他力本願な「結婚したら幸せになれる」を卒業するコミュニケーション術

他力本願な「結婚したら幸せになれる」を卒業するコミュニケーション術

友人から紹介され、話題の新書『夫に死んでほしい妻たち』を読んだ兎村彩野さん。その内容に衝撃を受けた兎村さんが、幸せな夫婦であり続けるためのコミュニケーションのとりかたを考えます。


コラムを連載するようになってから、いろいろな場所で人生相談をされることが増えました。とくに夫婦仲とか夫婦生活とかに関する相談が多いです。そんな中、先日、友人に「最近売れてる本なんです。タイトルも内容もびっくりしちゃうんですけど」と1冊の本を教えていただきました。

『夫に死んでほしい妻たち』というなかなかハードなタイトルの本でした。正直、タイトルだけ伺ったときに、えっ? とドキドキしましたが読んでみました。私のコラムは書評ではないので、本の感想は控えさせていただきますが、いろいろな考え方の人がいるなぁと思いました。

本を読み終えて「どうしてこんなに妻や夫は息苦しい言葉になってしまったのだろう?」とずっと考えていました。そんな中、夫にこんな本を読んだよと話をして、内容を要約して説明したら「男だから働くとか、女だから家事をするとか、僕はそういうふうに性別で優越つけるような感覚や発想がないからなぁ。手が空いてる方が家事をすればいいじゃない。家がキレイだと気持ちいいでしょ?」と感想をもらいました。

私の中であまりにもその言葉が心地よく、相手の心の深いところにすーっと引き寄せられて安心して隣に座ったような感覚がありました。

■コミュニケーションには2つある

私は何度か連載のコラムの中で「人と人はコミュニケーションが大事」ということを書いています。
私が思うコミュニケーションというものには2種類あって、一つは相手の今日の予定を知っているとか、晩ご飯は家で食べるのか食べないのかとか、生年月日はいつだとか、血液型はなんだとか【 情報の共有 】です。これは日常の行動を先回りして考えることができるので、予定を立てるのに便利です。

もう一つは、相手や自分の考え方や感じ方、その考え方に辿り着いた過去の経験などを話し聞き、お互いの内側の心の深い部分を想像し合う【 価値観の共有 】です。過去のエピソードを交えて話すのは、お互いに似た経験をしていると、聞く側が自分の経験を思い出し、相手の過去の状況を想像しやすいというメリットがあります。たとえ話も有効で、角度を変えて話をするので、見えにくいものが見えやすくなることがあります。

前者は日常の中で頻繁に行われているコミュニケーションですが、後者は意識していないと遠くに置き忘れてきてしまうことがあります。どちらも同じくらい大事なコミュニケーションですから、本来は天秤の両方に乗せておかなければいけないのかなと思っています。しかし、意識をしていないと、前者のコミュニケーションだけになってしまい、相手が何を考えているのか・自分がどう考えているのか迷子になってしまうことがあります。

■情報と価値観の共有がスムーズにできれば、人間関係は心地よくなる

私はどんな人間関係も【 情報の共有 】と【 価値観の共有 】が上手くできていけば比較的良好な関係が築けるのではないかなと思っています。それが恋人でも友人でも夫婦でも親子でも仕事でも。情報が共有できていれば状況がわかるので、自分で考えて良いと思える行動ができてストレスが減ります。 価値観の共有ができていれば、信頼できますし、得意不得意もわかります。考え方の癖も見つかります。どうして相手がそういう行動するのかを想像しやすくなるので、相手の行動で怒りを持つことは減ります。怒らない関係はとても快適です。

コミュニケーションによる共有には相手のために行動できるヒントがたくさんあるので、結果、みんなで上手く動いていくことができます。【 情報の共有 】と【 価値観の共有 】を両方してみて相性が合わなければ無理に合わせて付き合うこともないですし、かといって自分と違う人たちを否定するコトもなくなります。「いろいろな人がいるなぁ」とだけ思えるようになります。

