすく教訓的な物語と童話特有の“黒さ”が垣間見え、大人になっても楽しめる作品となっています。これぞ児童文学。“あとがき”にある皮肉ともとれる作者の言葉まで逃さずに読んでほしい一冊です。
いかがだったでしょうか? 今回は数ある日本の児童文学の中から「名作」と呼ばれているものを三作品紹介させていただきました。
頭を使わずに心だけでも受け取れる児童文学は、物語でありながら、ときに、手紙のようにも感じられます。
どんな自分も受け止めてくれるお守りのような本が一冊でも心にあると、とても心強い気持ちになるものです。いや、本でなくても構いません。歌でも、映画でも、なんでもいいんです。
ここにいる皆様が、今夜、安心して眠れますように。
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
▼前回ご紹介作品▼
「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook #4】」
1『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ
2『きりこについて』西加奈子
3『本日は、お日柄もよく』原田マハ
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。