おまえの罪を自白しろ/文藝春秋/真保裕一
posted with カエレバ
ときには、いつもの自分らしくなく振る舞って気分を変えたい。そんなときってありますよね。【TheBookNook #53】は、“柄にもなく”気分を変えたい日におすすめの読書体験を。少し浮かれた気分で選んだ一冊が、思わず背中を押してくれるスイッチになるかも? 八木奈々さんが綴る、“いつもと違う自分”に出会えるレビューです。
“柄にもなく”なんて言葉が似合うくらい、今日は少し浮かれた気分でいたい。
いつもなら選ばない色を身につけてみたり、ちょっとした冒険をしてみたくなるような日。
そんな気持ちにぴったりと寄り添いながら、さらに一歩、背中を押してくれる一冊があるとしたら……わくわくしませんか?
本の世界にも存在する、“気分を上げるスイッチ”。
思わず笑ってしまうやりとりや、息を呑むような展開。
胸の奥から湧き上がる高揚感……。
ページをめくるたびに自分ではない自分が顔をのぞかせ、身体中が満たされていく。
そのスイッチがどこに隠れているかは、物語に触れた人にしか分かりません。
今回は、そんな“柄にもなく”テンションを上げたい日に読んでみてほしい“スイッチ”が隠されている物語を三冊ご紹介させていただきます。
本を読んだその勢いのまま外に飛び出したくなるような、“柄にもない”読書体験をぜひ味わってみてください。
物語は、衆議院議員の孫娘が誘拐されるところから始まります。犯人の要求はお金ではなく、会見での“罪の自白”。政治家たちの権謀術数と誘拐事件のリミットがせまる緊張感で一気見したこの作品。もちろん単なる誘拐小説ではありません。
映画化もされている本作品ですが、私は映画を観て衝撃を受けました。結末を変えただけではない、先に原作を読んだ人だけが味わえる騙しの仕掛けがあったのです……。気になる方はぜひ、読んで、観て、体感してみてください。
孫の命か、政治生命か。簡単なようで難解な選択。正直、政界の話が続くため、難しく退屈に感じる方もいるかもしれません。でも、だからこそ、“いつもと違う自分でいたい日”にはぴったり。
胸糞な思考回路に苛立ちを覚える瞬間もありますが、立場の異なる人物たちが、ぎりぎりの局面でどう動くのか、頭が追いつけないまま読み進めていても不思議と胸が熱くなり、いつしか自分自身にも「もし同じ立場だったら」と問いかけられているような感覚になります。
重厚なテーマを扱いながらも、どこか他人事のように読み進められるため、気持ちを引っ張られてしまうことはなく、最後まで楽しく読み終えることができました。
冒頭の導入が面白い分、ラストの展開に物足りなさを感じてしまう人もいるかもしれませんが、本作は物語をそのまま受け取るのではなく、家族や人間の葛藤に光を当てて読むことで、読後に流れる空気がまた変わってくる作品だと思います。
そして、いい意味で、読後に本を放り投げたくなる一冊でした。この感情の真相はあなたの目で。
「豊臣家はまだ生きている」。無論、このことは誰も知らない……。
四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と、大阪下町育ちの少年少女だった……。
帯にある“大阪全停止”の文字に惹かれ、手にとったこの一冊。その一言から突拍子もないフィクションかと思いきや、現実にあり得てしまいそうな描写の数々、かと思ったら、再びとんでも設定の世界に……。
万城さん、面白いとは聞いていたものの評判に違わずでした……。
そして、ひしひしと感じる大阪愛。具体的な固有名詞である地名がふんだんに使われており、その突拍子もない物語に妙な説得力すら持たせています。どこまでも荒唐無稽なのに不思議と納得させられる……そんな納得のいかない感覚がたまらず、自身の中の大阪人が顔を出したかのように小さく突っ込みながら、最後まで楽しく読み進めることができました。
もちろん、ただのおふざけ小説ではなく、存在していないけれど存在しているかもしれない“大阪国”を軸にして、親子、男女、権力と民意、それぞれのストーリーが混じり展開されてゆく、まさに万城目学ワールドとしか表現できないこの作品。
丁寧かつ強引に、私たち読者を物語の世界へ巻き込んでくれます。
落ち込んだ日に思い出したくなる読後感でした。
「15年前の女性教師の自殺は殺人だった」。
本作は、時効直前の一件の通報から緊急再捜査が始まる、タイムリミット24時間の物語。そう、たった一日の出来事が一冊に描かれているのです。
物語は過去と現在を行き来しつつ進んでいくのですが、驚くのは現在の描写のほとんどが取調室をメインとした警察署内の場面で描かれていくこと。そしてそれが本作の“味”になっていること。
これが横山氏のデビュー作というから驚きです……。
世の中にある物語の多くは、その登場人物の誰に感情移入するかで読後の感想が変わってくるものですが、本作は登場人物それぞれの心情に胸を打たれながら、最後まで誰に傾くこともなく読み進めることができました。
話が動き出すまでの序盤は多少の退屈さを感じるかもしれませんが、少し進みだしたと思ったら途端に流れ込むような展開に胸が高鳴ります。
終盤では、それまで点在していた伏線が一気に集約していく様子が面白く、一見、盛り込みすぎとも感じられるさまざまな事件も交通渋滞を起こさずにきれいにまとまっていて、小説なのにまるで映像を見ているような感覚を味わえました。
明かされた犯人が衝撃だったのはもちろんですが、ある人物があるものを見つけてしまうシーンは、犯人が分かったときの何倍も鳥肌が立ちました。
読んだというよりも読まされた一冊。今夜のお供に、ぜひ。
今回は、あえて映画化もされている3作品で纏めてみました。
いつもと違う自分でいたいとき、少しだけ気分を上向きにしたいときに、そっと寄り添ってくれる、あなたにぴったりの一冊が必ずどこかにあるはずです。
普段手にとらないようなジャンルの物語の中に、小さなスイッチを見つけてもらえたら嬉しいです。
文字を読むのが苦手な方はぜひ、映画で楽しんでみてください。
--------------------------------------------------------
★DRESS 連載:『ときめきセルフラブ』について★
--------------------------------------------------------
自分の“好き”を探求しながら、オトナの性をもっと楽しく、自分らしく楽しむヒントをお届けします。セルフプレジャーブランド「ウーマナイザー」監修のもと、商品ごとの魅力や楽しみ方を徹底解説も……。
⬇︎第1回は、こちらから⬇︎
「ウーマナイザーに男性向けもあるって知ってた?【ときめきセルフラブ #1】」
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。