高野聡美(SARAMI)が格闘技者として美しい3つの理由
格闘家・青木真也さんの連載がスタート。青木さんが格闘家として魅力を感じる人々を各回につきひとり取り上げて、なぜそう思うのかを紐解きます。その人が輝きを放つ理由、そこから学べることは、格闘家ではない私たちにもたくさんあるはずです。
はじめまして、格闘家の青木真也と申します。
女性の格闘技が盛り上がりを見せるなか、彼女たちの魅力を伝えていけたらと思っています。
良いものは性別関係なく良いはずだし、必ず伝わるはずだと信念を持って書いていきますので、よろしくお願いします。
第1回目で取り上げるのはSARAMIという女性の格闘家です。本名、高野聡美。
SARAMIは格闘技者として優れています。というのも、彼女は格闘技者として必要なものすべてを備えているから。
練習への姿勢はもちろん、肉体の強さや闘志、人を惹きつける表現者としての力。
彼女は僕の盟友であり、国内トップファイターである北岡悟選手が運営する格闘技道場「パンクラスイズム横浜」に所属しています。北岡悟選手への想いも重なって、初回からエモい文章になりそうです。
1.女性ではなく、一格闘家として闘う
いつからそうなったのか定かではありませんが、女子格闘技大会では主催者の意向で選手が水着で計量をするのが定番になっています。
水着で計量すればメディアで話題になるのは当然わかります。ただ、「セクシー」「色っぽい」といった「女性」を売りにして盛り上げるのは長続きしないし、フェアではありません。
むしろ試合そのものが話題になるようにしてほしいし、それこそが選手へのリスペクトだと思っています。
SARAMI選手は水着で計量をしません。ここに「私は格闘技者である」とのプライドを感じるし、僕はその姿を見て格好いいと感じます。
彼女はインタビューなどで、「自分は他の女子格闘技選手と違う」と吐き出すことがあります。これは優秀な格闘技者であるのだけれども、まだ結果が出ていないことからあふれる悔しさを表現していると思います。
では、何が違うのかと聞かれれば、その違いを答えられるのは少数でしょう。彼女の技術力の高さや取り組みをわかる目を持った人間は、当然だけれども少ない。どうしても女性性を強調した選手に注目が行くことになるからです。
ただ、そんな彼女の葛藤が僕には魅力的に映ります。SARAMIは表現者としても魅力的です。
格闘技選手として女を売りにすることはないSARAMIだけれども、普段の彼女は服やヘアメイクに気を使っている女性です。
いつもは素敵な女性ですが、格闘技に女性らしさを持ち込まないところがフェアですし、格闘技者として尊敬を持って接することができます。
2.女子格闘技ではなく、格闘技に取り組んでいる
北岡悟選手は「彼女には女子格闘技ではなく格闘技をさせている」と公言しています。
彼が求める格闘技は、並の男子選手では続かないくらいハードなものです。というと、「女子格闘技ではなく格闘技」という言葉の重みをわかっていただけるでしょうか。
女子格闘技というとどうしても柔らかいイメージがありますし、技量や取り組みが伴わない選手もいます。
彼はSARAMI選手に対して、男子選手と同じ格闘技を伝えていますし、男子選手と同じ練習体系にしています。
「女子だから」と特別扱いしないところに女子格闘技、彼女へのリスペクトを感じています。
彼女の取り組みもすごいのです。彼女は地元・富山で格闘技を始めて、強くなりたいという一心で上京してきました。だからこそ格闘技にかける想いも人一倍強いし、練習への取り組み方にも圧倒されます。
男子選手に混ざり、彼らと遜色のない練習をします。その中で北岡悟選手が投げかけるアドバイスが男子選手と変わらず、それを受け止め、実践する様が心地よいのです。格闘技者としての尊敬を感じます。
3.運命に抗う強さがある
2018年3月10日、格闘技団体「JEWELS」アトム級タイトルマッチにSARAMI選手は挑戦しました。
北岡悟選手がジム開設後、初のタイトルマッチをしたのがSARAMIでした。彼女の初戴冠したい気持ち、北岡悟選手のジムに初のチャンピオンベルトを持ち帰りたい、という気持ちはSARAMIも応援していた僕も一緒だったと思います。
試合は1Rにダウンをとるものの、追い上げられて判定負け。運命がはじめから決まっているものだとしても、それを受け入れず戦う姿は魅力的に映ります。
この試合が終わっても、彼女は運命に抗うことを続けています。いつか必ずベルトを掴んでほしいし、掴めると信じています。
■楽しみながら闘い続けてほしい
女子格闘技の世界で、選手活動を生業にしている選手は、数えるほどしかいません(男子も大して変わりませんが)。
彼女も例に漏れず、他に仕事を持ってやっています。スポンサーがいるわけでもないし、スポンサーに気に入られるほど器用にもなれないはずです。
仕事をしている時間を練習時間に充てたいと考えるのは当然ですし、彼女が師事する北岡選手は選手活動を生業としています。
それに憧れるのは当然のこと。ここまで格闘技が好きで探求しているのであれば、格闘技で生きていってほしいと心から思うし、僕自身も業界を厚くしていかねばと感じています。
これから彼女の歩む格闘技人生がどのようなものになるか誰にもわかりません。わからないから不安なのだろうし、わからないから楽しいのだと思います。
望むものが手に入らなかったとしても、厳しい結果になったとしても、納得して闘いを終えてほしいし、楽しかったと心から感じて闘いを終えてほしいです。
格闘技に携わったすべての人がやってよかった、楽しかったと思ってくれることを心から望んでいます。
写真/SARAMI選手に提供いただきました。
青木真也さんの連載バックナンバー
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