昔の人はできていた……のか?「月経血コントロール」を検証する

昔の人はできていた……のか?「月経血コントロール」を検証する

「昔の女性は月経血を膣に溜めておき、トイレでまとめて出していた」といった言い伝えを聞いたことがある方もいるのでは。でも、それって本当? 実現可能なの? できていたとしても、果たして体に良いの? 宋美玄先生が検証します。


子宮や卵巣が体の外から見えないこともあり、女性の体は神秘的にとらえられることが多いですね。子宮や骨盤など女性の体についてはいろいろな神話がありますが、どこまで本当なのかこちらで検証していきたいと思います。

その中でまことしやかに伝えられている一つが、「昔の女性は月経血を膣に溜めておき、トイレでまとめて出していた」というものです。お聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。今日はこちらの真偽について検証したいと思います。

1.本当に昔の女性はそうしていたのか?

昔の人はそうしていたのに、現代女性は快適な生活や生理用ナプキンの普及によりそういった能力が失われてしまった……などと言われていますね。しかし、日本を含む世界各地で月経中の女性が隔離されていたり(日本でも川の上に建てられた「月経小屋」に月経中の女性が集められて血を垂れ流していたという記録があります)、月経血が毒物や邪悪なものとして扱われてきました。魔女狩りの原因になったという記録もあり、昔の女性にもそのような身体能力がなかったということがわかります。やがて、生理用ナプキンの普及に伴い、女性の社会進出が促進されました。それなのに恩恵を忘れて「生理用ナプキンのせいで体が鈍った」(他にも「婦人病が増えた」「体が冷えた」など言われていますね)というのは、体の「平和ボケ」と言っていいでしょう。

2.本当に女性の体はそのようなことができるのか?

では、体を鍛えればそのようなことができるようになるのでしょうか? 私たちは尿や便を溜めておき、トイレで排泄することが可能ですね。尿や便はどうして月経血のように勝手に体の外に出てこないかと言いますと、尿道や肛門には括約筋があり、止めておくことができるからです。でも、膣はそのような構造にはなっていません(注1)。

よく「膣トレ」により骨盤底筋を鍛えると閉めたままにできるというような説が流布していますね。俗に「骨盤底筋」と呼ばれている、「膣トレ」と呼ばれる運動で鍛えられるのは恥骨直腸筋という筋肉ですが、これを収縮させると肛門の後ろから恥骨の方に向かって収縮するので、膣の入り口は後ろから前へ引っ張られる状態になります。しかし、膣の「フタ」である小陰唇は左右から膣を閉じる構造になっているので、恥骨直腸筋が収縮して前後に膣を閉めても、小陰唇がジップロックのようにぴったり閉まることはなく、密閉は不可能です。
骨盤底筋ではなく、大陰唇の皮下脂肪の膨らみが大きく、小陰唇が十分に大きい場合は膣からものが出てきにくくなりますが、これは生まれ持った体の特徴であり、身体能力とは別物。そして、その際も密閉することは不可能です。

3.できる人がいたとして、それが本当に健康にいいのか?

それでも、人類は何十億人もいますから、中には恥骨直腸筋を収縮させれば膣の入り口を隙間なく閉じられる構造の人がいてもおかしくありません。でも、そうやって恥骨直腸筋を収縮させ続けることがいいことなのでしょうか(恥骨直腸筋を収縮させ続けるというのは、ずーっと膣トレを続ける状態です)。
恥骨直腸筋は「速筋」で、収縮させるとどんどん太く硬くなっていきます。そうなると排便や娩出(お産)の反射が起こりづらくなります。そもそも骨盤底筋は何種類もの筋肉の集合体であるのに、恥骨直腸筋ばかりに力が入り続けるのは生理的な状態ではなく不自然です。代わりにもっと奥の骨盤底筋は緩むことになります。そして、やってみるとわかりますが、呼吸もうまくできませんし、起きている間中恥骨直腸筋に力を入れ続けるのはまず無理で、緩んだ隙に経血が流れ出てしまうでしょう。

このように、「昔の人はできていた」ということ自体が「昔は良かった」系の神話であり、そもそもヒトの女性の体は骨盤底筋(恥骨直腸筋)を収縮させたところで膣が密閉できるようにはなっておらず、特異体質で密閉できる人がいたとしても健康的とは言えないということが検証されました。

女性の体は神秘的と言いますが、単に体のメカニズムを知らないためにファンタジーワールドが作り上げられていることは少なくありません。もちろん、陣痛がいつ来るのかなど解明されていない部分は多いですが、解剖や生理学をひもとくだけで「なーんだ」ということはよくあります。こちらではまたいろんな説を検証していきたいと思います。

(注1)厳密には、膣の入り口の両脇にも非常に薄くて細い括約筋が存在します。一度経膣分娩を経験すると断裂してしまいます。出産後に陰唇の格好が変わることがあるのはそのためです。


この記事のライター

産婦人科女医・性科学者。現役産婦人科医として、都内の病院で診療に従事すると同時に、セックスや女性の性、妊娠などに付いて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。

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