■夫、妻、男、女ではなく、ひとりの「人間」として捉えてみる

コミュニケーションをとるときにとても大切なことは、なるべくフラットな状態でいることでしょうか。概念をなるべく入れずに話を聞き、演出を極力減らして話す。こういう会話は楽だなぁと私は思っています。

夫婦でこの「コミュニケーションが良好な関係」が築ければ、こんなに素晴らしいことはないなぁと思っています。良好な関係は単純に楽しいです。

この関係を作るために、まず概念のフィルターとしての「夫」「妻」、「男」「女」という【 役割のフィルター 】【 性別のフィルター 】を外してしまい、ひとりの「人間」として相手も自分も捉えると、とても楽になります。役割や性別で分ければ世界は大まかに2つになってしまいます。しかし、人間と捉えると、人間全員がたった1人しかいないオリジナルになり、世界を分けることができなくなります。人を分けない視点で物を考える。実はこの状態がコミュニケーションのスタートラインになります。

■フィルター越しに世界を見るから人間関係がつらくなる

ふっと思ったのですが、人間関係を息苦しくしているのは自分の中にある「概念のフィルター」ではないでしょうか。概念は言い換えれば自分が思い込んでしまった凝り固まった価値観なのですが。「そのフィルターは本当に自分で考えて見つけたフィルターか?」「そもそもフィルターって必要か?」フィルターというグループ分けを常に意識的に疑っていないと、人はフィルターで世界を見たつもりになってしまい、相手の本当の素顔を隠してしまいます。

社会という大きな世界の中で人間をグループに分けて考えることはとても簡単でわかりやすいですが、同時にとても怖いことだとも思います。オリジナルで生まれてきた命をグループでどんどん分けていくというのは、人々の心や顔をぼやかしていく作業のように感じてしまいます。夫婦という関係にフィルターをどんどんかけていくと、相手の本当に姿は見えなくなっていくのでしょう。その状態で相手と家族でいると、毎日顔は合わせているはずなのに、だんだん何を考えているのかわからなくなり、遠い存在になっていきそうです。

「相手を知る・自分を知ってもらう」というコミュニケーションは、とても大変な作業で、ありふれた「コミュニケーションは大事だから大事にしよう」くらいのふわっとしたことでは多分できるようにはならないのだろうなぁと思います。毎日毎日訓練して、自分の頭で一生懸命考えて、相手を最大限の広さで想像して。とても気も遣うし、その作業の仕方は学校では教えてもらえません。自分で見つけていくことでしか得られない能力なのかなと思っています。非常に後天的な能力だなと感じます。なので言い換えれば努力すれば誰にでもコミュニケーションするチカラはつくとも思えます。

■尽くすよりもふたりでコミュニケーションをとり続ける努力を

結婚生活において、他力本願でいるとなかなか幸せになれないのは、きっとこのコミュニケーション能力が主体的に身につけようとしなければ、手に入らないものだからでしょう。自力本願でなければ、人は幸せになれない。「結婚したら幸せになれる」というのが幻の物語である理由を私はこう思っています。

幸せな夫婦でいる努力は「相手のために家事をして尽くす・相手のために働いて稼ぐ」だけではなく「ふたりでコミュニケーションをとる努力をし続ける」。こちらがとても大切なのだろうなぁと思っています。

夫・妻、男性・女性というフィルターを外し、パートナーをグループ分けせず、ありのままのひとりの人間としての素顔を見続ける。そしてたくさん聞く。何を思っているのか、何を考えているのか。どんな経験をしてきたか、どんな環境にいたか。今日の晩ご飯のおかずを聞くのと同じくらいに。誕生日のプレゼントに何がほしいのか聞くのと同じくらいに。心がどうして作られたのかを聞く作業はとても大切です。

【 相手のために・自分のために死ぬまでコミュニケーションをし続ける 】というのは夫婦の究極の愛情表現の1つだと信じています。相手が死んでしまったらコミュニケーションはもう二度とできなくなるので、生きている今のうちに。愛情だけはケチらずに面倒がらずに、お互いに。

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この記事のライター

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウ...

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